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『地球移動作戦 / 山本弘』《ハヤカワSFシリーズJコレクション》
『地球移動作戦』山本弘/著。早川書店ハヤカワSFシリーズJコレクション刊。2009年初刷。ISBN978-4-15-209068-3。カバーアート/鷲尾直宏。 先頃亡くなられたSF作家・山本弘[1956-2024]の長編ハードSF。トンデモ本を扱う「と学会」の会長など、いろいろ活躍されていた山本氏ですが、私は熱心な読者というわけではありませんが、それなり作品は読んでいました。 “西暦2083年、超光速粒子(タキオン)推進を実現したピアノ・ドライブの普及により、人類は太陽系のすべての惑星に到達していた。観測プロジェクト<クリーンアップ計画>により発見された謎の新天体2075Aの調査のため、深宇宙探査船DSS-01<ファルケ>が派遣される。船長のブレイドをはじめとする搭乗員たちによる観測によって、この星は24年後に地球に迫り壊滅的な被害をもたらすことが分かった。迫る厄災の報を受けた地球では、様々な対策案が提唱される。ブレイドの姪である12歳の天才少女・風祭魅波はACOM(人工意識コンパニオン)のマイカとともに、天体物理学者である父・良輔が発案・提唱した驚くべき計画の実現を決意するのだった……。著者入魂の本格長編宇宙SF。" この作品は、題名で分かる方もいると思いますが、東宝映画『妖星ゴラス』(1962年)へのオマージュとして執筆され、映画スタッフの丘美丈太郎・木村武・田中友好・円谷英二・本多猪四郎各氏へ献辞が捧げられています。関連して、小松左京氏の『さよならジュピター』『虚無回廊』に対するオマージュも入っていると思います。 作中で《地球移動作戦》のクライマックスで、歌が関わってくるところなど、盛り上げ方がなかなか良かったです。ハヤカワ文庫JA版も発売されています。 #ハードSF #SF #山本弘 #早川書房 #妖星ゴラス
書籍 早川書房 1300円Jason1208
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アイザック・アシモフの科学エッセイシリーズ
アイザック・アシモフ先生の科学エッセイシリーズ。ハヤカワ文庫NF。現代教養文庫。 化学者、SF作家として知られるアイザック・アシモフ先生[1920-1992]は生涯、500冊以上のご著書を上梓されましたが、ノンフィクションである科学エッセイをも多数執筆されました。日本でも、翻訳出版されていますが、早川書房のハヤカワ文庫NF(ノンフィクション)、社会思想社の現代教養文庫で主に出版されているようです。書影を展示しているものは、ハヤカワ文庫NF刊:「空想自然科学入門」「地球から宇宙へ」「時間と宇宙について」「生命と非生命のあいだ」「わが惑星、そは汝のもの」「発見、また発見」「たった一兆」「次元がいっぱい」「未知のX」「存在しなかった惑星」「素粒子のモンスター」「真空の海へ帆をあげて」「見果てぬ時空」「人類への長い道のり」「宇宙の秘密」 現代教養文庫:「輝け太陽」「地球の誕生」 ついでに福武書店の絵本シリーズの一冊「彗星は恐竜を滅ぼしたか?」 理系ではありませんが、魅かれるものがあって、今まで読んできました。カバーアートが統一されてないのは、揃えるのにそれなり時間がかかったからです。 このシリーズで読んで、興味深かった話は、どの巻かすぐに分かりませんが、「地球という惑星世界が持つ、宇宙でも特異な特長は、たったひとつの巨大天体《月》を衛星として持つということである。たったひとつの月がもたらした安定した潮の満ち引きや気候が、知的生物人類の発生に大きく貢献したかもしれない」という話です。 #アイザック・アシモフ #科学エッセイ #ハヤカワ文庫NF #現代教養文庫
書籍 早川書房 1986年以降Jason1208
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『リングワールド / ラリイ・ニーヴン』《早川海外SFノヴェルズ》
