グスタフ・マーラー/交響曲第4番ト長調 (大いなる喜びへの賛歌)―グルタフ・マーラーの安息

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交響曲第4番のマーラーは、安息を求める疲れた心の襞を逆撫ですることなく、滑らかに穏やかに染みこんでくる。
作ったものが予期しない効果というものを生むのが芸術の一つの可能性だけれど、少なくとも、この作品の中には、嵐のようなパトスはなく、煉獄に捕らわれた生々しい魂の叫びもない。
客観視された安息が終始聴くものを慰撫する。
ボクはこの曲に関しては、珍しくカラヤン指揮ベルリンフィルのドイツ・グラモフォン盤を聴いてきた。冷たく磨き抜かれた管弦楽の傷一つない唯美的な演奏が醸し出す客観的な静けさと官能がこの曲のイメージによく合っていたからだった。

でも今はこのアルバムをよく聞く。指揮者はロリン・マゼールでオケはウィーン・フィル
この指揮者、怪優ジャック・ニコルソンが1週間くらい絶食をしたような顔の天才指揮者だね。
もうはるか昔、東京暮らしをしていた頃、どこかのテレビ局で放映されていたが、パーティの席で彼が取り巻きと会話しているシーンを観たことがあった。小澤征爾さんが出ていたからその関連の番組か?
とにかくこのジャック・ニコルソン似の指揮者が自分の前の婦人と英語で話していて、後ろからかけられたドイツ語に即座に返事をして、英語で話したご婦人をエスコートしているフランス人にフランス語で早口の冗談を交わし、自分の横のイタリア人ともイタリア語で会話していた。

あまりに天才で器用でそつがない。
音楽も個人的感想だけど、何か知恵の悲しみというのか、知り尽くしているが故に表現されるものにおもしろみがなく、意外性がない。
ところが、何時だったか、ボクは、彼がマーラーの第4交響曲をウィーンフィルと録音したものを聴いた。
キャスリーン・バトルというソプラノが人気絶頂であった頃だ。
FMから流れてきたその第1楽章の音の抜けの良さにまず思わず聴き惚れてしまった。安物のスピーカーからでも、音がなまなましく前に飛び出してくる。
ウィーンフィルの典雅な管弦の響きがしっとりとした雰囲気を作り、スピーカの前にふわりと出てくる音の暖かさに、これがマゼール? と疑いつつ聴き通してしまった。
そのCDはカラヤンに代わって今一番気軽に聴く定番になった。

マゼールの少しシニカルで客観的な視点がウィーン・フィルの古雅な音色に中和されて、独特の幸福感を生んでいる。
日本ではあまり器用すぎてそつがない演奏であまり人気のない指揮者なのでCDが残っているかなと思っていたけれどありますね、さすがに。

https://youtu.be/5OBk7q--9lg?si=_R4K8sQCByOnrPSM

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    woodstein

    2023/11/25

     キリ・テ・カナワのファンということもあり、この曲はもっぱら小澤・ボストン響を聴いています。マゼールは実力のわりに日本では人気のない指揮者の代表格の一人、というのは同感です。

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    Mineosaurus

    2023/11/26

    ボクはオペラはあまり聴かないんですが、テ・カナワのオーベルニュの子守歌が入ったLPは持ってました。子供が夜泣きするときは良くハミングで聴かせていましたね。小澤さんの第4番は相性良さそうですね。

    マゼールはというよりは音楽家は皆ある意味天才ですけど、音楽が出来過ぎてる感じ。これはあくまで個人的な感想ですが、この人で聴いてみたいという衝動が起きない指揮者です。でも、この曲は好きですね。

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