Schubert PianoSonata in Cminor,D958(第19番)Momentz muzicaux,D.780(楽興の時全6曲) アルフレッド・ブレンデル

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シューベルト/ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調D.958
1.アレグロ
2.アダージオ
3.メヌエット(アレグロ)
4.アレグロ

楽興の時D.780(Op.94)
1.ハ長調モデラート
2.変イ長調アンダンティーノ
3.ヘ短調アレグロ モデラート
4.嬰ハ短調モデラート
5.ヘ短調アレグロ ヴィヴァーチェ
6.変イ長調アレグレット

ピアノ・ソナタはそのうちLobに挙げますが、(相変わらず長くなりますので)ここでは楽興の時を紹介。

楽興の時。

このタイトルが付いている6曲の作品には2つある。
その一つであるラフマニノフの作品はこのシューベルトのD.780の6曲よりも演奏会用に映えるグランドマナーを備えている。
シューベルトの発想はもっと親密で家庭音楽的発想といっていい。

シューベルトの6曲の世界はそれぞれに独自のものがあるけれど、第1曲の印象的な歌い出しよりも、有名な第3曲よりも、ボクは第2曲の遷ろう気分の世界が好きだ。
変イ長調だけど、嬰ヘ短調のエピソードが非常に印象に残る。
黒縁のやや楕円がかった小さな眼鏡の奧の彼の瞳はいつもは穏やかで柔和な色を湛えているけれど、突然の楽興の高まりに背後にしまい込んでいた激情が顔を覗かせる。そこにはソナタにありがちな冗長と言われる形式の羅列と感じられるような変化に乏しい歌はなく、弾くものに与えられる愉悦と等価的なわかりやすい旋律の美しさが絶妙に配置されている。
こういうシューベルトを聴いていると、彼がピアノソナタで感じさせる演奏者と聴衆の感じ方の違いを彼自身よく知っていたのではないかと思えてくる。
アンダンティーノもモデラートも、内省の世界には足を踏み入れない。その直前の万人が感じる哀しさややすらぎを両手の平で包んでいる。
舟歌の雰囲気はシチリアーノの下地から来ているのですね。

メンデルスゾーンの無言歌にも酷似のものがありますね。

ベートーヴェンのバガテルにも比肩されるこの6曲の珠玉はあくまでも深い抒情を湛えつつ、その気分が深く思索的なところへ潜り込んで行くのを美しさによって妨げている。
それを深みが足りないなどとボクはつゆほども思ったことはない。
道が違うのです。
有名な第3曲は短いけれど、全くどこにも疵がない珠玉です。
第4曲は無窮動風の旋律が右手に顕れ、左手がそれを支えて行きます。
バッハのように響きますが、すっきりとしているのは遷ろう転調の巧みさのせいか。
第5曲は第3曲に継いで短いヘ短調。
シューベルトによく聴かれる行進曲風の主題が転調する時、彼の激情家としての内面を垣間見せます。
変イ長調の第6曲はエンハーモニック(音程の異名同音的な取り扱い)な転調が聴け、消えるように閉じます。
第3曲までの興の乗り方と後半の3曲にシューベルトの感じ方の違いがはっきりしているような気がします。
複雑な精神構造を持った人ですね。
感情の起伏が激しいのに、ボンの巨匠のような表面での爆発がない。
そんなエピソードが残っていないのは彼が穏やかな鬱的な心の闇を抱えていたからかも知れません。
野バラの優しさもシューベルトであり、ここに聴かれる抒情とロマンの複雑な表情もまたシューベルトなのですね。

説得力のある演奏としてはボクは、このブレンデルを好みます。
シューベルトの後期のピアノソナタもそうですが、分析的な音を超えた粒立ちの美しさが、あの絆創膏だらけの指先から信じられない響きになってこぼれてきます。
飽きない音色であることがシューベルトを長く愛聴するために不可欠だと最近思っているところです。

第2番の冒頭からお聴きになる時は赤いこのリンクをクリック下の動画は全曲です。

https://youtu.be/9ZNWMAG8j3U?si=TqtcpkLxYcBWhF54


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