ラペル&カラー
衿の縫い合わせのライン(ゴージライン)を境に下部分を、下衿、またはラペルと呼ぶ。形や幅、ゴージラインの角度、位置などで雰囲気が変わるラペルパーツ。一般的なジャケットやスーツに多く採用されるノッチドラペルを始め主なバリエーションを紹介。また上衿と下衿が分かれていないタイプのショールカラーも掲載する。
ノッチドラペル
ノッチ(notch)が英語で「V字型の切り込み」を意味する通り、上衿と下衿の縫い合わせのライン(ゴージライン)が一直線で、切り込み部分がV字型に見える。シングルスーツに多く、定番の形。
「ラペルの巾が広い方がエレガント、細い方がシャープな印象になりますね」(岡田さん)
フィッシュマウスラペル
魚の口のように見える丸みであることからその名が付けられた。1965年代によくみられる伝統的なテーラードスーツに現代的なデザインとシルエット、素材感などを取り入れた衿型である。
「10年くらい前は時々見かけたが、最近ではあまり見ないですね」(岡田さん)
ピークドラペル
ピークは「先の尖った」という意味があり、ピークはその名の通り先端が上に向いて尖っている下襟のことを言う。装飾の意味合いが強く、ダブルスーツに多く見られドレッシーな印象を与える。
「タキシードでも使われるようにフォーマルウェアっぽい印象を与える型ですね」(岡田さん)
クローバーリーフラペル
クローバーの葉のように丸くカットしたことからその名が付いた。丸みのある衿型は柔らかな印象を受けることから、現在ではメンズよりもレディーススーツに多く見られる衿型である。
「ゴージラインを曲線で作るのは難しく、技量を必要とする衿ですね」(岡田さん)
ショールカラー
下衿と上衿がゴージラインで分かれておらずフロントボタンに向かってゆるやかなカーブを描いているのが特徴。ショールカラー(shawl collar)は、和訳するとヘチマの衿を意味する。タキシードなどのフォーマルウェアに採用され、光沢感のある素材が使われることが多い。
「アバンギャルドテイストが好きな人がトライされたこともあります」(岡田さん)
ショルダー
衿元から袖までつながる肩周り。湾曲ラインを描いたり、袖に雨だれのようなギャザーを寄せたり、バリエーションが豊富なディテールだ。
ナチュラルショルダー
ナチュラルショルダーは首筋から肩先に流れる、ごく自然なラインが特徴的。落ち着きのある綺麗なラインを保つことができ、どんな体型の人でも着こなしやすく、ファッション性と着やすさの両方を兼ね備えている。
「もっともオーソドックスでどんな体型な人にも合いやすいですね」(岡田さん)
コンケーブドショルダー
コンケーブとは「くぼみのある、凹面の」の意味があり、肩のラインが湾曲していて肩先が尖った形をコンケーブショルダーという。主にテーラード・ジャケットに使用され、70年代の流行時には極端に尖った形状のものも存在した。
「特徴的なカーブを作りこむのが難易度が高いです」(岡田さん)
ロープドショルダー
肩先にロープが入っているように見えることからその名がついたロープドショルダー。少し高く盛り上げられた肩が特徴的で、ビルドアップショルダーとも呼ばれる。腰からシャープさを強調できるデザインである。
「男性的なシルエットに作りこむ英国調のジャケットによく見られるショルダーですね」(岡田さん)
雨降り(マニカカミーチャ)
イタリア語で「シャツの袖」という意味のマニカカミーチャ。パットやたれ綿を使用せずにシワシワに取り付ける独自の技法であり、肩から腕の動かせる範囲が広がってジャケットを着ていながらでも動きやすいことが特徴である。
「もともとはナポリの職人たちの腕の技量を見せる手法だと言われていますね」(岡田さん)
袖
ボタンの数、付け方、袖口の開閉など、狭い部位ながらもアレンジ幅が広いパーツ。
「もっともノーマルなのは4つボタンですが、好みで増やしたり減らしたり。お客さんには10個程つける方もいます」(岡田さん)
本切羽
本切羽とはジャケットの袖ボタンにボタンホールがあり、袖が開閉できる仕様のことである。既製品のジャケットでは本切羽ではなく縫い付けられていることが多い。
「ボタンホールが斜めに傾斜しているのも個性的で良いかもしれませんね」(岡田さん)
開き見せ
開き見せは本切羽がボタンによって袖が開閉できるのに対して、開閉できるように見えて出来ない仕様になっている袖である。袖丈の補正がしやすいので既製品によく採用される。
キッスボタン
ボタンの間隔が狭く重なってキスしているように見えることからその名がついた。イタリアの職人が高い仕立ての技術を用いていることをアピールするためにうまれ、おしゃれな雰囲気をかもしだすディテールである。
