「クラシックだから」の一言で片付けたくない。英国ブランドが世界中で愛されるのはなぜか?

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文 / 佐々木健人
写真 / 井本貴明

ファッションの世界は不思議だ。

いつの時代にも「流行り」が誕生し、人々は最先端のデザインや素材に魅了される。

しかし、流行りを追い続けるとふと「基本(スタンダード)」に戻りたくなる。クラシックウェアと呼ばれる、英国的な紳士の服装。年齢を重ね、仕事の責任が大きくなる、立場的なものが関係しているのかもしれない。

東京の青山に本店を構え、創業から50年以上が経ち、英国ブランドの輸入総代理店を努める渡辺産業が運営する「BRITISH MADE」は、そんな英国のクラシックウェアが集まっているショップだ。

書籍「紳士服を嗜む」を執筆した飯野高広さんをナビゲーターに、BRITISH MADEが発信する「英国プロダクト」の真髄を探った。

いつの時代にも「英国」がクラシックウェアの中心に存在するのには、理由がある。

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買った段階ではまだ半製品。だからこそ、身につける人に寄り添ってくれる

ーー英国のプロダクトは、なぜ世界中で愛されているのでしょう。

色合いが落ち着いていて、形も昔から変わらず生き長らえているものばかりだから親和性が高い。例えば16世紀から17世紀にかけてのスコットランドやアイルランドでの労働靴をルーツに持つフルブローグとか典型じゃないですか。ネクタイの紺と白の水玉柄も合わせやすいですよね。

用の美とよくいうけど、目的があって作られたものばかりだから人を妨げないんでしょう。朝起きて「ああ急がなきゃ!」みたいな時にパパッと身につけたものでも様になります。

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ーー調和がとれるんですね。

カッコよくなったのは結果論で、身につけたらカッコよくなっちゃった、みたいな。

あとは、素材の力をすごく信じている。ブライドルレザーもそうですし、素材が持っているパワーを下手に脚色せず活かしているところが多い。

要は買った段階ではまだ半製品で、「自分で味付けしていってくださいね」ということ。イタリアとかフランスのブランドも素晴らしいところはあります。あるけれども、自分のものになる前に「ブランドもの」という雰囲気が前に出ちゃう気がするんです。

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ーーイギリスに興味を持ったきっかけを教えてください。

一番最初は父の万年筆です。父が使っていたのはイギリス製のParker(パーカー)だったんですよ。

「パーカーってアメリカで生まれたブランドだよな、なんでイギリス製なんだ?」と。そこでイギリスとアメリカに繋がりがあるんだと認識しました。

物心ついてオシャレに目覚めてくると、まずアメリカの方に目が行くんだけれども、もっと突き進んでいくとイギリスに行き着く。「アメリカだとウイングチップというけれども、どうもこの形の起源はイギリスのフルブローグのようだ。だったらフルブローグまで知らないとね」と。

知れば知るほど、アメリカのプロダクトに見られがちなワイルドさがあまりなく、かといってヨーロッパの大陸側にあるような「ひたすら美しいものを狙ってます」みたいな感覚もない。悪くいうとそっけないんですけど、身につける人に寄り添ってくれるおおらかさがありますね。

イギリス靴は、いい意味で履いていることを忘れさせてくれる

ーーイギリス製の靴の魅力を教えてください。

イギリスの靴はオールソールする寸前が凄く履きやすいんですよ。こちらはオールソールしたChurch's(チャーチ)の内羽根式パンチドキャップトウです。

チャーチの内羽根式パンチドキャップトウ。「冠婚葬祭やビジネスを除けば、洋服を選ばないんです」(飯野さん)

チャーチの内羽根式パンチドキャップトウ。「冠婚葬祭やビジネスを除けば、洋服を選ばないんです」(飯野さん)

アッパーはケープバック。足当たりが良くて、冬場にツイードと合わせてよく履きました。でも、まだまだ履けますよ。堅牢で時間が経つにつれて愛着が湧いてくる。そして飽きない。