早川書房より、1981年に発行された『リングワールド』、ラリイ・ニーヴン/著、小隅黎/訳、A5版ハードカバー357頁です。 “29世紀のセヴィリアで、ルイス・ウーはパペッティア人のネサスからリングワールド探検の話をもちかけられた。リングワールド、それは太陽と同じG2型の恒星を幅百万マイルでリボン上に取りまき毎秒770マイルで回転する人工世界だ。 隊員は、200歳の探検家ルイス・ウーに戦闘好きなクジン人、地球人の若い女性ティーラ・ブラウン、それに臆病さでは定評のあるパペッティア人のネサスの4人。最高速の宇宙船にのりこみ、リングワールドに接近した一行は、この想像を絶する構築物をつくりあげた住民とコンタクトすべく、あらゆる方法を試みた。 誰がこのように巨大な世界をつくったのか? その目的は? だが、何の応答もない。はたしてこのリングワールドを建設した文明は衰微してしまったのか? 宇宙船は隕石防御装置の網をくぐりぬけ強行着陸した。探検隊は謎の答えを求めてリングワールドの縁をめざして進んでいく。太陽の光を反射して周囲のあらゆるものを焼き尽くすひまわり花の草原、暴風渦巻く嵐の<目>などを通り抜け――そして、ついに恐るべき事実が明らかになった……!” 「ダイソン球」という概念がありますが、大雑把に言うと“恒星の発する熱・光を有効活用するために、恒星を殻で覆ってしまおう”という発想です。(『スタートレックTNG』第130話「エンタープライズの面影」にも、ダイソン球天体が登場しています) 「ノウン・スペース」シリーズというスペオペ連作シリーズを持つニーヴンが考えた「リングワールド」は多分にこのダイソン球の概念をヒントにしていると思われます。 「太陽をとりまく狭い幅のリボン」というべき印象ですが、その幅は地球の直径の40倍、月から地球までの距離の4倍というトンデモナイ巨大構造物ということになります。 なお「リングワールド」は2冊ほど続編が出て、シリーズ化しています。 #宇宙SF #ラリイ・ニーヴン #小隅黎 #ハヤカワ海外SFノヴェルズ https://youtu.be/FAlXHlaDrHE
書籍 早川書房 500円Jason1208
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『地球光 / アーサー・C・クラーク』《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1969年に発行された『地球光』EARTHLIGHTです。アーサー・C・クラーク/著、中桐雅夫/訳で、福島正実/解説です。 『2001年宇宙の旅』などの原作でも知られ、ハードSF(科学的正確さにこだわったSF)の代表的な作家とされるアーサー・C・クラーク[1917-2008]先生による中編SFです。 “遥かな地球の海と雲から降り注ぐ光が、すべてを青と緑の色合いをおびた熱気の無い輝きに見せていた。冷たい月の夜だった。地球から着陸したばかりのサドラーを乗せたモノレールは、時速五百キロで失踪し、口径10メートルの望遠鏡を備える月基地の天文台へと進んでいた。彼はいま、宇宙時代の人類が初めて戦争の恐怖に直面していることを意識していた。 火星、金星及び大惑星の衛星群から成る惑星連合――彼らはかつて夢と冒険を求めて地球を飛びたった人類の子孫なのだが――と地球政府の間で開催された惑星資源会議は、すでに決裂に終わっていた。そして地球からの重金属の配当を不当とする惑星連合は、ついに武力に訴えることを決意したのである。この重大な事態にあたって、地球政府は憂慮すべき問題を抱えていた。重要な科学知識のいっさいが、地球から月へ、月から他の惑星へと漏れひろがっていたのだった。月基地の天文台の職員の中に、スパイが潜んでいることに疑いはなかった。サドラーの使命は、この機密漏洩を突き止め、人類同士による惑星間戦争を阻止することにあった!(以下略)” ハードSF志向であるからといって、クラーク先生の作品には空想上の宇宙人がまったく登場しないというわけでもなく、他のSF作家の創作に比べても、エンタテインメント性は十分にあると思います。『2001年宇宙の旅』シリーズや『渇きの海』『白鹿亭綺譚』『海底牧場』『楽園の泉』等それぞれSF的な設定を十分に生かして、娯楽小説となっています。 なお、この『地球光』には、映画『2001年宇宙の旅』の真空曝露した状態での宇宙ポッドから母船への帰還の元アイデアとなったであろうエピソード描写があります。 #宇宙テーマSF #アーサー・C・クラーク #中桐雅夫 #ハヤカワSFシリーズ https://muuseo.com/jason1208/items/760
