「梅干しを作る道具は祖母から受け継ぎました」料理研究家 きじま りゅうたのこだわりの調理道具たち

「梅干しを作る道具は祖母から受け継ぎました」料理研究家 きじま りゅうたのこだわりの調理道具たち_image

取材・文/石原 たきび
写真/松本 理加

美味しい料理をつくる人はきっと、とっておきの調理道具があるに違いない。そんな期待を胸にお話を伺ったのは、きじまりゅうたさん。Eテレ「きょうの料理」では「おかず青年隊」として活躍中で、調理風景をUstream放送するなどの新しい試みも行う注目の料理研究家だ。今回は、3代にわたって受け継ぎ、手入れをしながら大切に使い続けているという調理道具を見せてもらった。

親子三代、料理研究家

祖母も母も料理研究家という、料理界では“サラブレッド”のきじまさん。3代にわたって豊島区内の家に住み続けているため、地域への密着度も高い。お祭りでは祖母が200人分の料理を作って差し入れたりするのを見ながら育った。家での食事も大皿で出して、シェアするスタイルだった。

「それが普通だと思っていたので、友達の家に遊びに行って、一人一人のお皿にハンバーグが出てきたときはびっくりしました(笑)」

また、倉庫にはいまではお宝の調理道具が数多く眠っている。

「とくに祖母の時代は、雑誌の撮影などで食器や道具のリースがなかったので、私物を提供するしかなくて。自然に増えていったんですね」

梅干しを作るのはきじま家の伝統行事。道具は祖母から譲り受けた

毎年梅干しを漬けるのも、きじま家に代々伝わる伝統行事だ。紀州の南高梅を取り寄せ、6月に赤シソとともに塩漬けする。さらに、8月中旬にほぼ梅干し専用の広いベランダに出し、2、3日間昼間の直射日光に当てて一気に干す。雨に濡れると一発でダメになるため、干している間は外出できないという。真剣勝負なのだ。

「漬ける容器も干す木網も、祖母の代から使っているもの。いろんなものをさんざん試した末に残った道具なので、やはり使い勝手がいいし、間違いないんです」

MuuseoSquareイメージ

このように、祖母と母の影響を多分に受けているきじまさんだが、料理研究家としては男性ならではの“リアリティ”を演出するように心がけているという。

「味、道具、調理法は受け継ぎつつも、男が本能的に好きなもの、食べたいものってあるじゃないですか。そういう背伸びをしない料理を作りたいですね」

肉でも野菜でも、バキッと焼けたときが気持ちいいと言うきじまさん。なるほど、二人の先輩をリスペクトしつつも、男が作る男の料理を真摯に追求する姿勢がそこには見える。

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

きじまさんの調理する後ろの棚には、料理盛り付けのスタイリング用食器が。台所の棚にも調理道具がずらりと並ぶ。祖母の著書には、すり鉢とすりこぎでお手伝いをする幼少のきじまさんの姿も!

きじまりゅうたさんのこだわり調理道具

MuuseoSquareイメージ
MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

梅干しは毎年作るというきじまさん。漬け込むためのホーロー容器は「おそらく、祖母がいっしょに商品開発をしていた野田琺瑯(ホーロー)の製品でしょう」とのこと。その後、干すための大ぶりの木網は、ひもで物干し竿に引っ掛けられるようになっている。いずれも、祖母の代から使っている40年以上前のものだ。

File

ペティナイフは普通の包丁と違い、 先の半分だけを使う

持ちやすさと使い勝手が気に入っているペティナイフ。長年使っては研いでいるため、サイズもずいぶん小さくなっている。なお、普通の包丁と違い、先の半分だけを使って食材をくり抜いたり、野菜の皮をむいたりするそうだ。革のナイフケースは、料理の先輩で仕事仲間でもある「森野熊八」さんが作ってくれたものだという。よ〜く見ると、ケースには「RYUUTA」の型押し文字が。

File

一台で何通りにも使える ひのきの飯台(はんだい)

「祖母と母は大勢の人に料理を振る舞うのが好きだったんです。その際に、この飯台が活躍します」。ある時は、すし酢を混ぜるための調理道具として、ある時は料理を盛ってそのまま食卓に出す皿として、また夏場などは氷を入れてスイカやビールを冷やす器として使える。

File

女性の腕にフィットする長さの すりこぎと万能のすり鉢

祖母が地方出張へ行くたびに買ってきたというすりこぎ。女性の腕にフィットするように、あまり長くないタイプを選んだ。「すり鉢は、食材を和えるボウルとしても使います。そのままテーブルに出せるので便利なんですよ」。きじまさん初めてのお手伝いはこのすり鉢でゴマをすること、なんと祖母の料理テキストに幼い頃のきじまさんが登場している。

きじま りゅうたさん本日の一品。

MuuseoSquareイメージ

今回、きじまさんが作ってくれたのは、豚ロースの薄切りをパリッと揚げた「肉巻きフライ」。豚ロースに大葉、ネギ、海苔の佃煮を乗せてから巻くため、様々な味のハーモニーが楽しめる。「肉の厚みが均一になるよう、斜めに巻くのが美味しく揚げるポイント。小麦粉、卵、パン粉をつけたら、少し寝かせると衣が剥がれにくくなりますよ」。揚げ時間は約170度で3、4分。箸で上げて油の温度を下げてから、また入れるとカリッと仕上がるという。お味はもちろん最高。ごちそうさまでした。

Ustream で「休日もだいどころ」を放映中! 

他の料理研究家がやっていないことをやろうと、今年4月からUstreamで「休日もだいどころ」を開始。毎回豪華なゲストを招いて、トークをしながら料理をするという生放送の料理バラエティ番組。
次回放送は12月初旬の予定。誰がゲストにくるか乞うご期待!

Ustreamで放映中! きじまりゅうたさん「休日もだいどころ」。

ーおわりー

少ない材料でもめちゃおいしい146品を紹介

51dxxsvl8al. sl500

きじまりゅうたの食材2つでうまいっ!146品

野菜プラスもう1食材で作れるおかずを紹介。使う食材が少ないと、買い物もラク、下ごしらえの手間がはぶけてラク、食材も使い切りやすい。野菜が必ず入るので、栄養のバランスがとりやすいと、いいことづくめ。

500品を収録した、野菜のおかずの決定版

610fe3d5rel. sl500

この一冊があれば!毎日おいしい野菜のおかず500

料理家ユニット「TOKYO料理部!」がおくる、野菜がたっぷり食べられる、ボリュームたっぷりの主菜から、素材ひとつで作る小さなおかずまで500品を収録した、野菜のおかずの決定版。旬のおいしさを存分に味わえる調理のコツや保存法も紹介しています。

DIVE INTO RELATED STORIES !

公開日:2015年11月21日

更新日:2021年12月27日

Contributor Profile

File

石原たきび

塾講師、出版社勤務などを経て、現在は雑誌・ウェブ多方面でフリーライターとして活動。趣味は、たき火、俳句、酒。高円寺在住歴13年。編著に『酔って記憶をなくします』(新潮文庫)など。

終わりに

石原たきび_image

きじまさんの料理人生に、祖母と母の影響は計り知れない。そうした伝統は受け継いでいきたいとしつつも、一方で料理の過程を生中継するUstream放送を始めるなど、新たな試みを模索するチャレンジ精神も持っている。「生放送中に宅配便が来て焦ったこともあります」と笑うきじまさん。チャーミングかつ男気あふれる、新世代の料理研究家なのでした。

Read 0%