DVD「ザ・デッド ―ダブリン市民より―」

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 映画作家が自らの最後の作品、平たく言えば「遺作」をどうするのか、その選択ができるのか、ということについて考えてみました。最近では、大林宣彦監督が最後の力を振り絞って映画『海辺の映画館―キネマの玉手箱』を完成させ、その公開予定日(2020年4月10日)に逝去された、ということがありましたが、このように最期まで自身の仕事を全うできたという事例はあまりないようですね。すなわち、全盛期には名作、佳作を作り出し、名匠、巨匠と言われた映画監督であっても、老年化するにつれてオファーが無くなる、あるいは製作を兼ねていた場合であっても、資金が集まらない、配給先が決まらない、などの理由で、いつの間にか第一線からフェードアウトし、やがて新聞やネット記事などでその訃報を見る、というパターンが大半のような気がします。ただ、このパターンでも監督本人の意識としては、青年期から壮年期に仕事をやり切ってその後の余生をある程度の充足感をもって過ごせる場合と、それに対して、まだ仕事がしたいのにすることができず、失意のまま余生を過ごさざるを得ない場合もあるのでしょう。
 それで本展示アイテム収録作の場合ですが、前段で掲げた二つのパターンでいうと前者の大林監督の場合に該当することになりますかね。すなわち、本作の撮影時、ジョン・ヒューストン監督は肺気腫に冒されて車椅子と酸素ボンベに頼りながらの演出を余儀なくされるほど衰弱しており、結局劇場公開前に逝去するに至ったわけですが、最期まで映画人としての仕事をすることができたわけです。つまり、大林宣彦監督もジョン・ヒューストン監督も最期まで現役の映画監督であることを選択し、それが果たされたというのは、ある意味、本望だったのでしょう。
 さて、本作の脚本と主演をそれぞれ担当したのは、四人目の夫人でバレリーナのリッキー・ソマとの間に生まれたトニー・ヒューストンとアンジェリカ・ヒューストンでした。アンジェリカがジョン・ヒューストン監督の前作『女と男の名誉』でアカデミー賞助演女優賞を受賞するなど俳優として順調なキャリアを積み重ねていたのに対し、トニーは本作の脚本以外には目立った活躍はなかったのですが、とにもかくにも自身の肉親をおそらく自分の遺作となるのであろう作品に参加させることができたのは、ジョン・ヒューストン監督の最後の我儘が叶えられたのかな。それはともかく、結果的には本作の出来という側面ではこの起用は奏功したと思っています。
 ということで、作品の具体的な内容やアレックス・ノースの音楽については別の機会に述べます。特にこの作品には忘れられない名ゼリフがありますので、そんなことも含めて…。
https://www.youtube.com/watch?v=nNgMhgnt4FY
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