書籍 早川書房 300円Jason1208
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『ソロモンの指環 / コンラート・ロレンツ』《早川書房》
早川書房より、1987年に発行された『ソロモンの指環<動物行動学入門>』THE KING SOLOMON'S RINGです。コンラート・ロレンツ[1903-1989]/著、日高敏隆/訳、A5版ハードカバー238頁。原著は1949年に発行されました。 「ソロモンの指環」は古代ユダヤのソロモン王が所有していたと言われる秘宝で、ヤハウェの命を受けた大天使ミカエルよりソロモン王に授けられた指輪です。「ソロモンの指環」を身に着けたものは、その権威により悪霊を従え使役し、動物たちの言葉を知ることができると言われています。ロレンツ博士の意図は“「ソロモンの指環」が無くても、動物たちの意思を知ることは出来る”というものです。 ロレンツ博士は、近代動物行動学の創始者で、いわゆる“刷り込み”行動(鳥類が卵から生まれて、初めて見た動くモノを親として認識する行動)の発見など数々の功績により、他の2名の動物行動学の研究者とともに、1973年ノーベル医学生理学賞を受賞しています。 この本は一般読者向けにロレンツ博士の動物行動学を説明する著書です。ハヤカワ文庫NFにも収録されており、そちらの方が入手しやすいと思われます。 獣医学部をテーマにした有名漫画『動物のお医者さん』佐々木倫子/著で、この本がジョーク的に取り上げられていました。 #ノンフィクション #動物行動学 #コンラート・ロレンツ #日高敏隆 #ハヤカワ文庫
書籍 早川書房 2010年Jason1208
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『タイム・パトロール / ポール・アンダースン』《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1968年に発行された『タイム・パトロール』GUARDIANS OF TIMEです。ポール・アンダースン/著、深町真理子/訳で、原書は1960年に発行されました。 時間テーマSFは、H・G・ウェルズが1894年「タイム・マシン」を発表する以前の1889年に、マーク・トウェインが『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』という作品を書いているくらいに、作家にとっては興味深いテーマだったようですが、この『タイム・パトロール』もそうした一冊です。 “西暦19352年、人類は瞬間移動の研究に関連して遂に時間旅行の方法を発見した。過去へ、未来へ、時間が自由に操作できるのだ! だが、これは、人類のために、利益と害悪の両方をもたらず両刃の剣だった。過去を知り未来を知ることによって人類の知恵は飛躍した。だが過去に干渉して未来を変えようとするいわゆる時間犯罪が発生したのである。かくて時の航路を監視し歴史を正しい軌道にもどすためにタイム・パトロールが設立された。 1954年のマンス・エヴァラードは、そうしたタイム・パトロール隊員の一人だった。(以下略)” あらすじからお分かりの通り、日本のSFに相当な影響を与えた作品です。豊田有恒先生などオマージュ作品をいくつも書いてますし、藤子・F・不二雄先生はこの作品をそのままジュブナイル化したような作品を描いています。 アシモフ先生に至っては、「タイム・パトロール」という概念や存在自体が、人類に益にならないのではないかと、『永遠の終わり』という作品を書いておられます。 #時間テーマSF #ポール・アンダースン #深町真理子 #ハヤカワSFシリーズ https://muuseo.com/jason1208/items/816
書籍 早川書房 1988年Jason1208
