レコードコレクターにとって、自分が所持している1枚が世間的にどれほどの価値があるのかは気になるところだろう。売るにしても、ただの中古としてではなく、ちゃんと価値を理解してくれるショップに買い取ってもらいたいと考えるのは当然のことだ。
セタガヤレコードセンターはレコード買取の専門店として非常に高い評価を受け続けている名門ショップ。今回はミューゼオからレコードコレクターとしてnegritaさん、利右衞門さん、Vinylさんの3人が、実際にセタガヤレコードセンターの買取査定を体験してみる。担当してくれる鑑定士はセタガヤレコードセンターの廣瀬さんと田中さんのお2人。
5人で各々のレコードを持ち寄り、レコード愛を語り合いながら、目の前で査定してもらい、どんなポイントが価値を見分けるポイントとして重要なのかを知る。鑑定士の非常に奥深い知識にも感激の買取査定体験レポートをどうぞ!
それぞれのレコード愛遍歴と好きな音楽について
左からレコードコレクターのnegritaさん、利右衛門さん、Vinylさん
——座談会を始めるにあたって、皆さんがどういう経緯でレコードをコレクションするようになっていったのかを教えてください。
negritaさんのお気に入りレコード。ザ・ローリング・ストーンズ『Black And Blue』、スウィート・インスピレイションズ『Sweet Sweet Soul』
negrita:僕がレコードを集め始めたのは23年前の1999年くらいです。最初はR&Bを片っ端から買い始めて、というのが音楽収集のきっかけです。そんなある時、ベイビーフェイスがザ・ローリング・ストーンズをプロデュースするというフリーペーパーを見て、ザ・ローリング・ストーンズに興味を持ち、どハマりしたんです。『Black And Blue』というアルバムの5曲目『negrita』に衝撃を受けて、次第にソウルとファンクにハマっていきました。そのようにして、聴く音楽の幅がどんどん広がっていきましたね。
フォーマットという意味では最初はCDも買っていました。CDは背にタイトルがあるから並べているだけでタイトルがわかるんですけど、レコードは引き上げてみないと何かわからないというところにグッときましたね。大きさ的にも好みで、レコードはそれだけでアートにもなるというか。物として愛着が湧くのでコレクションするのがどんどん楽しくなっちゃったんですよ。そうやって素晴らしい音楽に出会ううちに、どんどんレコードを集めるようになっていったんです。
利右衛門さんのお気に入りレコード。ザ・ビートルズ『A Hard Day's Night』
利右衞門: 私は中学2年生の頃からザ・ビートルズが好きですね。ある日、父が偶然にも『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』のビデオを借りてきて、それを観たときに音楽だけではなく映像にも衝撃を受けました。当時はCDがなかったのでレコードから集め始めて、買ったのが、ビートルズ来日20周年記念ということで1986年にリリースされた赤盤ですね。その後も色々とレコードを買ってきましたけど、これが1番大事です。
その後、結婚してからはプレイヤーが自宅になかったことからレコード生活を一旦ストップさせていたんですけど、2019年にインスタグラムを始めた頃に仲良くなった方がポール・マッカートニーの『Wings Over America』のレコードをくださったんです。私もCDで持っていたのですが、実物を持ってみると、やはり聴きたくなってしまうもので(笑)。それでレコードの再生環境を整えて聴いてみたら、音が臨場感たっぷりで、しかも迫力満点。もうCDとはまったく違うんですよ。それで、実家に置いていたレコードを全部引き上げて、またどんどん集めるようになっていきましたね。
少し前にUK盤の『HELP!』を買ったのですが、やっぱり音が違いすぎて驚きましたね。音の響きも声も、まるで近くで歌ってくれているかのような幸福感がありました。
Vinylさんのお気に入りレコード。The Sundays『Goodbye』
Vinyl:僕は生まれた頃からアナログのレコードプレイヤーが家にあって、父がたくさんのレコードを所持していたので音楽的には恵まれた環境で育ちました。最初に買ってもらったのは、もんた&ブラザーズでしたね。中学生になると段々ヒットチャート系を聴くようになって、高校生の頃には自分でお金をやりくりしながら、レコードを買いまくり、卒業する頃には3000枚くらい持っているような状況でした。大学に入るとジャズにハマり、溜めたお金で120万円くらいのステレオ装置を買ったのですが、それが嘘みたいな話なんですけど、当時住んでいたアパートに雷が落ちて爆発してしまったという……。
一同:ええっ!?
