ローライフレックス、ハッセルブラッド、マミヤ。正方形画面の魅力は無限大。中判カメラをいとおしむ

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取材・文/手束 毅
撮影/牧野智晃

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趣味性が高いカメラについて日本カメラ博物館・学芸員の井口芳夫さんに様々な角度からお話をうかがう連載の第四弾。アンティークカメラファンのなかでもとくに、こだわりを持つカメラ好きが興味を惹かれるといわれる中判カメラの魅力を伺った。

中判カメラとは。

一般的なフィルムカメラで使用されていたのは35mmフィルムだ。文字通り35mm幅のフィルムで画面サイズは24×36mm。

このフィルムを使用するカメラをファンは135判と呼ぶ。ただ、フィルムカメラのなかには幅60mmと幅広の120フィルムを使用する機種もある。120フィルムとは米イーストマン・コダック社の規格で、このフィルムを使用するカメラを中判カメラと呼ぶ。

フィルムが大きいため画質の良く大判カメラよりはサイズが小さくコンパクトなため現在でも根強いファンがいます。

お話を聞いた日本カメラ博物館・学芸員の井口芳夫さん。

お話を聞いた日本カメラ博物館・学芸員の井口芳夫さん。

中判カメラや大判カメラが愛される理由

「写真画像は銀の粒子でできあがっている、いわば点描画のようなものです。そのため、小さなフィルム画面から引き伸ばしをすると粒子の隙間が拡大されてざらついた画面になってしまいます。逆に大きなフィルム画面を引き伸ばすと、隙間の拡大率は少なくて滑らかな画面に仕上がります。これが中判カメラ、またもっと大きい大判カメラが愛好される理由のひとつです」

粒子がきめ細かく大きな写真に仕上げるには、4×5判、5×7判、8×10判と呼ばれる1枚分ごとにかっとされているシートフィルムを使用する大型カメラが有利となる。

ただ、これらのカメラを使用するには大型のボディを固定できる三脚やフィルムを入れるためのホルダーを持ち歩かなくてはならない。一般的な35mmフィルムを使用するカメラとは違い、携帯性は大きく落ちるのは言うまでもないだろう。

135判フィルムカメラと比べると中判カメラも機動性には劣るものの、手持ちの撮影に適した形状のカメラが製造されており、かつ35mmフィルム同様にロールフィルムを使用するため1本のフィルムで複数枚の撮影が可能だ。

大きく引き伸ばしても粒子が滑らかな写真となり、持ち運ぶことができる中判カメラは、135判フィルムカメラと大判カメラのいいとこ取りをしているカメラだと言える。

その中判カメラは120フィルムや倍の長さをもつ220フィルムを使用しながら、画面サイズの違う6×4.5判、6×6判、6×7判、6×8判、6×9判、さらに6×12判など多くの種類がある。当然、発売されている機種の種類も多いのだが、井口さんはスクエア・フォーマット(正方形画面)を持つ6×6判の中判カメラに魅力的な機種が多いと話す。

スクエアな空間に創られる、独自の世界感を持つ6×6判カメラの名機紹介

ハッセルブラッドSWC(1959年)

MuuseoSquareイメージ
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6×6cm判としては世界初となる超広角専用モデル「ハッセルブラッドSWA」の発展版。特徴的なビューファインダーはそのままに、シャッターレリースボタンがボディ上に移動している。写真の機体は1972年から採用している黒いレンズのボディとなる。

6×6判で有名なのが、ハッセルブラッドとローライフレックスでしょう。いずれもプロカメラマンが使用する機種というイメージが強く、ハッセルブラッドは一眼レフカメラの“500C”シリーズが有名です。

ただ、1954年に発売されたハッセルブラッドSWAは6×6判カメラでは相当ワイドなカールツァイス製38mm“ビオゴン”というレンズのためのカメラといえるもの。6×6判の標準レンズは80mm(35mmフィルムを仕様する135カメラは50mm)。この広角レンズ専用機のシリーズは大変魅力的です

ローライフレックス“2.8F”(1960年)