「私のところでは英国スタイルが好きの人が多いこともあって、それほどリクエストはないですね」(岡田さん)
フロントカット
角を付けたスクエアカットや、カーブを描いたラウンドカットなどがあり、カーブの角度によっても印象が大きく変化するパーツ。テーラーやブランドによってもこの角度の深さや呼び名は様々だが大きく4つに分けて紹介したい。
レギュラーカット
最も標準的なフロントカット。丸みを帯びたなだらかなカッティングが特徴で、シングルジャケットに使われることが多いカッティングの型。
「最近少しレギュラーも開き気味が多いですね」(岡田さん)
カッタウェイ
フロントが腰から斜めに丸くカットされたデザイン。前裾が逆V字型になっているのが特徴。モーニングスーツやテールコートなどにも使われる。
「クラシカルかつ優雅さが漂うデザインですね」(岡田さん)
スクエアカット
フロントに丸みをつけず、角形にしたのがスクエアカットである。カジュアルジャケットにもよく見られる型でありダブルジャケットに主に使われる。
「シャープでかっこいい印象のジャケットになりますね」(岡田さん)
ラウンドカット
スクエアの角を丸く落としたデザイン。大きくなだらかなラインは、ゆったりと落ち着いた雰囲気が魅力。大人カジュアルなスタイルや、ドレスライクな装いにもおすすめのカットデザインである。
「よりスーツ寄りの雰囲気になるデザインですね」(岡田さん)
胸ポケット
物を入れる用途よりは、ジャケットのデザインとして胸の位置に配置されているパーツ。胸ポケットと腰ポケットどちらにも使われるデザインもあれば、どちらか片方だけに採用される型もある。
パッチポケット
パッチとは張り付けのポケットのことを指し、一般的にアウトポケットと言われる。カジュアルなジャケットなどに用いられ、フタ付きやフタ付きでボタンが付いたものなど応用されたデザインも多様である。
「カジュアルな雰囲気で、トラッドな紺ブレとも相性が良いですね」(岡田さん)
箱ポケット
ジャケットの胸ポケット位置に切り込みを入れてへり飾りの当て布をつけたポケットで、ポケット口が箱型に作られた切りポケットの総称。背広の胸ポケットとして最もオーソドックスな型である。
「僕が一番押しているデザインですね。斜めに傾斜しているので腰のスラントポケットとも相性が良いですね。視線が腰の中心に集まりますね」(岡田さん)
バルカポケット
バルカは船を意味し、胸ポケットの下側が脇に向けて船底のように柔らかくカーブしたもので袖側に向けて斜めにあがっているのが特徴。胸のボリューム感が綺麗に見せられて、ドレープ感のあるエレガントなスーツスタイルが演出できる。
「イタリアっぽい袖口のキッスボタンとショルダーの雨降り袖と合わせるのも相性が良いのでしょうね」(岡田さん)
玉縁ポケット
玉縁とはポケット口の布端をバイアスカットされた別布で縁取りされた飾りである。フタがない分、胸まわりをすっきりと見せることでき、フタが折れたりめくれる心配もないためスタイリッシュなデザインとされている。
腰ポケット
脇ポケットとも呼ばれる。胸ポケット同様、様々なタイプがあるが、腰だけにあしらわれるデザインのものも存在する。胸ポケットとデザインをそろえたり、バランスが良く見える組み合わせでつけられる。
フラップポケット
フラップは「旗などがバタバタする」といういう意味があり、ジャケットのフタ付きのポケットのことをフラップポケットという。ビジネススーツの腰ポケットのなかでも一番オーソドックスな形である。
スラントポケット
英国スーツを代表する斜めに切ったポケットを指す。乗馬の際にポケットの中のものを落ちにくくし、出し入れし易くするハッキングポケットと区別なく説明されることが多いが、基本的に斜め切りポケットの総称である。
「乗馬服の名残なので英国風になりますね。私はスラントが好きで傾斜もこのイラストよりももっと深目にすることが多いですね」(岡田さん)
チケットポケット/チェンジポケット
チェンジは小銭を意味し、釣り銭や小銭を入れていた名残から残っているポケットとして名がついている。腰ポケットの上に小さなポケットをつけたものであり、視点が上にくるため足を長く見せる効果がある。
「重ねたり、位置に変化をつけてあえて外して楽しむことも。ちなみにこのポケット、ギーブス&ホークスではアウトサイドチケットポケットと呼んでいましたね」(岡田さん)
※イラストはチェンジポケットをスラントさせたもの。スラントしていないタイプのものもバリエーションとしてある。
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