Vinyl:せっかく手に入れたステレオも修理不可能な状態になってしまい、たくさん集めたレコードも聴けない状態になってしまったので、本当に大事なレコード以外は全部売却してしまったんです。そこから20年ほど熱心に音楽を聴くことはなかったのですが、2016年にたまたまご贔屓にしてるミュージシャンがアナログを出すということで、そこからレコード熱が再燃した流れですね。だから、今は学生の頃に所持していたレコードを取り戻しているような状況なんですよ。
僕はレコード自体はもちろんですが、再生装置も含めて、魅力を感じています。今使っているプレイヤーも18台くらい買い替えて、ようやく自分の好みのものになったんです。
左からセタガヤレコードセンター買取査定担当の廣瀬さん、田中さん
廣瀬:私がレコードプレイヤーを買ったのは中学生の頃でした。当時から好きだったクラブ系の音楽などは新譜もレコードしか出ていないものが多く、CDとレコードを併用しながら音楽を聴いていましたね。その後、大学の頃にクラブミュージックのレコード専門店でバイトを始めて、そのまま社員として勤めていました。そして、今はセタガヤレコードにいますので、ずっとレコードショップでしか働いていないんですよ。
基本的に音源はレコードで買うことがほとんどです。実家の自分の部屋にも山積みになっていて、1万枚くらいはあると思います。だから、改めてレコードの魅力とは何かを考えると難しいですね。趣味やこだわりは、どれだけ手間をかけるかということが大切だと思うので、手間をかける甲斐があるというのがレコードの魅力なのかもしれません。
田中:僕は歳の離れた兄が2人いたこともあって、中学生の頃から色んな音楽を聴かされていました。それで高校生になると夢中でCDを買い漁るようになり、ジャンルも雑食で色んなCDを集めてきました。その中で、CD化されていないアルバムを聴くためにはレコードを買うしかないという状況になったことがきっかけで、アナログコーナーにも足を運ぶようになったんです。だから全部を網羅して聴きたいからレコードを買い始めたというのが最初でしたね。
そこからどんどんレコードの魅力に取り憑かれていくんですよ。A面B面という区切りがあることで音楽の聴こえ方が変わってきて。盤をひっくり返すという作業も楽しいし、レコードで聴くことによってより一層作り手の思いも含めた部分まで深く作品に触れたような気がして、そこからハマっていきましたね。
利右衞門:レコードは切替が絶妙なんですよね。漫然と聴くんじゃなくて仕切り直して聴くような感覚があっていいし、特にライブアルバムは、演奏が一息つくタイミングとレコードを裏返すタイミングが同じなので、仕切り直して次の演奏が始まる時によりワクワク感が増すような気がするんです。
negrita:A面B面の感覚はCD化されちゃうとわからない部分ですもんね。作品としてはA面とB面で、それぞれの物語があるはずなのに、通しで聴いてしまうと無理やり繋がっているような違和感を持つことがあるんです。それに、CDを想定して作られた新譜はちょっと長いと感じてしまうんですよ。集中して聴くのは20分程度ですから。そういう意味ではレコードはちょうどいいですね。
廣瀬:そのCDですら、今はサブスクになってネット上で聴けるものになっていますよね。シングル曲とかは1曲単位で販売されていてもいいと思うんですけど、アルバムはアルバム単位で聴いてほしいですよね。そのアルバムに収録されている1曲が目当てで聴いていたとしても、流れで違う曲が耳に入ってくることで、別の楽しみ方が生まれる機会にもなると思うので。
negrita:デジタルリマスターってあるじゃないですか。過去の音源をリマスターしてCD化するっていう。あれが個人的には好きではなくて、例えばザ・ローリング・ストーンズであれば何回もリマスタリングされているものの、やっぱりその時代に合わせた音に変わっていて、本当の音の良さが失われているような気がしてならないんですよね。CDもそうだしアナログのリマスターも。リマスタリングして今の音に無理やり寄せているような形になると、オリジナルを聴いている人間からすると音の抜けが非常に悪いっていうのを感じますね。新譜と中古で聴き比べると、音の違いをすごく感じちゃうんですよ。
利右衞門:わかります。私、レコードは音の缶詰だと思っていて、録音したときの空気も一緒に入っていると考えているんですよね。針を落とした時からサーッって部屋にスタジオの空気が流れるじゃないですか。それが好きで聴いているんです。『Abbey Road』の50周年記念盤をCDとアナログ両方買ったんですよ。それはそれで良かったんですけど、その後にUKのオリジナルを買って聴いたら全然違っていて。
廣瀬:レコード用語で初期プレスに近いものを鮮度が良いって言いますよね。
利右衞門:そう。オリジナルの方はギターの弦が振動しているのもわかるし、シンバルの音の残響でまだ空気にその振動が残っているようなところまで感じられるので。リマスターされたものは音が粒だっていて透明感もありクリアで綺麗なんですけど、なんだか迫力にかけるというか。ちょっと残念な気持ちになったりもするんです。
Vinyl:本当にその通りだと思います。僕も『Abbey Road』の50周年記念盤を買ったのですが、結局CDと同じようなものに聴こえてしまって最後まで聴かなかったですね。
現代のレコードムーブメントに対する各々の感覚
——昨今、若い世代にもレコードが人気ですが、そういったブームを感じますか?
