極大成長する謎のノーチロイド同定
前置き今回はFalcilituites sp.として販売されていた中期オルドビス紀ダーリウィリアンの謎の標本を調査していく。 Cyclolituites sp. https://muuseo.com/Nautil_Works/items/50 Arato510 写真:Falcilituites sp.として販売されていた購入標本ファルシリツイテス属はエボリュート(若殻に沿った巻き)した後、成体時に解けるタルフィセラス目エストニオセラス科のノーチロイド。今回入手した標本の様な極大成長はしない。 Falcilituites decheni https://muuseo.com/Nautil_Works/items/37 Arato510 写真:所持しているファルシリツイテス属(タルフィセラス目)巻きが解れつつ極大成長する特徴的な形態から探っていく。リツイテス目の異端児実は購入前からファルシリツイテス属ではない事に確信を持ちつつ、思い当たる属があった。それは、リツイテス目のサイクロリツイテス属だ。引用:“Taxonomy and ontogeny of the Lituitida (Cephalopoda) from Orthoceratite Limestone erratics (Middle Ordovician)”リツイテス目リツイテス科の属でありながらリツイコーン(若殻が巻いて成年殻が真っ直ぐなゼンマイ型)を持たないリツイテスの異端児。成長後の真っ直ぐな殻を形成せずに解けつつも極大成長する形態が酷似している。しかし細リブの刻み方が怪しい。引用:“Taxonomy and ontogeny of the Lituitida (Cephalopoda) from Orthoceratite Limestone erratics (Middle Ordovician)”腹側から背側にかけて極端に後方にナナメに走っている。腹際は大ぶりながら一応、若巻きの方向に凹んでいる。疑念は残るものの種により細リブの刻み方が異なるうえに、リツイテス科をまとめた論文で網羅しきれていないサイクロリツイテス属の種がおり、全ての種のサンプル写真が確認できていないため所持標本と同様の細リブを持つ種が存在する可能性も否定できない。そんな中、ノルウェーの化石サークルが運営するWebサイトで発見したC. kjerulfi。引用:“Steinklubben.no/Cyclolituites kjerulfi”細肋だけでなく巻きの解け具合も種により違いがある模様。しかし、別属ではないかとの疑念がぬぐい切れないため、他の目も調査した。オルドビス紀の巻き殻ノーチロイドと言えばタルフィセラス目高さが極大成長する属がいないか調査した。中期オルドビス紀から栄えたタルフィセラス目バランデオセラス亜目アプシドセラス科の属に成長率の高い属が含まれている様だ。引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”細リブの刻み方が類似しているCharactoceras kallholnense。引用:“Early cephalopod evolution clarified through Bayesian phylogenetic inference”しかし、解けながら極大成長する属が見当たらず、どの属も高さの成長に比例して横幅も拡大しており、螺管断面は円形、円に近い楕円、円に近い三角など厚み(横幅)がある形態ばかり。高さ/横幅の比率が高さに偏重した、いわゆる薄型タイプはいない模様で所持標本と形態が近いとは言い難い。後期オルドビス紀の属で年代も不一致。数少ない緩まき属を内包するディスコソルス目オルドビス紀の巻きノーチロイドといえばタルフィセラス目とリツイテス目。しかし、ブレビコニック(短小殻)とシルトコニック(曲がり殻)が中心のディスコソルスにもわずかながら緩巻きの属がいる。個人的に好きなフラグモセラス属だ。シルル紀中後期の属なのでフラグモセラス属ということは考えられないが、先祖系統や近縁系統などに形態が近い属がいないか探っていく。先ずはPhragmocerasを確認。(1a~1d)引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”成長率は近い。細肋の走り方も中々似ている。母岩に隠れた巻き中心が巻いていなければフラグモセラス属という線も考えられる。しかし所持標本と比較してフラグモセラス属は住房部断面を比較した際、厚く(横幅の成長率が高く)形状も大幅に異なる。先祖系統のシルトゴンフォセラス科に類似形態が居ないか確認。引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”ブレビコニック、シルトコニックばかりで類似の形態は確認できない。ディスコソルス目の他科も同様。まとめ細リブの刻み方に疑問は残るものの、結局サイクロリツイテス属が形態的に一番近かったため、Cyclolituites sp.として扱う事にした。細リブ以外にも母岩に隠れた巻きの中心部も謎で課題が多い。表はプレパレーションが途中で投げ出され裏に至ってはガッツリと母岩が付いている。いつもながらの投げ遣りプレパレーション。三葉虫やアンモナイトに比べてノーチロイドに興味あがる人口が少ない。そのくせ、好きな奴は狂信的に好き古生物群なので投げ遣りプレパレでも買う。レアがゆえに破損リスクを回避する意味合いもあってこういう標本が多いのかもしれない。設備が整って自前でプレパレーションしたり、CTスキャニング出来るようになれば同定も捗ると思う。