直すということはまだ使うという意思の表れ。イギリスの靴を買う時には、頭の中で「自分が生きてる間に何回オールソールするんだろうな」と考えています。

ーーイギリス靴の扉を開けた一足について教えてください。

JOSEPH CHEANEY(ジョセフ チーニー)とJ.PRESS(Jプレス)のダブルネームの内羽根式フルブローグです。私がその後雪崩のようにイギリス靴にはまっていくきっかけになった、思い出の一足。購入したのは、日本でもイギリスでもなくアメリカのニューヨークです。

通常、内羽根式のイギリス靴はウェルトが前半分だけで、かかと部分は縫い目をつけず釘が打たれている。こちらのダブルネームの靴はウェルトがぐるりと一周しており、アメリカブランドが別注した靴だとわかる。

通常、内羽根式のイギリス靴はウェルトが前半分だけで、かかと部分は縫い目をつけず釘が打たれている。こちらのダブルネームの靴はウェルトがぐるりと一周しており、アメリカブランドが別注した靴だとわかる。

当時、私は30歳になる前。「イギリス靴は良い」と聞いてはいたんですが、まだ分不相応だと思って手を出せずにいたんです。けれどJ.PRESSに入り、試着して鏡の前に立った時には「ああ、これで大人の男になるんだ」と感慨深くなりました。

イギリス靴らしさがジョセフ チーニーに反映されているところは履き心地です。安定しているんですよ。エドワードグリーンのような「しなやかさ」とはまた違うんです。かと言ってアメリカ靴みたいに、大地を踏みしめている感じでもない。いい意味で靴を履いていることを忘れさせてくれます。

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木型は現在でも使われているラスト175です。超クラシック。本国だと外羽根のカントリーシューズでよく使われてますよね。基本に忠実な木型だからこそ履いていることを忘れられる。また、底材やインソールはタフに履かれることをを想定している作りだとわかります。

履かないで眺めている時はジョセフ チーニー。そして、いざ足を通して歩き始めると自分の靴になってくれるんです。匿名性というか。そこが嬉しいんです。

ーーどういう時に履いていますか?

会社に勤めていた時は、大切な用事の時に履いていました。まだぺーぺーだったから、お得意様に呼ばれて接待をしていただく時とか。「ありがとうございます」という意味で自分にとってナンバー1の靴を履いて行こうと。とても大事に履いていました。


ーー飯野さんが購入したのは約20年前になります。現行のモデルと比べると、どういった点に変化がありますか?

木型は明らかに進化しています。ラスト130とか。絞るべきところを絞っていますよね。でも、良い意味で武骨さが残っててすごく美しい。

やっぱり顔はジョセフ チーニー。あとは、細かいお化粧をもう一歩何かやってくれるとすごい存在になるんじゃないかな。例えば、紐を平ひもに変えるだけでもだいぶ雰囲気は変わると思います。

 銀座の紳士靴店「ロイドフットウェア」がジョセフ チーニーに別注した紳士靴。木型はセミスクエアタイプのラスト89。「買ったときにはダークブラウンだったはずなんだけど、靴クリームを塗り比べたりと色々実験していたので履きジワの辺りが青白くなっています。自分の色になりました。これも味だろうと」(飯野さん)

銀座の紳士靴店「ロイドフットウェア」がジョセフ チーニーに別注した紳士靴。木型はセミスクエアタイプのラスト89。「買ったときにはダークブラウンだったはずなんだけど、靴クリームを塗り比べたりと色々実験していたので履きジワの辺りが青白くなっています。自分の色になりました。これも味だろうと」(飯野さん)