廣瀬:そうですね。新しくレコードを聴き始めたという人は以前と比べてすごく増えたと思います。
negrita:僕もインスタグラムで、若い人がレコードのポストをしているのをよく見かけますね。ただ、音楽が本当に好きでレコードにたどり着いたというよりは、物としての面白さに惹かれている部分もあるんだろうなとは思います。いわゆるインテリアの1つとしての考え方ですね。そこにはアート的な感覚もあるんじゃないですかね。あと、廣瀬さんが仰ったようにサブスクも1つの要因なんだと思います。そこに対するアンチテーゼ的なものもあるのかなと。
廣瀬:いわゆるカウンターのカウンター的な立ち位置にレコードがあるということですね。
negrita:あと、日本の若いミュージシャンが影響を受けてきた音楽に過去の音楽を挙げていたりするので、そこでレコードを掘り始めた人もいるのかもしれないですね。そうやって音楽を聴いて、自分でもやっているのであれば、やっぱりレコードで作品を発表したいと思うでしょうしね。
廣瀬:自分の好きなアーティストが持つカルチャーを辿って、若者がレコードにたどり着いているということですね。たしかにレコードは世界的にブームですよね。イギリスが発祥のRECORD STORE DAYも世界的に盛り上がりを見せていますし。
negrita:その海外でのムーブメントって、ここ数年の話なんですかね? 僕からみると90年代くらいからアナログを出しているミュージシャンが多い気がするんですよね。クラブ系のミュージシャンは当然というのもあるでしょうけど、海外って最近になって流行り始めたというより、そういう文化が根付いていたりしないのかなって。
廣瀬:日本ではCDに切り替わってから全くレコードが注目されなかった時代がありましたよね。そして2000年前後のDJ視点でのクラブミュージックブームがありました。その時代と比べて、今の方が売れているって言われ方をしているんですけど、ちょっとピンとは来ないところもあって。渋谷の宇田川町はレコード・ショップが一番多い街としてギネスブックに載っていたり、当時働いていたレコード・ショップでも、大物のラッパーの新譜が出るとなったら5000枚オーダーして、それも1週間で売り切ったり。今はそういうブームではないですよね。海外で今レコードブームと言われているものはもっと裾野が広くて。それこそリマスター盤だとか。例えば、先月はニルヴァーナの30周年記念エディションの『Nevermind』があるチャートでは1位だったりするので、そういう定番をレコードで聴くという動きも活発になっているんじゃないかと。そういう意味でレコードの文化が広まった感じはしますね。
田中:何をもってブームというかですが、廣瀬さんが言うような1作品で何千枚もレコードが売れるようなアーティストがいるかというと、今の日本ではほとんどいないんですよね。ただ、色んなアーティストがアナログを出すようになったから弾数としては増えているかもしれないですよね。ロットで言ったら少数で、300~500枚程度でしょうけど、弾数が多いということでブームだと考えられるのかもしれません。
negrita:300~500枚ですか。そんなに少ないものなんですね。もっと多いかと思っていたけど。やっぱりここ何年か客層が変わったりしたんですか?
