サン=ベルナール峠を越えるボナパルト

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フランスの画家、ジャック=ルイ・ダヴィッドが1801年から1805年に描いたナポレオン1世の肖像画5枚。
アルプスを越えようとするナポレオンの勇姿が理想化されて描かれている。

ナポレオンは、総大将の制服を着用して乗馬している。
風をはらんだ大きなマント、
右手は山頂を指さし左手は軍馬の手綱を握っている。
馬は後ろ脚で立っており、ナポレオンのマントにあたっていた風が、たてがみと尾にもあたっている。
背後には、大砲を運ぶ一群の兵士が、列になって山道を進んでいる。
黒い雲が絵の上部を覆っており、ナポレオンの前には山々が鋭く屹立している。

私たちのが抱くナポレオンのイメージは、この絵によってほぼ形作られている。

ナポレオンは、ハンニバルに倣ったアルプス越えによって敵の裏をかき、
オーストリア軍が態勢を建てなおす前に、決定的勝利を手にするのだ・・・・

しかし実は、もう一枚のアルプス越えの絵画が存在する。

山岳ガイドが引くラバに揺られて「寒いな~」とつぶやきながらとぼとぼと峠を越してゆく。
ナポレオンのリアル・アルプス越えを描いたドラローシュの油彩画だ。
1850年 ポール・ドラローシュ作

ナポレオンに関して膨大なコレクションを持つアーサー・ジョージ伯爵は、
1848年にポール・ドラローシュを伴ってルーヴルを訪れ、
ダヴィッドの絵は芝居がかっていて信用しがたい。
ドラローシュに、ラバに乗った、より正確なナポレオンの肖像を描くよう注文した。

ダヴィッドの象徴的かつ英雄的な表現より、
ドラローシュの絵がより現実的なものであったとしても、それが『アルプスを越えるナポレオン』の価値を下げるわけではない。
ドラローシュはナポレオンを尊敬しており、たとえ現実的な表現で表したとしても、それによってナポレオンの業績が傷つけられるわけではないと考えていた。

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