素材の持つパワーを感じる、50オンスのシルクタイ

ほしかったネクタイを最近手に入れたんです。それが、Drake's(ドレイクス)の50オンスシルクタイ。いわゆるシルク地を使った重量級のネクタイです。

ドレイクスはノットが綺麗に収まって締め心地がいいところが気に入っています。あと、1日が終わって解き終わったあとのシワの回復が早い。もともとの生地がいいんですね。

50オンスと重いんですけど、厚みはそこまでないんです。どうぞ、触ってみてください。

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ーーずっしりきますね。

細い糸をたくさん打ち込んでいるんです。だから、生地は厚くならず重い。繊維が隙間なく入ってるから、締めた時には形が張って安定する。そして、解き終わると自然と回復していく。

イギリス人向けの仕様なんでしょう。長さは147cmあるんですけど、私には少し長いかな。私は顔が細いので、シャツの襟がホリゾンタルでもプレーンノットにしています。日本人だとプレーンノットならば140cmくらいで十分なんです。

だけど、日本の人が必ずしもプレーンノットで結ぶわけではないじゃないですか。NHKのニュースを見ていると、アナウンサーの人はだいたいセミウィンザーノットですよね。太巻きにしたいんだったら147cmくらい必要かもしれない。

イギリスのタイはやはりトラディショナルな柄が多いんです。「どこどこのブランドのタイです」とわからないのがいい。ドレイクスは伝統的な配色を踏まえたタイもあれば、モダンな要素を織り込んでいるタイもありますね。

紺色の水玉柄のネクタイはTurnbull&Asser(ターンブル&アッサー)やJOHN COMFORT(ジョンコンフォート)など10個近く持っていますが、それぞれ色味と点のバランスが違ってすごく面白いんです。

中でもドレイクスは生地がきれいなので目立つんですよ。引き出しを開けた時に、パッと光る。水玉柄のタイだけがしまってある引き出しの中を見たら、ドレイクスのタイの存在感がすごくて見比べなくてもわかりました。

飯野さんが最初に購入した、ドレイクスのネクタイ。「ジャカード織で柄を出したタイはドレイクスが初めてだったんです。ドレイクスのタイは肉厚で、締め心地も抜群なのですごく愛用しました」(飯野さん)

飯野さんが最初に購入した、ドレイクスのネクタイ。「ジャカード織で柄を出したタイはドレイクスが初めてだったんです。ドレイクスのタイは肉厚で、締め心地も抜群なのですごく愛用しました」(飯野さん)

最近主流なのは無地なのかもしれないけれども、もっと華やかになってもいいと思います。スーツはカチッとトラディショナル、その分シャツとタイで華やかさを足す。イギリスの男の人は平気でピンクのシャツとか着ますもんね。

世の中的には、残念ながらネクタイを締めなくなってきていますよね。生地のふわふわ感とかを知られなくなってしまうのはすごく寂しいんです。ドレイクスは生地がすごくきれいなので、ジャケットの内ポケットに一本差しでできるペンケースをぜひ作ってほしいです。そしたら、「カチッとしたおしゃれもいいな」と思う人が出てくるのではないでしょうか。

素材がいいから工夫のしがいがあると思います。恥ずかしい話なんですけれども、このネクタイを買った帰り道、電車の中で袋から取り出して触っていたんです。ドレイクスが用いている素材は、そうやって人をわくわくさせたり、和ませる力のある素材なんでしょうね。

ブライドルレザーに自分の時を刻む

普段、眼鏡はCUTLER AND GROSS(カトラーアンドグロス)をかけているんです。日本にありそうでない形や色があったり、創業者のお二人が若い時に視力が悪かったというエピソードが好きで5個持っています。

そんなチョイスをしてきたんですけれど、「さあ歳を取ってきたぞ」という時に、チャラいのもかけとこうかなと。そう思って選んだのがイタリアブランドのPersol(ペルソール)です。

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買ったはいいんですけれども、きれいに収まるメガネケースがなかなか見つからない。安い均一価格のお店とかには大きいサイズのメガネケースも売っているんですけど、ペルソールには似合わない。

