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Mario Scherrer “Squares And Crossings”
これも謎物件!こう言うのは買ってしまうんですよねー。性ですねー。業ですねー。と言う訳で、このMario Scherrer (マリオ・シェレァー)なるアーティストのことを少し調べてみました。スイスのアーティストで、ソロとしては、1986年にカセット作品を1本出していますが、同じ時期に、Nordland (ノールランド?)と言うバンドに参加して、Discogsでは、1985年〜1993年までリリースはしていたみたいです。それで、Scherrerによる本作品の制作経緯についてライナーノーツに記述がありましたので、それを和訳してみます。元々、Scherrerは、スイスRomanschornで生まれ、大学で音楽科学/音楽史とギターを学んでおり、その後、Der Tages-AnzeigerとBasler Zeitungで、音楽や文学についての記事を書いていたそうです。そんな彼から見たZürichは、次のようなものでした。1980年代に、スイスでは、市が無理矢理執行した文化補助金に対抗して、Züri brännt(ツゥーリ・ブレント)暴動が起こっており、その為、Zürichの若者は文化プログラムを解体されていたのです。そんな中で、特にPlatzspitz公園は、ヘロイン中毒者が集まるようになり、別名”Needle Park”とまで言われるようになります。それに対して、当局は、違法薬物の取引もその公園内であれば見て見ぬ振りをしてやり過ごそうとしますが、逆に欧州中の売人とヤク中が集まってきてしまい、Zürichの街には、犯罪とヤクのやり過ぎ、使用済み注射針と暴力と怒りが蔓延してしまいます。そんな中で、Scherrerは、1986年に本作品”Squares and Crossings (Discogsでは”The Guild”となっています)”をCalypso Now(Hotcha氏が始めたスイスのカセット・レーベルで250本弱カセット作品を出している)からリリースします。これは、スイスの音楽評論家達が執筆していたThe Guildと言う連載雑誌の発案でしたが、この動きに反応したのは、Scherrer 1人であったようで、直ぐにパンク・ムーブメントでかき消されます。ただ、その一方で、ニューウェーブ、ポップ、ミュージック・コンクレート、即興、詩作、アンビエント等もごちゃ混ぜになっていき、これには、ダダの本拠地であったCabaret Voltaireの存在も大きく関わっていたようです。なので、本作品は、正にスイス・サブカル・シーンの歴史の一部を切り取ったもの考えられていたようです。彼自身によると、本作品は「境界無き音楽 (Boundless Music)」と捉えているようです。
それで、先述のNordlandについても、もう少し触れておくと、Nordlandは、1985年にMario ScherrerとPriska Weber (後のScherrerの妻)とAnna Kellenbergerの3人によってZürichにて結成されたシンセウェーブ・バンドで、1986年に4曲入りのセルフタイトルEPを、翌年にはシングル”Just Keep It Away"を、1989年には初のフルレングズ・アルバム”Mistery"をリリースしています。因みに、その時のメンバーは、Mario Scherrer (Vo, B, Kbd, Drum Machine, Sampler), Priska Weber (Vo, G, Kbd, Drum Machine), Hermann Eugster (Drs)でした。何でもMontreux Jazzフェスとかにも出演して、Virgin Franceからも声を掛けられたこともあったようですが、それを蹴っています。因みに、Scherrerは、スイスでは、7年間クラシックギターの先生をしており、その後、1年間、スペインMadridのスイス人学校で音楽教師もやって、更にその後、イタリアに移住して、1993年に、NordlandとしてCD”Three Clouds”を自主リリースしています。現在、Scherrer/Weber夫妻はスイスに戻り、Scherrerは、スイスの片田舎Trogonの高校で、18年間、独逸文学の教師をやっており、時々、Ingalill名義でライブをやっているそうです。
それでは、漸く、本作品について紹介していきます。先述のように、Mario Scherrerにとっては、本作品は個人的にも、スイスのサブカルチャーの歴史的にも重要なものです。そして、ハッキリとクレジットされてはいませんが、どうも彼1人で制作したもののようです。彼の持っていた機材は、Tascam Portastudio 4-Track MTRと2チャンネルの古いオープンリール、HH Electronics社のエコー, Roland TR-808 Drum Machine, Fender Jazz Bass JX3P, Krog Classical Guitar 1978, Microphoneと簡単なテープレコーダーとのことで、これ以外にもシンセも持っていたようですが、詳細なクレジットは不明です。それでは各曲を紹介していきましょう。
◼️LP1
★A1 “Some Different Men”は、ミニマルなシーケンスとマシンリズムに乗って、SE的な電子音やシンセと共に、リバーブの効いたVoや口笛が聴取できる良質なシンセウェーブな曲です。
★A2 “The Came Along”は、シンセによるSE音から徐々にパルス化して始まる曲で、LFOに合わせて、Bとリバーブの効いた語り調のVoが乗ってきます。ちょい実験的?
