「英軍ヒストリカル・ポストカード② Military Paintings of Richard Caton Woodville(1856-1927)」(Pompadour Gallery監修・発行)

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ホンモノの絵画は買えませんので、ポストカードでヴィクトリア期のイギリス軍の軍事絵画を蒐集しています。

1992年にロンドンに行ったのですが、たしかその時にロンドンの Tradition of London店で購入したものだと記憶しております。

このセットは、ミリタリー絵画の巨匠、リチャード・ケイトン・ウッドヴィルの手による作品集です。

ウッドヴィルは1856年にロンドンで生まれ、デュッセルドルフとパリで美術を学び、1877年、戦争特派員としてイラストレイテッド・ロンドン・ニュース(絵入りロンドン新聞)の記者となり、露土戦争やスーダン戦争に従軍記者として参加しました。
彼は1879年に初めてロイヤル・アカデミーで展覧会を開き、1927年に亡くなるまで作品の発表を続けています。

さて、このセットには、以下の絵画のポストカードが入っています。

① "Up Guards, and at Them"
② "All that was left of Them — Left of Six Hundred"
③ "Maiwand; Saving the Guns"
④ "The Charge of the 21st Lancers at Omdurman"
⑤ "The Guards at Tel-el-Kebir"
⑥ "The Memorial Service for General Gordon at Khartoum"

まず画像の2枚目の左側。
上記の①「Up Guards, and at Them」です。
タイトルを訳せば「近衛兵たちよ、立ち上がれ、そして彼らに立ち向かえ」ということで、ナポレオン戦争の最終戦、1815年のワーテルローの戦いでの出来事を描いています。
戦いの先頭には少年鼓笛隊、その後ろに近衛兵が続き、その背景には司令官ウェリントンが見えます。そのウエリントンが、第1近衛旅団の指揮官であるペレグリン・メイトラン少将に対して「さあ、メイトランド、今がお前たちの番だ。近衛兵たちよ、立ち上がれ、準備を整え、発砲せよ。」と命じているシーンだそうです。

そして同じ画像の右側。
上記の②「All that was left of Them — Left of Six Hundred」です。
タイトルを訳すと「彼らが600騎のうち、生き残った者たちです。」
クリミヤ戦争のバラクラヴァの戦いで、有名な無謀な戦闘、「軽騎兵旅団の突撃」(Charge of the Light Brigade)が行われます。指揮官の誤認により、数百騎の英騎兵がロシア軍の砲列に正面を切って突撃をし、数百mの突撃中に正面の平原と左右の尾根に陣取ったロシア軍から猛烈な砲撃をくらい、突撃の後にはわずかな生存者しか残らない無意味な戦いでした。
この戦闘に参加した軽騎兵は、第4軽騎兵連隊、第8軽騎兵連隊、第11軽騎兵連隊、第13軽竜騎兵連隊、第17槍騎兵連隊の合計600騎で、生き残ったのはそのうち198騎のみ。(その多くが負傷兵、無傷な兵はわずか)
この戦いは詩人テニソンが詩を書き、また1968年に「遥かなる戦場」という映画も作られています。

3枚目の画像(4つのポストカードを掲載)

その左上が、上記の③の「Maiwand; Saving the Guns」、1879年の第2次アフガン戦争における激戦、マイワンドの戦いにおける第66バークシャー歩兵連隊と王立騎馬砲兵連隊の奮戦を描いた絵画です。
タイトル「砲を救う」のとおり、敵の手に砲を渡さないように騎馬砲兵が砲車を曳き、敵の包囲下の戦場を駆け抜けて脱出を試みているドラマティックなシーンを描いています。
なお、この戦いには後にシャーロック・ホームズの盟友となるワトソン博士がバークシャー連隊付の軍医として参戦しており、瀕死の重傷を負いながらも従兵の肩にすがって辛うじて生き延びた、という逸話もあります。

右上が、⑤の「The Guards at Tel-el-Kebir」、
19世紀後半のスーダン戦争における、1892年9月のテル・エル・ケビールの戦いを描いた絵です。
この戦いで第1近衛旅団を指揮するコンノート公爵は時のヴィクトリア女王の子息で、女王陛下が我が子の活躍を描いた絵画をウードヴィルにオーダーした作品が、この絵でした。
展覧会での解説は「敵の砲撃のもと、コンノート公爵はただちに旅団を指揮して攻撃に向かった。このとき旅団は尾根の上に立っていたが、その地域一帯は敵の砲兵による砲撃の範囲に入っていた...」と、コンノート殿下が敵の砲撃下でも冷静な指揮に任じていたことを称賛しています。
絵の中でも、歩兵たちが稜線の陰で臥せっている中、騎乗する指揮官たちは敵弾下に身をさらして遠方の敵陣を眺めているシーンとなっています。

左下。
⑥の「The Memorial Service for General Gordon at Khartoum」、スーダン戦役において、オムドゥルマンの戦いの翌日にハルツームでゴードン将軍の追悼式のシーンを描いたものです。
この絵はヴィクトリア女王の依頼により描かれた絵画で、1899年に発表されました。

そして右下。
④の「The Charge of the 21st Lancers at Omdurman」、スーダン戦役のオムドゥルマンの戦いにおける、第21槍騎兵連隊の突撃シーンを描いた絵画です。
槍騎兵の突撃の前に蹴散らされる敵歩兵ですが、この絵の右下、勇敢にも英騎兵の馬脚の下に潜んで最後のチャンスを狙う敵兵や、ただ1騎で英騎兵の槍ぶすまの中に突っ込む甲冑をまとったスーダン騎兵の姿など、緊迫する戦場のシーンを描く素晴らしい絵画です。

…いずれも素晴らしい絵ですね。

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