そんな時に見つけたのがGLENROYAL(グレンロイヤル)のメガネケースでした。ほら、余裕で入るんですよ。

レイバンやトムフォードは大きいサングラスをラインアップしていますよね。かつ、イギリスのガタイのいい人向けのサングラスになると、サイズが大きくなると思うんです。そういう部分を考慮してのサイズではないでしょうか。

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ブライドルレザーで、お財布系やキーホルダー以外の小物は市場にあまりないんです。グレンロイヤルは鞄だけじゃなくメガネケースのような小物系も展開していますよね。それは、とてもうれしいです。

ブライドルレザーはカジュアルなんですけど、経年変化をちゃんとしてくれるんですよね。 使い込んでいく中で自分の形になってくるところに男っぽさを感じるんです。

例えば黒のボックスカーフなどの清楚な革とは違う。あるいはアメリカのワイルドなオイルドレザーとも違う。とりあえず中に入れとけばなんとかなるところが僕はすごく好きです。

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グレンロイヤルで気になっていたのは、サッチェルバッグの赤色です。女性っぽい可愛いらしさとはまた違う。イギリスの人のユーモアを感じる赤ですね。

普段は鞄は黒か茶色なんですけれども、サッチェルバッグの形でこの赤だったら持ってもいいんじゃないかと直感で思いました。

男女兼用も、お父さんと子ども兼用もできる。「何で父さん使うんだよ」みたいな。仕事よりは休日に軽くどっか行きたいなって時にジャケパンと合わせたいです。

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一方でみんなカバンを持たなくなってきてるでしょ。通勤の時にお財布だとかタブレットでいいやって人は、この位の大きさのものがそんな時にもちょうどいいんじゃないかな。

シンプルだけども存在感のあるブライドルレザーのカバンはイギリスらしいプロダクトだと思います。

イギリス製品は一目見てどこのブランドかわかったりしないけれども、個人の美意識や価値観をきれいに出せるアイテムが多い。とはいいながらもたまーにひねったものがあったりする。そこが魅力ではないでしょうか。

ー おわり ー

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BRITISH MADEの公式ミュージアムを公開中!

ミューゼオにて、BRITISH MADEが扱っている数々のプロダクトを、公式ミュージアムとして公開中。
革靴、ジャケット、ネクタイ、小物類など、英国の魅力が集まったプロダクトが数多く展示されています。
ぜひ、ご覧ください。
https://muuseo.com/british-made

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BRITISH MADE

英国クラフトマンシップから生まれたブランドストーリーを、日本や世界のお客様に語り伝えていきたいと考えています。

新しいものが次々と生み出される現在、英国のブランドはクラシックで、少しベーシックに映るかも知れません。しかし、流行に左右されず、定番でどこか懐かしく、作り手の想いや様々なストーリーが溢れています。暮らし続けることで価値の増す家屋、何代にも亘って使われている家具、親から受け継いだコートやアンティークのアクセサリー、リペアを重ねて身体の一部のように馴染んだ靴、自分のキャリアをいつも見つめてきた革手帳・・・。

永い人生をさりげなく、誇りを持って一緒に生きるパートナーとして相応しい“もの”を作りだす英国ブランド。彼らのストーリーテラー(Storyteller) として、作り手の想いを込めてみなさんにご紹介していきます。

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公開日:2018年10月1日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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佐々木 健人

エディター、プランナー。1993年東京都生まれ。時計メーカーを経てミューゼオに入社。オンラインジャーナル「ミューゼオスクエア」のディレクション、ECサイト「ミューゼオファクトリー」の製品開発などを担当。

終わりに

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飯野さんの愛用品はどれも大切に使ってきたことが見てとれました。中でも、JOSEPH CHEANEYとJ.PRESSのダブルネームの内羽根式フルブローグは約20年前に購入したものとは思えないほどの美しさ。購入した時に100点だとすると、使いこんでいくうちに150点にも200点にもなる。そういった英国プロダクトの魅力に触れられる取材でした。

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