「イギリス」と聞いて連想されるのは、英国紳士やUKロック、優雅なティータイム。では英国の文化を日本に輸入している方々が感じる「英国らしさ」はどこにあるのだろう?イギリス文化が集まるイベント「ブリティッシュ コレクターズマーケット」を取材した。
英国にまつわるモノが集結!「ブリティッシュ コレクターズマーケット」とは。
2018年10月20日、BRITISH MADEの青山本店にて、第五回「ブリティッシュ コレクターズマーケット」が開催された。
イギリスというフィルターを通しキュレーションされた本展では、洋服に雑貨、伝統的な食べ物にフレグランスと、五感をフルに使ってイギリスを感じることができる。
5回目の今回はコーザゴーフ(=スコットランドの古いゲール語で、“ぬくぬく&ほっこり”を意味する言葉)がテーマ。
店内では衣類、生活雑貨のみならず、お菓子などの「食」も並ぶ。吹き抜けには薪ストーブが設置されていたりと、「インドアでゆったりとした時間を過ごす」ライフスタイルが思い浮かぶ、ズバリの空間作り。
イギリスといえば、クールでヒップなUK音楽、組織化された美しいサッカー、スケールの大きい名作文学が思い浮かぶ。
でも、実は知らないだけで、イギリスには面白い文化が潜んでいるのかもしれない。例えば、話題のグランピングはイギリス発祥だ。
イギリスという国にはどんな文化があるのだろう。今回、独自の審美眼を活かしてイギリスの文化を輸入する出展者の方々にご協力いただき、「イギリスらしさとは?」を聞いて回った。
目利きが語るそれぞれの英国
CWS(Camping with soul Japan)
イギリスで体験したグランピングの魅力を日本に伝えるべく活動しているCamping With soul Japan。
埼玉県飯能市の名栗でグランピング体験施設を運営したり、100%コットンキャンバスを使用したテント「ベルテント」や薪ストーブ「ANEVAY」の販売をおこなっている。
グランピングというと、日本では「ホテルのような空間でキャンプができる」という印象が強いように思う。しかし、別にラグジュアリーである必要はないのだそう。
「僕がイギリスでやっていたグランピングは、ホテルみたいなサービスはないし、自分たちで薪割ってストーブで火を起こしていました。それでも、GLAMOROUS(魅力に溢れた)なCAMPINGでしたよ」と代表の横田さん。
そんな横田さんが感じるイギリスらしさは、どこにあるのだろう。
ストーリーのあるところかもしれないですね。商業的に成功しそうだからというよりは、何故やるのかという動機がしっかりしていると思います。
例えば、今回展示している薪ストーブブランド「 ANEVAY」は、キャンプや家で使う薪ストーブが発祥ではなく、貧困国や災害地で使うために開発されました。
そういった場所では、エイズやマラリアよりも、火を使って家が燃えたり呼吸器疾患になって亡くなる人の数が多かったのです。コンセプトがしっかりしているからこそ、実用的で長く愛用できるのだと思います。
ANEVAYストーブの上にはケトルやダッチオーブンを置き、料理を楽しむことができる。「この間は白馬でキャンプしました。生きた鶏をその場でシメてダッチオーブンで焼いて。美味しかったですよ」(横田さん)
brownie and tea room
南麻布にお店を構え、キッチン雑貨やインテリアを中心にイギリスで作られた古道具を展開するbrownie and tea room。商品は「特別なものではなく、日常の生活の中にさりげなくあるような佇まいのものをお届けする」というコンセプトでセレクトしているそう。不定期でティールームイベントも開催している。
「イギリスの日常生活にあるものが、私にとってのイギリスらしさ」というか。「華美な感じがなく、さりげないシンプルなものがイギリスらしいもの」ではないかと感じています。
例えば、イギリスのティールームはそこまでリッチな感じではないんです。お皿にスコーンとクリームとジャムを並べて、近所のおじいちゃんおばあちゃんにも提供しているんです。トラディショナルで、親しみやすさと、実用性が備わっているものが多いと思います。
イギリスのブランケットというとタータンチェックが有名だが、写真のものはウェールズ地方独特の、淡い色で染色されたウェーリッシュブランケット。落ち着いていて自然な色合いは、日本の家庭にも溶け込みそうだ。
REFACTORY antiques
埼玉県の飯能市にショップを構える、REFACTORY antiquesは今回が初出店。同店はイギリス製のモノだけを取り扱っているわけではなく、日本の古いモノなども展開している。
セレクトの基準は、「あたりまえに使い続けられ、手の通ったモノ」かどうか。直近のイギリスの買い付けは、素直に「おおっいい!」という気持ちだけで進めてきたそう。新しい生活にも馴染むモノを見つける「目」を持つオーナーが感じる、イギリスらしさとは。
特にイギリスらしいところは、シンプルで華美な装飾がないところ。文化や歴史が日本と違う分、似たようなものでも日本のものとはちょっと違う。
折りたたみの椅子一つとっても、決して仕上げが美しいとは言えない。日本の場合は細かく、緻密に仕上げるけれども、イギリスはちょっと粗くても製品として販売してしまう。でも、作りはしっかりしていて耐久性は劣っていません。
独特な個性を暮らしにミックスできるところが面白いです。
angie lala vintage
イギリスで古着屋のスタッフとして働いていた経験を持つオーナーが買い付けてきた、ヴィンテージクローズやアクセサリーを取り扱うangie lala vintage。1970年代以前のものを中心に、時代を飛び越え、ロマンの詰まったアイテムをセレクトしている。イギリスでは、古いモノに価値を見出す文化が根付いているのだそう。
