Lena Platonos “Balancers”

0

昔、仕事(学会出張)で、ギリシャに行ったことがありますが、その時に空港を降りて先ず感じたことは、「文字が全然読めん」と言うことでした。その位、ギリシャ語は全く読めなかったんです(まあ、今も読めませんが)。そんなギリシャの女性アーティストLena Platonos (Λένα Πλάτωνος)の過去作品のセルフ・コンピ・アルバムが、この”Balancers (Εξισορροπιστές)”です。しかし、これも謎物件で、なんでこれを買ったの?と自問しています。ただ、彼女は1980年代初頭から現在まで割とコンスタントにリリースを続けていますので、そこそこ有名なアーティストだと思います。それで、彼女についてちょっと調べてみました。Platonosはピアニスト兼電子音楽作曲家で、特に1980年代のアテネの電子音楽シーンではリーダー的存在だったそうです。また、ギリシャの放送局Hellenic Broadcasting Corporation (ERT)の子供向け音楽番組 "Lilipoupoli"に参加していたので、有名だったそうです。もう少し詳しく書きますね。彼女は、ギリシャのCrete生まれで、父親が有名なピアニスト兼作曲家であり、彼女自身も2歳からピアノを習っています。その後、彼女は、アテネ音楽院に進み、18歳でプロのピアニストになっており、1963年にはKatie Papaioannouコンテストで一等賞を受賞しています。その後、彼女は国外での修行の為、ウィーン音楽芸術大学、それからベルリンにも進学します。そこで、彼女はロックやジャズ、東洋の音楽にも触れるようになります。その後、指揮者コースの為に一旦帰国しますが、Heracles Triantaphyllidisと彼のバンドDNA(No New Yorkのバンドではないです)と協力する為に、1975年に再びベルリンに行きます。最終的には、1978年に帰国して、彼女の夫Dimitris Marangopoulosと共に、先述のERTの第3放送で働くことになります。この時のディレクターManos Hatzidakisとも知り合いになり、これが縁で、彼女は、″Lilipoupoli″を放送することが出来、そこで流される音楽の歌詞や作曲を担当することになります。それとは別に、彼女は、作詞家Marianina Kriezis, ”Lilipoupoli”でも一緒だったSavina Yannatou及び歌手Yiannis Palamidasの協力の元、1981年にファースト・アルバム”Sabotage”を出します。このアルバムは、ギリシャ語で歌われており、またギリシャ録音の最初のシンセ作品となります。しかし、実は、このアルバムの前に既に完成していた作品があり、それは、詩人Kostas Karyotakisによる13篇の詞に、彼女が音楽を付けたもので、便宜上、セカンド・アルバム”Karyotakis - 13 Songs”となっています。その翌年、12曲のミニマルかつエレクトロニックなアレンジを施したサード・アルバム”Manos Hatzidakis ’62″を出しています。その後にリリースした3枚のアルバム″Sun Masks″ (1984年作), ″Gallop″ (1985年作, ″Lepidoptera″ (1986年作)は、彼女が、電子音楽、実験的な手法、オーケストレーション及びギリシャ語の歌詞への方向転換を決定づけた代表作となります。これらの作品は、ミニマル・ミュージックでもあり、声には電子フィルターが掛けられ、印象的なKbdが多用される音楽形態となっています。上記3つのアルバムの制作中も、Gianni Rodariの詩に子供用の音楽を付けたアルバム”The Sound and its Errors″を出したり、1986年には、他のギリシャ人音楽家Michalis GrigoriouやVangelis Katsoulisと共に、アルバム”Music for Keyboards″を出していたりもします。1989年には、アンデルセン童話に基づいた子供向けオペラ作品”The Emperor’s Nightingale″を出したり、より落ち着いてダークなアルバム”Spasimo Ton Pagon (The Breaking of the Ice)” (1989年作)と“Mi Mou tous Kiklous Tarate (Do Not Disturb My Circles)” (1991年作)を出したりしています。また、1990年には、Dionysis Savvopoulosと協力してライブ演奏も行い、ライブ・アルバム”Retrospection ‘63-‘89”を出し、翌年には、Dimitra Galaniと協力して、John Lennon等の曲をアレンジしたアルバム”Myths Of Europe”も出しています。その後、Platonosは沈黙しますが、1997年に、Savina Yannatouと共に、派手な電子音楽ではなく、より JazzyとかArt Music的な抑制的なアルバム”Breaths”を出しています。と同時に、ギリシャの電子音楽シーンで有名なアーティストによる彼女の曲のカバーを集めたアルバム”Lena Platonos’ Blender”もリリースされています。2000年には、Thodoros Poalasの詞に音楽を付けて、Maria Farantouriが歌うアルバム”The Third Doorway”を出しており、2003年3月に行われたアテネ・コンサート・ホール(Megaron Mousikis Athinon)でのライブ・ショーでは、あっという間にチケットはソールドアウトしています。また、2005年には、彼女の歌詞集”My Words”が出版され、2008年2月には、CDシングル”I Loved You”が、Eleftherotypia新聞の日曜版で取り上げられています。また、同年3月には、自動書記的な本”Diaries”も出版されており、彼女は電子音楽を再開しています。同年に7月には、彼女の音楽をレトロに見直すコンサートが他のアーティスト達によってOdeon of Herodes Atticusで開催されています。2010年には、Savina YannatouとYiannis Palamidasと共に行ったPallasでのライブ録音を2枚組CDで出しており、同年12月には、エジプト系ギリシャ人Constantine P. Cavafyの詞に音楽を付けるコンサートを生誕150周年として行っています。そうして、2015年に、米国Dark Entries Recordsが、彼女のアルバム”Gallop”をリイシューし、国際音楽誌や非ギリシャ系DJが注目し、Boiler RoomやBeats In SpaceからDiorのファッション・ショーでも彼女の曲が掛かるようになります。2015年には、Platonosは、初めて英国詩人Emily Dickinsonの英詩に音楽を付けたコンサート”Hope is the thing with feathers″をOnassis STEGで披露しています。また、2016年末には、DJデュオRed Axesが、彼女のアルバム”Gallop”のリミックス4曲から成るEPをリリースし、翌年には、Dark Entries Recordsも、彼女の曲”Sun’s Masks”のリミックス作品をリリースしています。2017年には、コロンビア大学の比較文献社会学の教授Stathis Gourgourisが、自身の著書の中で、Lena Platonosの現代ギリシャ電子音楽への貢献について、Laurie Andersonと比較して考察しています。そうして、2021年には、先述の”Hope is the thing with feathers"がアルバムとしてリリースされ、更に、同年には、本作品である1982年〜1985年の未発表曲を集めたセルフ・コンピ・アルバム”Balancers”もリリースされます。
 