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『キャプテン・フューチャー太陽系七つの秘宝 / E・ハミルトン』《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1967年に発行された『キャプテン・フューチャー/ 太陽系七つの秘宝』です。エドモンド・ハミルトン/著、野田昌宏/訳です。エドモンド・ハミルトン[1904-1977]の名を広く知らしめたスペースオペラ『キャプテンフューチャー』シリーズの第一弾です。 “火星に難事あれば火星へ、金星に怪事件あれば金星に、はては遠く海王星、冥王星へと愛機コメット号を駆って、行くところ敵なしのキャプテン・フューチャー! 彼に仕えるはプラスチック・アンドロイドのオットー、鋼鉄製ロボットのグラッグ、<生きている脳>のサイモン・ライト。これこそ太陽系にその名を馳せるフューチャー・メンの面々である。 (中略) 太陽系の正義のために敢然、空くと対決するフューチャー・メン! 本格スペースオペラの決定版キャプテン・フューチャー・シリーズの第一弾!” 既に紹介した短編集「フェッセンデンの宇宙」「虚空の遺産」などの斬新なアイデアの作品や、このキャプテン・フューチャー・シリーズなどのE・ハミルトンの著作の幅が広いのも当然、1904年生で21歳の時に作家デビューした米国SF作家の最長老的な存在だったからですね。 野田昌宏氏の伝法な訳も快調で、ハヤカワ文庫SFに場を移して以降は、水野良太郎氏のイメージ豊かな挿絵を得て、シリーズはさらに人気を得ています。 NHKアニメ「キャプテン・フューチャー」のED曲「ポプラ通りの家」は、アニメ番組全体から見てもベストに入る名曲だと思っています。 #宇宙SF #エドモンド・ハミルトン #野田昌宏 #ハヤカワSFシリーズ https://youtu.be/szMhTx1ntLY https://muuseo.com/jason1208/items/793 https://muuseo.com/jason1208/items/735
書籍 早川書房 300円Jason1208
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『中継ステーション』クリフォード・D・シマック《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1969年に発行された『中継ステーション』、クリフォード・D・シマック/著、船戸牧子/訳です。 “ウィスコンシン州のある片田舎の農場に住むイノック・ウォーレスは、どう見ても30才前後の平凡な農夫としかみえなかった。毎朝ライフル銃をもって周囲の丘を散歩し、午後には、毎日やってくる郵便配達人と話にうち興じ、そのあたおは家に閉じこもったきりで一歩も外にでない。そうした彼の孤独で平和な生活を妨げるものはなにもなかったーーだが、その彼が124才という驚くべき高齢で、不老不死の生命をもつ人間だということを知っているものは、だれ一人いなかった……。 南北戦争の生き残りであるイノック・ウォーレスは、銀河系の星々を結ぶ中継ステーションの管理者だった。彼は長寿の特典と、高度に発達した銀河系の科学知識を、銀河系中央本部から与えられていたのだ。” ごく平凡な一般人が実は、とんでもない使命のために活動してる。というSFではよくあるテーマですが、日本でも漫画家・横山えいじ氏が「スクランブル効果」という漫画で、この作品をパロディ化しています。 (「スクランブル効果」も所有していたのですが、引っ越しのドサクサで紛失したようです) #宇宙SF #クリフォード・D・シマック #船戸牧子 #ハヤカワSFシリーズ
書籍 早川書房 1992年頃Jason1208
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『タイム・マシンーH・G・ウェルズ短編集IIー』《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1963年に発行された『タイム・マシンーH・G・ウェルズ短編集IIー』です。H・G・ウェルズ/著、宇野利泰/訳。この本も古典であるため、“金背”ハヤカワSFシリーズとなっています。 ウェルズ先生の本質は、単なるSF作家というよりも、文明批評家としての卓抜な才能だったと思っていますが、「宇宙戦争」「透明人間」そしてこの「タイム・マシン」など数々のSFのアイデアを残してくれた偉大な《SFの父》の一人だと思っています。 “コナン・ドイルが近代探偵小説の始祖であるように、H・G・ウェルズはサイエンス・フィクションの創始者だ。とくに空想科学小説のアイデアの原型は、H・G・ウェルズにおいてすでに出つくしたといってもまちがいではないだろう。