ばねとりこ (Banetoriko) “片の轍 (Kata No Wadachi)

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以前は米国LAで活動していたばねとりこ(Banetoriko)こと植田珠來さんが大阪に帰郷して、日本の地で新たに活動を始めたことは、ご存知の方もいるだろう。実は、私は、ばねとりこの大ファンで、コロナ禍直前にLAでThe HaterことG.X. Jupitter-Larsenと一緒に3人で会っています。その前後頃から、ばねとりこさんのことはジワジワと日本のノイズ・リスナーの耳には入っていたと思われます。実際、私がばねとりこさんの音を聴いたのは、2014年に岐阜のお化け工房から出たSalmonellaくんとのスプリットCD “Kagefumi”だったと記憶しています。それから、リリースの度に買ったり、交換したりして、ばねとりこさんの「妖怪ノイズ」を楽しんできました。しかしながら、実際にばねとりこさんのライブ・サウンドを生で体験したのは、2022年5月21日に落合Soupで対バンした時でした。ばねとりこさんは、通常、Banetekと言うリールが付いた、金属の摩擦音或いは軋み音を発する自作楽器を使っているのですが、実際のライブでは意外とマルチエフェクターのようなゴツい機材やその他小物等も交えて演奏するのに、ちょっと驚いたものでした。更にばねとりこさんの演奏や曲には、モチーフになる妖怪があり、特に生で観た演奏では、正に妖怪が「憑依」しているかのようなパフォーマンス性もあって、大変驚かされました。そんなばねとりこさんのLPが、親日の仏レーベルAn’archives出たとのことで、早速、入手しました。と、その前に、ばねとりこさんのバイオグラフィーを少し書いておきます。植田さんが、ばねとりこを名乗って、LAで活動し始めたのが2011年で、ずっとLAを中心に活動しています。その後、家庭の事情などで、2021年に日本(多分、生まれ故郷は奈良だと思いました)に帰国して、大阪を中心に活動をしています。そして、日本でも、マイペースながらも、類を見ない演奏で、ファンを増やしていきます。今回は初のVinylでのリリースとなりましたが、そのまえにも、2017年に、坂口卓也氏のレーベルNeurecより”Beside the Sluice”を、2022年より”Yorioto Hogiokuri ”等をリリースしています。他にも、カセット作品やCDR作品も出していますが、どの作品も1曲に1ついての「妖怪 (この概念は海外では分かり難いかも?)」をモチーフとして、自作楽器を中心に様々な「背景」の音を混ぜ込み、作品化してきています。ばねとりこさんの音は、海外アーティストと比較すると、The New Blockaders, Organum, Ferial Confine等に近いかも知れませんし、音の使い方は1980年代のHands ToやJohn Hudakなんかも想起するかも知れませんが、そのコアな部分は大きく異なります。それは、ばねとりこさんが日本人であること、「妖怪」と言う極めて日本的な存在を知っていることと関係しているのかもしれませんが、金属質な音自体の即物性よりも、そんな音を通して現前化する「何か」に焦点を当てていることの違いかも知れないですね。また、ここら辺のコンセプトについては、ばねとりこさんから直接聞いてみたいです。
 それで、本作品”片の轍”では、片輪車と輪入道と言う2人の妖怪がそれぞれ取り上げられており、A面には、片輪車の懸け歌(A1)と返し歌(A2)の2曲が、B面には輪入道の1曲が収められています。これらの妖怪のことを知らなくても、充分に「ばねとりこ」ワールドに没入できますので、ご安心を!また、本作品の制作には2022年〜2023年と時間を充分に掛けていますので、正に精魂込めた力作と言って良いでしょう。それでは、本作品の各曲をご紹介していきますね。

★A1 “片輪車の懸け歌/Katawaguruma Kakeuta”は、不気味な重低音に金属質な軋み音と柔らかな打撃音が絡む曲で、反復する歌の一節(!)も入っており、やがてBenetekの軋み音が多層化しつつ空間を支配していきます。と思っていたら、いきなり終わります。
★A2 “片輪車の返し歌/Katawaguruma Kaeshiuta”は、Banetekの独特の錆びついたような金属質の軋みを中心に奥張った通奏低音も聴取されます。その後、再び静謐な金属質な軋み音が微音から始まり、微音の歌も入ってきて、多層化していき、またフェイドアウトしていきます。
★B “輪入道/Wanyudo”は、地響きのような音と低音摩擦音のループらしき音から始まり、段々と後者が空間を支配していき、そこに言葉にならない声が、、、まるで頭の中を掻き乱すようですが、この曲では、更にBanetekの摩擦音の逆回転のような音も入ってきて締めてくれます。

 妖怪とは、幽霊や悪霊とも違って、元から異形の存在であり、それぞれに異なる異能力を持っている訳ですが、ばねとりこさんの音楽は、主にBanetekによる異形の摩擦音を組合せることによって、様々な音形態を紡ぎ出していく作業である訳で、向かうベクトルが異なるようにも思えますが、いわゆる「ばねとりこ節」とも言える自作楽器Banetekの金属質の軋み音から様々な表現を可能にしている所に、ばねとりこさんの異能力があるのでは?と思わざるを得ないんです。それによって(特にライブでは)、ある一つの妖怪をモチーフとして多彩な表現を可能にしているのではないかと思います。後、今回、初めて気付いたのですが、ばねとりこさんの歌(と言っても鼻歌のような微かな声?)を聴けたと言うこと。これはライブの時の小物の微音に繋がるような気がしました。また、個人的には、第二期K2時代に散々メタル・ジャンクの演奏(これには、摩擦音も含む)をやってきたことからも、ばねとりこさんの音が私の好みの音でもあると言うことで、全面的に応援したいと思う訳です!そして、ばねとりさんの本領はやはりライブを体験するのが最も良いとも思いますので、一度は観ておいた方がよいですよ。勿論、帯付きのこのアルバムもマスト・アイテムです!

[本作品はYouTubeに上がっていないので、落合Soupでのライブ動画を貼っておきます]
https://youtu.be/ISkq4oPUk1c?si=vMIPFHjRO-kHs8sb

[BandcampのURLは貼っておきます]
https://anarchiveslabel.bandcamp.com/album/kata-no-wadachi

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