 Lena Platonosのキャリアはこんな感じで、アカデミアとポップ・カルチャーを行ったり来たりしており、また、電子音楽とピアノとか、詩人の詩に音楽を付けたりとか、結構八面六臂な活動をしているのだなと思いました。そんな彼女の1980年代前半の電子音楽期の未発表曲をコンパイルしたのが、この作品”Balancers”と言うことになります。内容は、A面8曲/B面6曲となっており、作曲・演奏・歌全て、彼女一人でやっているようです。それでは、各曲について紹介していきましょう。
★A1 “Ο Χορός της Σαλώμης/Salome's Dance” (1:58)は、いきなり逆回転から始まり、そこに霧のような声とシンセによるメロディ(?)が絡んでくる小曲です。
★Α2 “Μια Γάτα στη Στροφή/A Cat on the Corner” (1:48)は、ディレイ処理されたリズムマシンに、ギリシャ語で語るようなVo(これもディレイ処理されている)が加えられた不思議な曲です。
★A3 “Γάμος/Wedding” (1:19)は、ディレイ処理された語り部のVoとシンセの通奏低音から成る小曲です。
★A4 “Τον Σεπτέμβριο/In September” (2:16)では、やはりディレイ処理された語るようなVoで、ポロンポロンしたシンセをバックに歌っています。しっとりした落ち着いた曲です。
★A5 “Τώρα που περιμένεις την Αγάπη σου/Now, While You Wait For Your Love” (3:41)では、生ドラムに簡素なKbd(オルガン?)及びシーケンスに、デッドな環境でのVoでの歌が奏でられえます。ギリシャ語の語感が不思議です。
★A6 “Ναός Ιωνικού Ρυθμού/Sanctuary in Ionian Rhythm” (1:56)は、不明瞭な通奏低音と独白調のVoから成る小曲です。
★A7 “Αχίλλειον, Παλάτι στην Κέρκυρα/Achilleon, Palace in Corfu” (0:48)は、語り口風Voとシュワ〜ンとしたシンセから成る小曲です。
★A8 “Φαέθων/Phaethon” (4:54)でも、ゆったりと流れるアンビエンなシンセ音とその上にポロンポロンした単音シンセが微かに跳ね回っています。メロディが不明瞭なインスト曲で、テープ操作も加わっています。
★B1 “Χένα/Henna” (3:27)は、逆回転の楽曲音と独白調のVoから始まり、呼吸音のような音やゆったりとしたドローン音に置換されていきます。Voも歌うようになっていきます。
★B2 “Βήματα Πλαπαλ/Plapal Steps” (2:59)では、緩いパルス音に、不明瞭な低音や不思議な変調シンセ音、更には騒々しい音が微音量で聴こえたりします。掴みどころがない不定形の音楽です。
★B3 “Άρωμα Ροζαλία/Rosalia Perfume” (1:09)は、語り口なVoとそのバックのピコったシンセ音とポリシンセの持続音が静かに流れる小曲です。
★B4 “Ρώσσικος Θρήνος/Russian Lament” (4:15)では、ディレイ処理された声や卓球をやっているような物音が、ゆったりした通奏低音の上に乗っていますが、やがて、ゆったり流れるシンセ音に、独白調のVoや不明瞭なメロディのシンセ音へと変容していきます。
★Β5 “Αθάνατος/Immortal” (2:32) も、独白調Voと通奏低音から成る曲で、非常にゆったりと流れていきます。時々、物音系の音が聞こえます。
★B6 “Παρασκευή 9-9-1983/Friday, 9-9-1983” (4:35)は、物音系の音とそれを模倣したシンセ音から成るインスト曲で、通奏低音らしき持続音が捻れていき、更に上昇していきます。