火星人が地球を侵略してくる侵略テーマ、軌道をふみはずした宇宙の漂泊者が、地球めがけて突進してくる衝突テーマ、物体を透明にする透明テーマ等々……。彼がつかわなかった着想は一つもないといっていい。 タイム・マシンも、ウェルズの想像したもっとも典型的な空想的着想の一つである。時間を、この世界を形成する第四次元の平面としてとらえ、過去へ、あるいは未来へと、時を遡り跳躍するという着オスは、空想科学小説になくてはならない重要なジャンルを一つ付け加えたのだ。”(解説より) 収録作5編は「塀にある扉」「陸の甲鉄艦」「魔法の店」「盗まれたバチルス」「タイム・マシン」。 ジョージ・パル監督による映画『タイム・マシンー80万年後の世界へ』(1960)、そしてそのオマージュであるニコラス・メイヤー監督の映画『タイム・アフター・タイム』(1979)は趣のある傑作です。 #空想科学小説 #古典SF #H・G・ウェルズ #ハヤカワSFシリーズ https://muuseo.com/jason1208/items/814 https://muuseo.com/jason1208/items/491
書籍 早川書房 300円Jason1208
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『18時の音楽浴』/ 海野十三《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1965年に発行された『18時の音楽浴』です。海野十三/著、この本も古典であるため、“金背”ハヤカワSFシリーズとなっています。 海野十三(うんのじゅうざ)先生は、本名:佐野昌一で1906年(明治39年)生まれ、逓信省電気試験所の研究員として無線通信・無線電話・テレビジョンの研究をする一方、科学小説・探偵小説の執筆を手掛けた多才を発揮し、活躍されましたが、戦後公職追放処分を受けたまま、1949年に亡くなられたとのことです。 収録作10編は「生きている腸(はらわた)」「宇宙女囚第一号」「第五氷河期」「十八時の音楽浴」「放送された遺言」「ある宇宙塵の秘密」「軍用鮫」「千年後の世界」「特許多腕人間方式」「地球を狙う者」。 作風は、科学的というよりは論理的なオチがつかない幻想的な作品も多く、現在のSF小説に直接繋がるというより、夢野久作『ドグラ・マグラ』のような幻想小説の系譜に連なる作品も多い様に思います。(これは貶しているわけではないです) あまり関係ありませんが、SFアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の艦長の名は海野十三先生から採られています。人気漫画「北斗の拳」のキャラクター“雲のジュウザ”の名前の元ネタも、この海野十三先生だと思われます。 #空想科学小説 #古典SF #海野十三 #ハヤカワSFシリーズ
書籍 早川書房 300円Jason1208
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『宇宙戦争』/ H・G・ウェルズ《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1969年に発行された『宇宙戦争』THE WAR OF THE WORLDSです。ハーバード・G・ウェルズ/著、宇野利泰/訳で、原書は1898年に発行されました。俗に“銀背”と言われるハヤカワSFシリーズですが、この本は金背となっています。 あまりにも有名な、世界初の地球文明外からの侵略を描いた空想科学小説です。 “ある夜、赤く、妖しく輝く火星の表面に、奇怪なガス体の大発生が観測されたーーだが、ごく少数の天文学者をのぞいて、それがそののち世界を震撼させる大事件の、そもそもの始まりだったことを、だれも知らなかった! それから6年め、イギリスのサリー、ミドルセックス、バークシャー各州の人々は、夜空を切り裂くすばらしく大きな流星をみたいだがそれは、ただの流星ではなかった。大気との摩擦ですさまじい高熱を発したそのシリンダー様の物体は大音響とともに地上に落下し、大きな穴をあけて半ば地中に埋まったのだが……驚いて集まってきた人々の眼前で、蓋が取れ、中から異様な生物があらわれたのだ! それは、見るからに醜怪な怪物だった。