本当に古いものを大切にしています。ヴィンテージクローズは、日本だったら選択肢に入らない方も多いと思います。イギリスで暮らす方々は、古いものをみんな使うんです。当たり前に。「古いからこそ美しい」とか、そういう感覚が強いのかな。
ファッション業界に携わる人だけではなく、普通の人でも(古いものに関する)知識があるように感じました。カルチャーと絡めたり、洋服の持つ歴史を含めて楽しんでいる人が多いように思います。
古いイギリスのヴィンテージ服のプリントには、イギリスらしさが詰まっている。ロンドンのLiberty社のプリントを使っているこちらのシャツは、ロマンティックな色柄が魅力的。「イギリスの方はアイコニックなものを好む気がします。流行りとかじゃなくて、『私はこの柄が好きだから着る』という選び方をするんです」
BRITISH MADE
本イベントを主催する、BRITISH MADEにも「イギリスらしさとは?」の質問をぶつけてみた。キーワードは「ブレない軸を持っているかどうか」だ。
大英帝国の時代には、世界中から新たな物が入って来ました。その後、産業革命や戦争を経てイギリスでも多くのプロダクトを生み出してきました。
今日に至るまでプロダクトがブレないのは、古いものを大切にする文化が根付いているからだと思います。
例えば色。イギリスの製品は、自然の中にある色が昔から多く使われています。土から作ったレンガの色、森や木々のグリーン。
BRITISH MADEでは様々な英国ブランドを取り扱っています。トレンドを取り入れた色味やデザインもありますが、不思議とイギリスらしさがでてきます。
英国らしい歴史や伝統をベースにした素材選び、意味のあるディテール。そういった背景を大切にしているから、新しい要素を足してもイギリスらしい雰囲気が出てくるんだと思います。
まずはイギリスの文化に触れてみよう
本イベントの運営スタッフをつとめる、渡辺産業株式会社マーケティング部の松井友輝氏はこう語る。
「イギリスでモノ作りに携わっている人は職人気質で細かくて、あまり商売っ気が無い印象があります。もちろん生活をする上で現実的な視点は必要ですが、仕事よりも生活と家族が優先でどこか親しみやすさがある。同じ島国という事もありますし、日本人も、どこか根っこの部分が近いのかもしれません」
「しかし、いいお店やブランドがあっても、日本のお客様からしたらまだまだ見えにくかったりする。ブリティッシュコレクターズマーケットを通して、イギリスを愛する人にもっと魅力を伝えることはもちろん、まだイギリスに行ったことのない人には足を運ぶキッカケとなってもらえたらこの上ないです」
今回のブリティッシュコレクターズマーケットは5回目の開催。それでも半分以上は新規の出店なのだそう。
「故きを温ねて新しきを知る」を地で行くイギリス。そのカルチャーを大切にするBRITISH MADEの新旧織り交ぜた、エッジのきいたキュレーションにも目が離せない。
イギリスまでは日本から直行便で約12時間。「長い!」「遠い!」と切り捨てる前に、まずはブリティッシュコレクターズマーケットに足を運んでみてほしい。「イギリスの文化に身を浸してみたい!」と思ってもらえることを保証する。
ーおわりー
買い物などを楽しんだら、スコットランド伝統料理であるハギスを挟んだサンドイッチで腹ごしらえ。シードルと一緒にお腹に流し込めば、身体の中からイギリス気分を味わうことができる。
BRITISH MADE
英国クラフトマンシップから生まれたブランドストーリーを、日本や世界のお客様に語り伝えていきたいと考えています。
新しいものが次々と生み出される現在、英国のブランドはクラシックで、少しベーシックに映るかも知れません。しかし、流行に左右されず、定番でどこか懐かしく、作り手の想いや様々なストーリーが溢れています。暮らし続けることで価値の増す家屋、何代にも亘って使われている家具、親から受け継いだコートやアンティークのアクセサリー、リペアを重ねて身体の一部のように馴染んだ靴、自分のキャリアをいつも見つめてきた革手帳・・・。
永い人生をさりげなく、誇りを持って一緒に生きるパートナーとして相応しい“もの”を作りだす英国ブランド。彼らのストーリーテラー(Storyteller) として、作り手の想いを込めてみなさんにご紹介していきます。
イギリス文化を一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
アンティークシルバーの世界の歴史とストーリーを知ることで、知識と愛情を深めてもらう、実用と教養、楽しみを兼ね備えた一冊
イギリスの文化史を知る
イギリス文化史
制度と文化の関係、文化史の方法に配慮しながら、近代以降の「イギリス文化史」を考察。「文化史とは何か」という問いを念頭におき、「文化史というアプローチを問い直す」からはじまり、第1部では、宗教・政治・労働など問い直す「制度と文化」、第2部でイギリスらしい(と思われる)「なぜ?」を問い直し、第3部では「20世紀イギリスを文化の視点から見直す。
終わりに
取材中に見つけた、落ち着いた色味のヴィンテージのスカーフ。取材が落ち着いて買いに戻ったら目の前で売れてしまいました。イギリスの蚤の市さながら、一点モノが多いこのイベントでは開店後早めに訪れることをオススメします。かっこよかったな、あのスカーフ。。。代わりに猫のピンバッジを連れて帰りました。今回紹介したショップはほんの一部。ぜひ足を運んでみてください!