履きこむほどに味わい増す。BRASSに聞くブーツのお手入れ。

履きこむほどに味わい増す。BRASSに聞くブーツのお手入れ。_image

取材・文/石原 たきび
写真/佐々木 孝憲

愛用しているアイテムとは、長く付き合っていきたいもの。当連載では、大切に使い続けるためのお手入れのコツをご紹介します。今回は、ブーツのリペア、カスタム、オーダーメイド、販売などを行う「BRASS」でお手入れのポイントを聞きました。

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店に置いてある新品の状態はあくまでも「スタート」

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渋いジャズが流れる店内。ずらりと並んだワークブーツから、ほのかに革の匂いが漂ってくる。今年の夏で創業9年目を迎えるBRASSは靴の修理と製作・販売の両方を手がけるショップだ。オーナーの松浦 稔さん(38歳)は言う。

「日本では製作と修理は別ですが、ヨーロッパではどちらも手がけるのが普通。修理は工程を巻き戻して構造理解をする作業であり、同様に自分たちで製作を行うことで双方向で理解を深めることができます。その為、修理の提案も幅広くできるようになるんです」

とくに革靴は世代を超えて履き継がれるものだ。お祖父ちゃんが履いていたという50年以上前の靴を持ち込むお客さんもいるという。また、変わった依頼も多い。

「女性もののサイドゴアブーツをドイツから持ってきた人がいたんですが、もうボロボロの状態(笑)。でも、基本的に修理をお断りすることはないので引き受けました。靴の魂がある場所を判断しつつ、どこを新調してどこを残すかを相談しながら直しました」

また、革靴は磨くなどの手入れによって表情を大きく変える。

「僕は店に置いてある新品の状態はあくまでも『スタート』だと思っているんです。経年変化を楽しみながら育てるのが革靴の醍醐味。丁寧にケアすればするほど愛着も増しますよ」

では、どのように手入れするのか。実際のやり方を教えてもらった。

松浦さんのワークブーツコレクション。左からロガー、エンジニア、レースアップ、ウィングチップで、いずれも味が出ている。白いペンキが付着しているのは店の内装工事中に履いていたため

松浦さんのワークブーツコレクション。左からロガー、エンジニア、レースアップ、ウィングチップで、いずれも味が出ている。白いペンキが付着しているのは店の内装工事中に履いていたため

元々は同じワークブーツだが、アッパーの染め替え、及びソールカスタムを施すことで、全く違う印象のブーツに。 アッパーはベージュのスエードであったという。

元々は同じワークブーツだが、アッパーの染め替え、及びソールカスタムを施すことで、全く違う印象のブーツに。 アッパーはベージュのスエードであったという。

《お手入れ》少しの手間で艶めく。基本の磨き方。

使用するのはクリームとブラシ。ブラシをかけたらクリームを塗り、布で丁寧に磨く。布は着古しのTシャツなどでOK。ブラシは天然の毛のものがおすすめで、前半は毛が硬い白馬、最後の仕上げは毛が柔らかいヤギを使う。全体を整える感覚で磨くのがコツだ。なお、ふだんのケアはブラッシングで十分だという。

スウェーデンの老舗ブラシメーカーに別注プロジェクトが進行しているというオリジナルのブラシ3種。2016年秋の発売予定。左からクリーム付け用ブラシ(価格未定)白馬ブラシ(価格未定)、ヤギ毛ブラシ(価格未定)

スウェーデンの老舗ブラシメーカーに別注プロジェクトが進行しているというオリジナルのブラシ3種。2016年秋の発売予定。左からクリーム付け用ブラシ(価格未定)白馬ブラシ(価格未定)、ヤギ毛ブラシ(価格未定)

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ブーツのシワを伸ばして磨きやすくするためにシューツリーを入れよう。馬毛のブラシを使って表面の汚れを払っていく。

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エンジニアブーツの場合はストラップ下に汚れが溜まっていることがあるので、一度外してブラシをかけると良い。レースアップの場合は紐を外して。クリームは付け過ぎず、少量を専用ブラシや指に取って薄く少しづつ伸ばしていくのがポイント。

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古布を使ってクリームを靴全体に塗り込んでいく。同時に余分なクリームもぬぐっていく。ついでにコバにも塗り込むのをお忘れなく。

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右がBefore、左がAfter。しっとりとして、ツヤが出た感じが見て取れる。
ヴィンテージライクな右も魅力的だが、時折しっかりケアをしてあげると見違えるという。

《修理》靴の印象がガラリと変わる。オールソール(ソールの張り替え修理)。

BRASSでは30種類以上のソールを取り揃えている。色や素材の硬さも様々で、これを張り替えるだけで気分転換になる。また、履き心地もガラッと変わるため、いろいろと試してみて自分の好みを探すのもよい。ソールの価格は1万2000円から1万6000円程度。かかと付きの場合は、かかと部分だけの交換もできる。