V字型にえぐれた口、二個の大きな動かない眼、眉毛もあごもないのっぺりとした顔、ゴルゴンの髪にも似た、なん本もの触手ーー火星人だ! 驚きさわぐ人々にむかって、火星人は恐るべき死の光線を発射した。光線は、人も森も建物も、かたはしから焼き払った。銃も大砲も、爆弾でさえ彼らを喰いとめられないのだ……!” 著者ウェルズが、地球外からの侵略という着想をどうやって得たのかは、少なくともビクトリア時代の英国でも、他の天体にも知的生物がいるのではないか、という色々な論説随筆や詐欺話などあったようなので、それらからではないかと思われます。 次のような辛辣な凄い文章(第一章)を書けるのは、当時随一の文明批評家であったH・G・ウェルズだけではないかと感心します。 「かれら(火星人)を冷酷に非難するまえに、われわれそのものが、いかに残忍に、野牛やドードー鳥といつたものを狩りあさったか。いや、すでに絶滅した生物ばかりではない。おなじ人類のうちでも、劣等な種族とみると、これにくわえて恥じなかった残虐を思いおこすべきである。タスマニア人は外見からいつても、りつぱな人類の一種族であったが、ヨーロッパからの移住民がくわだてた絶滅戦争によつて、五十年のあいだに、完全にこの世からあとを消した。火星人が同一の精神をもつて、われわれに戦闘をいどんできた場合、それを正当に非難できるほど、われわれは慈悲の使徒といえるであろうか?」 人種偏見や宗教偏見がごく当たり前だった時代に、このような考えを表明できた人は何人もいないのではないか、と思います。 #侵略SF #H・G・ウェルズ #宇野利泰 #ハヤカワSFシリーズ https://muuseo.com/jason1208/items/754
書籍 早川書房 1996年頃Jason1208
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『月は地獄だ!』ジョン・W・キャンベル《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1962年に発行された『月は地獄だ!』です。ジョン・W・キャンベル/著で、原書は1951年に発行されました。 ジョン・W・キャンベルは小説家であると同時に、Astounding Science Fiction誌の編集者として、米国のみならず世界のSF文学の功労者としても知られています。“Who Goes There(影が行く)”(映画「遊星からの物体X」の原作)なども有名です。 “1年11ヶ月の月面探査を終えて、ガーナー月世界探検隊を迎えにやってきた帰還ロケットは、彼ら探検隊の眼前で爆発した。食料も酸素も水も無い月面で、第二の帰還ロケットが到着するまでの2年間を堪えて生き抜かなければならないのだ。あらゆる補給物資の無い月世界で、サバイバルが始まる” 後に、トム・ゴドウィンによる短編SFとして発表された『冷たい方程式』によって、SFの一ジャンルとして確立した《方程式もの》の先駆的作品です。 #宇宙SF #方程式もの #ジョン・W・キャンベル #矢野徹 #ハヤカワSFシリーズ
書籍 早川書房 1000円ほどJason1208
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『奇妙な論理』I & II / マーチン・ガードナー《ハヤカワ文庫NF他》
『奇妙な論理』I & II 、マーチン・ガードナー/著、市場泰男/訳。ハヤカワ文庫NF。 もともと社会思想社教養文庫より発行されていましたが、教養文庫廃刊後、ハヤカワ文庫NFから再刊されました。 “科学ブームが生んだ一つの奇妙な結果は、新しい異様な「科学」理論が人びとをとらえたことである。疑似科学は、精神や肉体の健康だけでなく、考古学、地質学、物理学など広い分野にわたっている。すぐれた科学解説書からパズルモノまで多彩な作品で知られるガードナーが、疑似科学の実態をエピソードをまじえて物語り、「人間のだまされやすさ」にメスを入れる”(解説より) 解説にある通り、世に一定の信者を集めた多くの疑似科学理論を批判して、注目を集めた本です。 内容としては、「地球空洞説」「ヴェリコフスキー理論」「反進化論」「人種差別を煽る科学理論」「自然療法」「ダイアネテックス」「ESPとPK」「空飛ぶ円盤」「ダウジングロッド」「生物自然発生論」「ルイセンコ学説」「アトランティスとレムリア」「ピラミッドは全ての歴史を語った」「インチキ医師たち」等々を批判の対象として扱います。 問題点は、訳文がやや直訳気味で読み進めるのが難儀するところですが、もし古書等で見かけられたら、是非読んで頂きたい本です。いまだに《水素水》とか詐欺話は絶えることがありません。 個人的には、謎や怪奇は好きですが、誰かから金を巻き上げるとかの、非道な目的で構築された嘘話やカルト宗教は嫌いなので、良書だと思います。 #マーチン・ガードナー #市場泰男 #疑似科学 #ハヤカワ文庫NF #教養文庫