廣瀬:そんなに大きく変わったところはないと思いますが、ここ数年で言えば、シティポップのムーヴメントで日本人アーティストが海外でも評価されるようになったというのも大きいトピックですよね。
negrita:それも一因としてあるんですかね。日本でアナログブームというか、見直されつつあるという。
いよいよ買取査定体験へ! 一体いくらになるのか
——では査定体験前に、まず査定担当の2人が持ってきてくれたレコードについても教えてください。
廣瀬さんのお気に入りレコード。右が自主制作盤のジョン・コルトレーン『Cosmic Music』、左が同レコードをリファインしてリリースされたもの
廣瀬:ジョン・コルトレーンと奥さんのアリス・コルトレーンのアルバム『Cosmic Music』なんですけど、これを出す前に1回自主で出しているんですね。コルトレーンが亡くなった後に未発表だった曲とアリスが作った曲が収録されています。
もともとコルトレーンが属していたインパルス・レコードがリファインしてリリースするよ、という提案をして、それにアリスが乗っかる形で発表された作品ですね。レコードが終わった最後の最後にコルトレーンが奥さんの名前を呼ぶ声が入っているんです、「アリス」って。こないだ気づいたのですが、自主盤の方には、その声は入っていなくて。ロマンを引き立てるために入れたのかなと勝手に想像して楽しんでいますね。
そんなレコードにまつわるアレコレを綴ったコラムをセタガヤレコードセンターのウェブで連載していますので、よければこちらもチェックしてみてください。
田中さんのお気に入りレコード。右がヴァン・モリソン『Veedon Fleece』、左がライ・クーダー『Into the Purple Valley』
田中:持ってきたのは2枚です。まずヴァン・モリソンが1974年に発表したアルバム『Veedon Fleece』のUKオリジナル盤ですね。これは僕の失敗談でもあるんですけど、ヴァン・モリソンは北アイルランド出身のアーティストなので自分の中ではUK寄りの人っていう認識で、レコードを集め始めたときにも、勝手にヴァン・モリソンのアルバムはUK盤がオリジナルだとずっと思い込んでいたんですよ。
よくよく考えたらリリース元がワーナーだしそうじゃないって気づいてもよかったんですけど。ずっとヴァン・モリソン=UKみたいなところがあったから、「やった! UK盤が手に入った!」みたいな感じで大喜びしていたんですけど、裏面を見たらアメリカ録音なんだ……、じゃあワーナーってことは……って考えて、そこでやっとUS盤が本当のオリジナルって気づいてしまったという(笑)。そこからUK盤とUS盤の違いをより強く意識するようになりましたね。そのきっかけになった1枚です。とはいえUK盤も音がいいんですよね。1番有名なアルバム『Astral Weeks』は、UK盤の方が音がいいと言う人もいて、そうなるとUK盤、US盤の両方を揃えていかないといけなくなるっていう(笑)。
廣瀬:UK盤は音がちょっと硬いイメージがありますね。
田中:そうですよね。もう1枚はライ・クーダーにしました。セカンドアルバムの『Into the Purple Valley』、邦題は『紫の峡谷』なんですけど、これはUSオリジナル盤で、ジャケットの表面にテクスチャー感がある味わい深い装丁です。
利右衛門:触りたくなりますよね。
ライ・クーダーのラベル。後期ワーナーロゴ有り
ライ・クーダーのラベル。初期ワーナーロゴなし
田中:そうなんです。最近のレコードだとこういう質感のジャケットってあんまりなくて普通の厚紙なんですけど。ライ・クーダーはリプリーズ・レーベルのアーティストで、この作品は1972年のものです。この頃のリプリーズのラベルはオレンジ1色のタン・ラベルと言われていて、まだ外周部にワーナーのロゴが入っていないのですが、これがオリジナル盤だと見分けるポイントです。ここに(W)(ワーナーのロゴ)が入っているものは、もう少し後の時代の再発盤ですね。ちなみにライ・クーダーの人気アルバム『Chicken Skin Music』は1976年のリリースですが、この時期のリプリーズのラベルには既に(W)が入っているので、このアルバムは(W)有りがオリジナルとなります。で、続く1978年のアルバム『JAZZ』になると、レーベルがリプリーズからワーナーに変わるので、ワーナーのラベルがオリジナル盤になります。
リプリーズってもともとワーナー傘下というか、ワーナーに買収されているんですよ。もとを辿るとフランク・シナトラとワーナーが共同出資していたレーベルで、途中からシナトラはリリースに興味を失って株式を売却し完全にワーナーの子会社になるんです。その後、レーベル内の組織改変で1976年にニール・ヤングとシナトラだけを残して所属アーティスト全員がワーナー本体に移籍させられちゃうんですね。だからライ・クーダーも自動的にこのアルバムからワーナーのラベルに切り替わっているというわけです。
利右衛門:なるほど、そんな点から年代などを見分けるんですね。
negrita:その知識の深さ、ちょっと怖さすら感じます(笑)。
Vinyl:僕も驚きました。すごい知識ですね。この後の査定体験が楽しみです。
——そういった詳細な点も踏まえて廣瀬さんと田中さんに査定していただきます。まずはVinylさんから査定してもらいたいレコードを紹介していただけますか?