★A3 “An Old Familiar Cry”では、マシンリズムにBとポリシンセに加えて、バリトンVoで歌ってます。曲自体はしっとり系。ちょっとだけHuman Fleshっぽい?
★A4 “Sin-Claire”は、シーケンスに合わせて、可愛らしいシンセのメロとウニョウニョした電子音が飛び回るインスト小曲です。
★B1 “Inside Of You”は、電子アンビエントな曲で、やや冷んやりした感触ですが、そこに呪文のような低音Voが忍び込んできます。
★B2 “Occultus Introitus”は、多層的なシンセ音によるミニマルな低音とメロ的高音とから成る電子室内楽で、インスト曲です。
★B3 “Is David On The Floor”は、始め多層的シンセから成るアンビエントですが、その内、凝ったマシンリズムと共にダルなVoとシンセ・メロとベースラインに転換する、ゆったりした曲です。
★B4 “Way Off”は、最初からエコーVoと通奏低音から成る曲で、段々とポリシンセやシンセメロが立ち現れ、ボディブローのように効いてきます。
◼️LP2
★C1 “You And I”は、ちょっと凝った打ち込みリズムと持続シンセ音及びBがバックを務め、1人語り風Voが乗ってくる曲です。時に小鳥のようなシンセ音も!
★C2 “Kabbala”では、多層化した声のループと宇宙的シンセ音が混ざり合っていますが、その内、雷のようなシンセ音やLFO音に代わって終わります。
★C3 “By The Square”も、リズムはあるものの、ポリシンセ音とシンセベース(?B?)に埋れるような呟きVoが密かに入ってきます。曲自体はミニマルですね。
★D1 “Schürfung”は、暗めのトーンの波状シンセで始まり、そこに宇宙音が絡んでくるインスト曲です。
★D2 “Crossing”は、またもや声のループが多層化していく実験的な曲で、女性Voや、更に男性Voもどんどん加わってきます。
★D3 “Fragment III”も、録音速度を弄ったシンセ音(?)やグルグルした電子音が主体を占める実験的な曲で、うっすらとリズムパタンが混じっています。
★D4 “Liturgica”は、深ーい、本当に深いアンビエントな曲です。思わず、良い心地になってしまいます。
★D5 “Nothing To Explain”は、軽めのマシンリズムに合わせて、シンセ・ベースとポリシンセをバックに、やはり呟くような不明瞭なVoが乗る曲です。
★D6 “Fashion Time”も、マシンリズムにポリシンセの持続音とベースラインをバックに、呪文風Voが乗る曲です。
ここまで聴いてきて、バイオグラフィーでのScherrerの当時の証言のようなヤサグレたものは殆ど感じず、寧ろ、アンビエント調の優しい音楽が主体を占めており、そのギャップに驚かされます。同じスイスのGranzoneとはまた違うスイス地下音楽界を垣間見れたのは貴重な体験でした。そんな訳で、暴力とヤク中の中からこんな優しい音楽が生まれたのは何故か?と考えさせられました❗️興味のある方は是非体験してみて下さい!
D5 “Nothing To Explain”
https://youtu.be/ovpFiyDVzII?si=o8x-aJSy6wRAqqaW
[full albums]
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lIRLx9nS80jbRKqQvhk0VUb3Ot3GO4I70&si=3LoRQIOF0iFbDkiG
[オマケ: Nordland “Around The Circle's Ground”]
https://youtu.be/v5wXeQpo1c8?si=2KG_iAEIbz_59IdL
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