書籍 早川書房 1994年Jason1208
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『フェッセンデンの宇宙 / E・ハミルトン』《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1966年に発行された『フェッセンデンの宇宙』です。エドモンド・ハミルトン/著です。どちらかというとスペースオペラ『キャプテンフューチャー』シリーズで知られる、エドモンド・ハミルトンの短編集です。この項では専ら表題作を扱います。 “天文学者だった私は、ある日数年ぶりに、友人の天文学者フェッセンデンに呼び出される。フェッセンデンは、実験室に人工の宇宙を創造したというのだ。宇宙をただ観測するのに飽き足らなくなった彼は、自分で自由に操作できる宇宙を作り上げようと考え、二枚の巨大な金属板の間に重力を遮断した空間を発生させ、そこに縮小した原子のガスを満たしたのだ。次第に凝縮したガスが無数の天体を生み、小さな宇宙が誕生した。 半信半疑だった私だったが、実際に“フェッセンデンの宇宙”を見せられると信じざるを得なかった。ミニチュアの宇宙を公転するミニチュアの恒星とその周りをめぐるミニチュアの惑星。無数の惑星の上には様々な知的生命が芽生えていた。その豊潤さ、美しさに私は魅了された。 しかしそうした生命を単なる実験材料だと考えるフェッセンデンは、故意に惑星規模の災害を引き起こし、興味本位に大殺戮を繰り返す。そして、それをなす術も無く見守っていた私は……。” 神ではない、知性を持つ存在によって創造された人工的な「宇宙」というアイデアで、多くのSFに影響を与えた短編作品です。藤子・F・不二雄「創世日記」、光瀬龍「百億の昼と千億の夜」などが思い浮かびますし、現実世界の雛型がどこかに存在しているみたいな話はホラー話にもあります。 最近流行りの、異世界ものやRPG世界への転生話なども知らずに影響を受けている気がします。 #宇宙SF #エドモンド・ハミルトン #小尾芙佐 #ハヤカワSFシリーズ
書籍 早川書房 1000円程Jason1208
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『火星年代記 / レイ・ブラッドベリ』《ハヤカワSFシリーズ》
早川書房より、1963年に発行された『火星年代記』です。レイ・ブラッドベリ/著で、原書は1950年に発行され、レイ・ブラッドベリの名声を確立しました。 ハヤカワSFシリーズ版は絶版ですが、ハヤカワ文庫SFなどで読むことができます。SFにおける抒情詩的な作品の代表的な作品だと思います。 “アメリカ合衆国は火星探検隊をのせた宇宙船を打ち上げる。しかし第一次から第三次までの探検隊はいずれも火星人の攻撃によって絶滅してしまう。武装を整えて火星に乗り込んだ第四次探検隊は廃墟と化した都市を発見する。先行した探検隊の持ち込んだ伝染病によって火星人はほぼ絶滅してしまっていたのだった。やがて地球から火星への植民が本格化し、大勢の人々が移住してくる。彼らのほとんどは火星人や古代文明には関心を持たず、地球の価値観をそのまま火星に持込み、地球人の街を作っていく。ところが、地球で核戦争が勃発し、ごく一部の例外を残して人々は地球に戻ってしまう。核戦争は長期化し、地球上の街は壊滅していく。長い時が経ち、地球からなんとか脱出して火星にたどり着いた家族が、新たな「火星人」として生活を始める。” 1970年代末に米TVでシリーズドラマ化されましたが、あまり話題にならなかったように思います。 #宇宙SF #抒情SF #レイ・ブラッドベリ #小笠原豊樹 #ハヤカワSFシリーズ
書籍 早川書房 1000円程Jason1208