SAUDADE / 久保田早紀

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1980年発表の3rd.アルバム。 さて、これは問題作です。 レコードでのA面は彼女が好きというファドの故郷ポルトガルで現地ミュージシャンと共に録音され、B面は東京での録音。アレンジは全曲従来通り萩田光雄による。 そのA面では「異邦人」をファド風にアレンジしていたり、「アルファマの娘」「トマト売りの歌」などポルトガルをテーマにした彼女の自作曲はファドに対する彼女なりの敬意の表れだろうが、どこか違和感がある。 そしてB面の東京録音の曲では、一転して普通のポップスである。過去2枚の幻想的な作品とは雰囲気は異なり、現代の日常がテーマになっている。シルクロードのイメージが定着するのを恐れての急激な路線変更を図ったとしか思えない。 このアルバムは出来上がったキャラクターを一度リセットして、本来の22歳の女性に戻るために必要なステップだったのだと思う。

アナログレコードA面は好きなファドの地を訪れる事で今までの活動に一区切りを付けるつもりだったのだろうが、この違和感は何だろう。これが彼女がやりたかった音楽なのだろうか。 アナログレコードB面最初の曲は「サウダーデ」。ここで彼女は ♪この空に誘われるままに旅に出てみたの 今よみがえる遠い国のこころサウダーデ♪ とデビューからこのポルトガル録音までを振り返り、最後の曲名は「ビギニング」。 ♪旅立つ朝に見送りはいらないわ ありがとう 今は人生の歌もそっと口づさめる♪ と過去への決別と新しい方向性を示唆して終わる。 以前書いた通りもしこれが彼女からのメッセージだとすれば、これで過去2枚は作られたキャラクターだという事が明確になる。 おそらくその2枚は、「シルクロード」路線で売り出す方針と彼女の清楚なお嬢様風のルックスや声からレコード会社から押し付けられたイメージだったのだろう。萩田光雄のアレンジは素晴らしいが、これは必ずしも彼女の望んだスタイルではなく、にもかかわらず予想外の大ヒットでかなり悩んだに違いない。 本作最後の曲に「ビギニング」と名付けた事から、次回作こそが彼女が本来目指していたスタイルだと思う。異論のある方は多いだろうが、私はそう確信している。

異邦人
https://youtu.be/HNnJ2ikgpHw?si=8Rvtr4cQCgubqCwa

#アナログレコード

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