Vinyl:では、僕からはシュガー・ベイブの『Songs』を。30年前に中古で2000円くらいで買ってそこからは聴いてないんですけど。
田中:非常に綺麗な状態ですね。まず見るポイントは品番ですね。NAL-0001という品番のものがエレック・レコードから出ている初盤になるので。あとはインサートが入っているかどうかと帯がついているかどうか。
廣瀬:ちなみにこの品番のものは全部そうなんですけど、ラベルの“SUGAR”が誤字で“SUGER”になっているんです。ただ、誤字のものしか存在しないので、そこは判別ポイントにはならないんですよ。このジャケットをデザインしたのが、山下達郎さんの若い頃の知り合いで美術学校出身の人らしいのですが、山下達郎さんがリクエストしたのが、ざらざらした手触りのジャケットにして汚れやすく作ってくれってことだったそうです。棚から取るたびに手アカがついてボロボロになるまで聴いて欲しいから、そういう仕様で作ってくれっていう。だから、あえて白い部分を残して汚れが目立つように、触るところを全部白くしているんです。逆に言うと綺麗なのがあんまりないと言えますね。
例えば帯については、はっぴいえんどの『風街ロマン』などは帯のところに「買ったらこれは破り捨ててください」って書いてあるんですよ。帯がジャケットのデザインを壊すものって考えもあったりして。だから特に帯が貴重になっているなんてケースもあります。
田中:これは盤は綺麗なのですが、ジャケットにややシミが付いてしまっているので、もし帯が残っていたら2万円くらいでしょうか。仮に帯付きでジャケットの状態も良好であれば2万5000円くらいなのですが。
Vinyl:すごいですね……。
利右衛門:購入時の金額と比較すると大分上がっていますね! 私は最初に買ったUK盤ということで『HELP!』にします。5980円で買ったレコードです。
廣瀬:ビートルズはマザーとスタンパーもわかって、タックスコードというのもあります。このタックスコードがあるおかげで、何年の何月から何月までに作られたのかということが、ほぼわかるんですよね。本当にビートルズのレコードのディティールをすべてを理解していれば、それだけでレコード屋をやっていけるくらいです(笑)。長年に渡ってコアなファンの方が多くて、研究し尽くされているので細かいところまで解明されているんですよね。
利右衛門:スタンパー自体数字だと思わなかったです。
廣瀬:そうですよね。
田中:キズもありますけど全然浅いですね。盤の状態も鑑みて7000円くらいでしょうか。だから5980円は良いお買い物だと思います。
利右衛門:そうですね。ありがとうございます。
negrita:では、僕はハウンド・ドック・テイラー の『Hound Dog Taylor and the House Rockers』をお願いします。これは隣町のアンティークショップの段ボールに入っていて100円で買いました。CDでも持っていたのですが、安いし買っておこうと思って。それで盤を取り出してみたら違和感があったんですよね。アリゲーター・レコーズなのでラベルが緑色だろうと思っていたら白だったので。
左の白ラベルがnegritaさんのもので、右の緑ラベルが田中さんが持ってきてくれたもの
田中:アリゲーターはラベルが緑ですよね。でも、実は初期は白なんです。1971年に設立されたレーベルなのですが、これが記念すべきアリゲーター・レコード第1弾リリースのアルバムですね。もとはデルマーク・レコードというジャズやブルースの名門レーベルで働いていたブルース・イグロアという人がデルマークからリリースしようと考えていたらしいのですが、企画が通らなかったそうなんです。そこで、このアルバムを出すために独立して作ったのがアリゲーターなんですよ。
最初は、デルマークの仕事とレーベルを掛け持ちでやっていたためかリリース数は少なく、1971年に出されたのは、この1枚だけでした。1973年以降、基本的にラベルの色が緑になるんですね。でも、けっこう白ラベルも混在していて。白ラベルにはレーベル所在地の郵便番号が60611と記載されているのですが、緑ラベルになると引越し後の郵便番号60660に変わるんです。なんですけど、73年以降に貼られている白ラベルを見ても古い住所のままなんですよ。だから、恐らくは再発盤にも余った白ラベルを使い回していたんじゃないかなって推測ができるんです(笑)。だから、これもリプレスの可能性がありますね。
negrita:複雑ですね。それを見分ける方法はあるんですか?