 先ず、第一に、本作品がセルフ・コンピ作品であるにも関わらず、完成した1枚のアルバムとして聴くことが出来ると言うことに驚きます。また、全体的に、非常に不明瞭なアンビエントな電子音楽で、Voも歌うではなく、語るような明確なメロディのないもので、物音のような音も時に聴取出来るのですが、それらのサウンドが相互反応し合って、独自のアトモスフィアを持った音楽に昇華されています。また、歌詞がギリシャ語の曲もあるので、その語感も独特な響きを持っています。そんな彼女のソロ作品は、今まで聴いたことがない雰囲気なので、静かめの音響系音楽が好みの方にはお勧めします❗️

A4 “Τον Σεπτέμβριο/In September”
https://youtu.be/BWxhCzLbJ8c?si=zRIF49NlYEHdJAkh

[full album]
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mQi0bNjccmtc3OSD65Urwh-dPqEFp2GCw&si=X7VPL-RKb8cjaLXt

[BandcampのURLも貼っておきます]
https://lenaplatonos.bandcamp.com/album/balancers

#LenaPlatonos #ΛέναΠλάτωνος #Balancers #Εξισορροπιστές #DarkEntries #SelfCompilation #PreviouslyUnreleasedTracks #1982-1985年 #Greece #ElectroPop #Experimental #Synthesizers #SoloArtist #Pianist #Composer #GreekElectronicScene

Default