ソールにも様々なバリエーションがある。左から、V字のパターンでグリップ力が生まれる「Vibram#700」、ワンピースソールの定番「Vibram#4014」、クッション性があるワンピースソールの「Vibram#2021」、タンクソールのパターンで耐久性に優れた「Vibram#100」

ソールにも様々なバリエーションがある。左から、V字のパターンでグリップ力が生まれる「Vibram#700」、ワンピースソールの定番「Vibram#4014」、クッション性があるワンピースソールの「Vibram#2021」、タンクソールのパターンで耐久性に優れた「Vibram#100」

ウエルトとソールの隙間に革包丁を差し込み、出し抜い糸を切る

ウエルトとソールの隙間に革包丁を差し込み、出し抜い糸を切る

糸が切れていることを確認し、ペンチでソールを剥がす

糸が切れていることを確認し、ペンチでソールを剥がす

本体側の縫い糸をすべて抜き取る

本体側の縫い糸をすべて抜き取る

オールソール交換完成! 今回、Vibram#148に交換。グリップ力があるシート状のタンクソールで、 アウトドアシューズに多く使われる。 EVA(クッション性のあるスポンジ)を間に入れているので、クッション性も確保。元の白底に比べると、耐久性・グリップ力が向上しているという。(写真/編集部)

オールソール交換完成! 今回、Vibram#148に交換。グリップ力があるシート状のタンクソールで、 アウトドアシューズに多く使われる。 EVA(クッション性のあるスポンジ)を間に入れているので、クッション性も確保。元の白底に比べると、耐久性・グリップ力が向上しているという。(写真/編集部)

Before

Before

After(写真/編集部)

After(写真/編集部)

右がBefore、左がAfter。白のクレープソールから黒のゴムソールになり、無骨で全体的に引き締まった印象に。

《修理》BRASSだからこそ対応可能!リラスト(木型の変更)

リラストは元のアッパーを使って違う木型に吊り込み直す作業で、靴を一足作るのと同じ工程となる。「製作をしているからこそできる修理」の一つであり、この技術・設備・経験がBRASSの強みでもある。

Before

Before

After(写真/編集部)

After(写真/編集部)

Beforeの状態から「ビンテージライクな雰囲気に仕上げてほしい」というオーダーのもと、リラスト開始!
Afterでは、CLINCH 用のオリジナルで開発した抑揚のある木型を使用するので、フィッティングも向上する。ボリュームのあるつま先が薄くクラシックな印象にシェイプされている! ソールを含め靴全体のフォルム変化は横から見ると歴然。雰囲気がずいぶん変わってより洗練された印象に。今回のリラストを含むオールソールの料金は総額6万円程。
※価格は対応する内容によって変わるため一度相談するのがベストだ

こんなときどうする? 素朴な疑問Q&A

Q1:ワークブーツはどのくらいの頻度で靴磨きすればいいの?

革が乾いてきたなと感じたら行う。頻繁に磨き過ぎると革に張りがなくなり、型崩れを助長する場合も。また、オイルを塗ると革がやわらかくなり撥水性が生まれる。こちらは年に2回ぐらいでOK。

Q2:オイルって使ったほうがいいの?

オイルを塗るとオイリーでしっとりとした質感が出る。オイルを用いることで柔らかくなる。質感の好みに合わせて、オイルとクリームを併用するのがおすすめ。

Q3:ワークブーツの育て方にコツはあるの?

過保護にケアしすぎないのが、自然な経年変化を楽しんでいただく大事なポイント。
光沢やシワ、キズ、色抜け・褪せなどの色の変化がワークブーツの魅力であり、面白さなので、気負わずケアを楽しんでいただくのが良し。

Q4:雨に濡れたらどうケアしたらいいの?

雨に濡れた場合は固く絞った濡れ雑巾で拭きながら全体を濡らす。部分的に濡れた状態はシミになりやすい。シミになったらシミ抜きをするが、染め替えという選択肢もある。

File

BRASS Shoe Co.

ブーツのリペアやカスタムをはじめ、オリジナルブランド「CLINCH」の製作・販売。ヴィンテージシューズや海外ブランドシューズのリペア&カスタムにも柔軟に対応してくれるので、「どこに依頼したらいいかわからない!」というときもぜひ一度相談してみてほしい。

東京都世田谷区代田5-8-12
営業時間:12:00〜20:00
定休日:水曜
TEL:03-6413-1290

公開日:2016年7月3日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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石原たきび

塾講師、出版社勤務などを経て、現在は雑誌・ウェブ多方面でフリーライターとして活動。趣味は、たき火、俳句、酒。高円寺在住歴13年。編著に『酔って記憶をなくします』(新潮文庫)など。

終わりに

石原たきび_image

松浦さんの父親は建築士で母親がテイラー。何でも自分でやる文化で育ったためか、靴を作って修理もするという今の仕事はずいぶん楽しそうだ。靴を磨く動作ひとつ取っても、かわいい飼い猫を愛おしそうになでるような、そんな様子にも見える。「どっちもやるのは効率的には決してよくない。でも、あえて非効率な道を選んだんです」という言葉が印象的でした。

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