田中:マトリクス(レコード盤面に刻まれた識別番号)を見ればわかります。もう1つ見分けるポイントがあって、このアルバムは、ジャケットの裏側の右にレーベルの住所が入っています。ファーストプレスではその住所に駅名の“Ft. Dearborn Station”まで書かれているんですよ。それがリプレス以降はなくなります。これは駅名があるのでファーストということになりますね。 お値段的には2500円から3000円ほどでしょうか。100円はありえないです(笑)。
ジャケットの裏面を見ると、左のnegritaさんのものには住所に駅名が入っている!
一同:おおー! すごい!
廣瀬:判別のポイントとしてラベルにある住所やジャケットの住所を見ることも多いです。リリースされてから、50、60年後に我々がそういうところを見てるなんて、当時の人からしてみたら想像もできないことだと思いますね。
Vinyl:そう考えると非常に面白いですね。レコードに込められた情報から色んなことがわかるって。
利右衛門:本当にそうですね!
座談会&買取査定体験を終えての後日談
negritaさん「好きなアーティストも違えば、レコードに触れることになったきっかけも違う。趣味でレコードを愉しむ、かたやビジネスでレコードを扱う。何1つ共通項がないにも関わらず、4時間も熱く語り合えた。なぜだろう? 趣味・嗜好・バックグラウンドは違えど、アナログレコードという“モノ”が好きでたまらない、というこの一言で片付けたい。雑誌などでアーティストやジャンルをテーマに扱った対談はあれど、アナログレコードという“モノ”を切り口に、アナログレコードとは? のみならず、モノが人生にどのような役割をもつのか、を炙り出そうとするものはない。“モノ”の実存ではなく、普遍性を探求するような、ストイックな企画・対談だったのは、凄く刺激的で感情が暴発するような、素晴らしいものだった。
査定というと、盤面のラベルやマトリクスを見て、自社のデータベースと照合して……というように、機械的に行われていると思っていたし、実際はそうなんだろうが、ジャケットに記載してある情報、よもや住所まで目を配っているとは……コメントすることもはばかられるような、ある意味、畏怖の念を抱いてしまった。膨大な量のアーティスト、レコードを相手に日々対峙していると思うと、自分の仕事なんておままごとのように思えてならない。まさに、プロフェッショナルの一言」
利右衛門さん「今回はレコード座談会&買取査定体験にお招き頂き、ありがとうございました! 査定していただいた『HELP!』のUK盤は購入してから2年も経っておらず、まだ購入時の記憶も新たなため、お値段的には、そこまで執着はなかったのですが、査定の様子を生で拝見して、目を付けるべきポイントをしっかり再認識できて本当に良かったです。そして何より、査定価格が思った以上だったのも、かなり嬉しかったです(笑)。
好みの音は人それぞれと言えど、根底にある“レコードが好き”という気持ちを共通に持っているので、とてもとても深く濃厚な時間を過ごすことができました。叶うならば、あと半日くらい皆さんとお喋りしたかったです(笑)。この度は貴重な、そして楽しいお時間を本当にありがとうございました! そして、もし第2弾があったらまた呼んでください(笑)」
Vinylさん「普段周りにレコードを聴く人がいないので楽しいし、ためになるし、嬉しいしと、感動ばかりでした。普段はレコード盤の溝に刻まれている音にしか興味がなかったのですが、それ以外の普段聴けない話をしていただき本当に勉強になりました。けど、僕らはプロではなく純粋な音楽好き・レコード好きとして今後もミューゼオに少しでも貢献できたらと思っています。
対談&買取査定体験後、1時間ほど外で3人でお話しさせていただきました。レコードという趣味ですが、ジャンルの異なるものを嗜好しているにも関わらずかなり盛り上がりました。また機会があれば参加したいとお2人も言っていました。私も同じ気持ちです」
セタガヤレコードセンター
なんとレコード買取実績30年。査定は全国どこでも出張してくれて郵送で送っても送料無料。
知識と経験が豊富なベテラン鑑定士が在籍し、非常に査定の品質が高く、その信頼度は抜群。この日、対応いただいた田中さんは主にロック担当、廣瀬さんはジャズ担当となる。各ジャンルに精通したスペシャリストが親切な査定を行なってくれることで、全国各地のレコードコレクターから高い信頼を集めている。中には、セタガヤレコードセンターじゃないとコレクションを売りたくないという常連の人もいるのだとか。
自宅に置いているレコードの本当の価値を知りたい人、販売したいと考えている人は是非セタガヤレコードセンターに相談を。