約束事が厳密になりがちな礼装(フォーマルウェア)について整理する本企画。ダークスーツを略礼装として着用する際の装いについて、服飾ジャーナリストの飯野高広さんに教えていただきました。
「儀式か宴か」を縦軸に、「格式」を横軸に捉えると理解しやすい
主に昼間に行われる行事は「儀式」=厳か・地味。主に夜間に行われる行事は「宴席・パーティ」=楽しい・派手。
活用範囲はビジネスだけではない。略礼服としてのダークスーツ
日本では略礼装と言えば「正に真っ黒としか言いようのない無地の生地で作られた3ピース」のイメージが本当に、本当に強い。
しかしこれからは、もう少しだけ色柄の枠を広げて「ダークスーツ」としての活用を考えるべきではないか。
確かに国内での告別式などの弔事への出席に際しては、深い悲しみの気持ちを示す「喪服」という意味合いで、黒の3ピースは最適かつ必要な服だろう。
しかし逆の場合、すなわち婚礼のような慶事でもこの装いで済ますのは何と言うのか…… 何か「代用」的な感が拭えないからだ。
神社や教会での厳かな結婚式に出るのなら、廃れたとは言えやはりディレクターズスーツを着用してあげたい。
逆にレストランウェディングのような気さくな雰囲気を重んじた慶事では、真っ黒な略礼服ではむしろ慇懃無礼な感もあり、このような場こそ着こなしを工夫したダークスーツ姿で十分に礼装ではないだろうか。
つまり、それぞれの場の「現実的な礼」により則した装いで臨むのが大切で、その点でもダークスーツの活用範囲は、ビジネス向け以外にもまだまだ案外広いと思う。
具体的には、色は主に儀式向けに濃いチャコールグレイ、主に宴向けに濃いミッドナイトブルーのものを用意しておくと何かと便利だ。また、柄は無地が理想ではあるものの、単色で織られたマイクロヘリンボーンストライプなど、遠目に無地に見えれば細かい柄が入っていても差し支えない。
特に濃いチャコールグレイのそれは、フォーマル度が高く見えがちだから不思議なものである。いずれにせよ起毛感のあまり多くないものを選びたい。
略礼装としてのダークスーツの着こなし
ジャケット(ダークスーツ)
シングルブレステッド・ダブルブレステッドどちらでも大丈夫。
トラウザーズ(ダークスーツ)
折り返し無しのシングルカフにしておいた方が都合が良い。ビジネス兼用とするなら、いわゆる2パンツスーツに仕立てておいて、片方を礼装対策でシングルカフ、もう片方を通常向けにダブルカフスとするのもアイデアだ。
ブレーシスの色はスーツの色に合わせたものであれば問題ないだろう。
ウェストコート(ダークスーツ)
礼装にも使うことを考えるなら、仮にシングルブレステッドのものを選ぶのであれば、なるべくウェストコート付きのスーツを選びたい。更には淡い色味のそれをもう1着用意しておけば、慶事の際に印象をガラッと華やかに変化できる。
因みに真っ黒な略礼服であっても、ウェストコートを淡い色味のものに変えるだけで印象は大分洗練される。
シャツ(ダークスーツ)
当然白無地の極々普通のものが最適だが、慶事なら場の雰囲気次第で襟と袖口のみ白で身頃が淡いブルーなどであっても大丈夫。
襟はレギュラーカラー若しくは目立たないスプレッドカラーならOK。袖口はできれば折り返し付きの「ダブルカフス」のものを用いたいが、一般的な「バレルカフ」のものでも構わない。
タイおよびチーフ(ダークスーツ)
弔事の際は当然ながら黒の無地、若しくは限りなく目立たない柄の結び下げ。一方慶事では、一般的な結び下げタイに加え、蝶ネクタイも有力な候補に挙がって来るだろう。色は濃紺のピンドットなど清楚な印象を有しているものがベスト。結ぶのに少々コツがいるものの、できれば自分で結ぶものを用意したい。
ポケットチーフも慶事では基本リネンの白無地だが、状況に応じ鮮やかな色柄のものを挿しても大丈夫。畳み方も好みに合わせてで構わない。なお弔事ではそれを胸ポケットには挿さないことを忘れずに。
小物(ダークスーツ)
カフリンクスなどのアクセサリーも、基本的には清楚なものが良しとされるが、慶事であれば状況次第では多少華やかなものを用いても構わない(ただしその場の主役以上に華美には絶対にならないこと!)。
革靴(ダークスーツ)
色は黒が大前提。ボックスカーフなど牛のカーフ・キップのスムースレザーを用いていれば、お約束である内羽根式のストレートチップだけでなく、内羽根式のプレーントウ、それに目立たないものであれば内羽根式のパンチドキャップトウや外羽根式のVフロントプレーントウでも問題ない。
靴下もスムース編みのホーズが理想ではあるが、細いリブ編みのものでも大丈夫。黒無地以外にスーツの色に合わせたものでも差し支えない。
ーおわりー
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