1941-42 WWⅡ Early Type Steel Model

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この年代の物は開戦初期、米軍が大量発注した物ではあるのだが、果たして装備として無償で支給されたかは定かではない。

軍の司令部など各地の建物には、P.X.(ポスト・エクスチェンジ)と言って、酒タバコ、菓子・食料品に雑貨、衣類、はたまた貴金属や時計などジュエリーまで扱う、おおよそ兵士の生活に必要と思われる物資を供給する購買部のような部署があった。

それらは軍人や軍属、その家族など軍関係者なら誰でも利用できたらしいのだが、このジッポーも多分、そんな所で販売されていた物なのだろう。

さて、この個体についてなのだが、一応フルオリジナルである。修理の痕跡はない…が、気になる点がないわけではない。

通常、戦地に赴く者の装備は太陽光を反射し、敵に感知される危険性を回避する無反射処理を施すものである。

この個体も、元々はブラッククラックル(和名で言う、ちりめん塗装)だったのかもしれないが、私が手にした時はすでに塗装された痕跡も無い、『生鉄むき出し』状態だった。

このモデルからインサイドユニットは、スチールの一枚板からの打ち抜き、プレス成形でハコ組みして、端部をスポット溶接で繋いでいる。

工法がここまで急激に変わったにもかかわらず、このモデルは、まだ戦前のブラス製ラウンドトップを踏襲した造りを何とか維持しようとしている。

外装ケースのシルエットラインや、チムニー周りの形状などは見事なまでにブラスチューブの頃とそっくりなのだが、軍務に就いた顧客に対しても、平時からの慣れ親しんだイメージのままで、変わらず愛用して欲しかった…という、願いの現れなのかもしれない。

半円型のホイールステイ、直角に深々とプレスされたカムステイ、素材がスチールに変わっても、変わらぬ形のダルマカムといった具合である。

しかし、画像3でも判る通り、ヒンジ面やその対面は、ブラス製が平面であったのに対し、緩やかな曲線のアールを持っている。

あくまで推測ではあるが、理由としてスチール(軟鉄)という素材は、真鍮に比べ粘りが少ないため、落としてもヒビが入らないように曲面にして強度を持たせるという意図があったのかもしれない。

実際、このモデルは落とした際に生じたと思われる、キャップのコーナーに沿った亀裂が入った物が多く見られる。

この『戦争が終わるまで持てばいい』という政府の政治的意向が反映された、『確信犯的品質の危うさ』こそが、ある種…戦時モデルに内在する特有の魅力の源泉となっているのかもしれない。

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