MuuseoSquareイメージ
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その名の通り、開放口径値F2.8mmの明るいレンズを装着するローライフレックス“2.8F”。上からファインダースクリーンを覗いて画角やピントを調整するが、ピントフードの側面にある四角い穴から覗き画角を調整することが可能だ。

また上下にレンズが装着された二眼レフカメラはスクエア・フォーマットのカメラとしては特徴的な機種のため一度は手にしていただきたいカメラといえます。

その代表的な機種と言えるローライフレックス“2.8F”は機能が充実しています。

“2.8F”には焦点距離80mm、開放口径値F2.8mmとスペック的には同じカール・ツァイス製“プラナー”、シュナイダー製“クセノター”という違うレンズが装着されている機種がありますが、どちらのレンズも良質で選択に迷ってしまいますね」

マミヤC330(1975年)

MuuseoSquareイメージ
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二眼レフカメラでありながら、レンズ交換を実現としたことが大きな特徴のマミヤC330。また6×6cm判のなかでも、とくに近接での撮影が可能なカメラだ。

同じ二眼レフカメラでも1975年に生産が開始されたマミヤC330は、他社では完全に到達しえなかったレンズ交換式を可能とし、しかも外観が他の二眼レフカメラとは少々異なった風貌で独自の世界を持っているのが特徴です。

ペルケオⅡ(1953年)

MuuseoSquareイメージ
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手のひらサイズに収まる6×6cm判カメラとしてファンに知名度が高いペルケオⅡ。レンズは80mmF3.5(COLOR-SKOPAR)が装着されている。

「フォクトレンダー社が製造する『小人』という意味を持つペルケオⅡは、一見すると6×6判とは思えない小さなボディサイズに驚くことでしょう。ペルケオⅡが採用したスプリングカメラという形式のカメラは折り畳み時に薄くなり、撮影時には前蓋が開いてレンズが出てくる構造となっています。サイズが小さく携帯性が高いことから古い書籍には『スプリングカメラは登山に便利』と書かれていることも、うなずけるものがあります」

ここまで井口さんがとくに魅力を感じる6×6判の中判カメラを挙げてもらったが、スクエア・フォーマットの良さはカメラ自身の魅力だけではないと語る。その大きな魅力は正方形の空間に創られる独自の世界感だ。

「スクエア・フォーマットはかつて『画像を雑誌などで縦位置にも横位置にもトリミングして使用しやすい』と評されていましたが、そのような使用者側の実利的な目的のためだけに使うものではないと考えています。

撮影者にとって正方形(スクエア)で作画するのは、縦横で比率が異なる多くのカメラでの作画と空間認識の観点から見ると大きく異なります。雑誌などで評されているようなトリミングを前提とした作画は困難だと言えるでしょう。

この相違点はひとくちに言い表すことはできませんが、幸いなことにデジタルカメラやスマートフォンのカメラにスクエアの画面比率が装備されるようになりました。

なぜ、スクエア・フォーマットが採用されたのか、6×6判カメラが人気を博したかの答えを導き出すのは非常に困難です。

ただ、高度な空間イメージ認識力が必要ではあるものの最新の撮影機器に装備されたスクエア・フォーマットを体験することで、独自の世界を創る楽しさを感じることができると思います」

ーおわりー

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公開日:2016年7月9日

更新日:2022年2月14日

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手束 毅

自動車専門月刊誌の編集を経て現在はフリーエディターに。クルマはもちろん、モノ系、ミリタリー、ファッション、福祉などなど「面白そう」と感じた様々な媒体やテーマに関わっているものの、現在一番興味がある「もつ焼き」をテーマにした出版物の企画が通らないことが悩みの種。

終わりに

手束 毅_image

わりと身近なカメラ好きがいまだにオークションでローライフレックスを探していることに、正直理解できなかったのですが、なるほど。見た目や画質以外でスクエア・フォーマット独特の世界というものに惹かれていたんだなと納得しました。影響されやすい自分は、すぐにiPhoneのカメラでスクエア画角の写真を撮りまくったりしています。

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