日本料理人・柳原尚之が愛用する日本古来から使われている調理道具たち

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取材・文/石原 たきび
写真/松本 理加

美味しい料理をつくる人はきっと、とっておきの調理道具があるに違いない。そんな期待を胸に今回お話を伺ったのは、江戸懐石近茶流を継ぐ家に生まれ、NHK「きょうの料理」でも「おかず青年隊」としても活躍中の料理家・柳原尚之さん。帆船のキッチンクルーとして働いていた時代のエピソードとともに、「手綱抜き」や「馬毛裏ごし」など、日本料理特有の道具たちを見せてもらった。

帆船のキッチンクルーとして世界を巡った

祖父は江戸懐石近茶流先代宗家の柳原敏雄、父は現在の同宗家の柳原一成。

料理家の家系に生まれた柳原さんが初めて包丁を持ったのは6歳の時。祖父からプレゼントされた近茶流の和包丁(出刃、柳刃、薄刃、小出刃)だ。
初めて一人で料理を作ったのも同じ頃。

「鯛茶漬けでしたね。ゴマを炒って、すり鉢で擦る。さらにしょうゆを加えたタレを鯛の刺身にからめる。炊きたてご飯にのせて熱々のダシをかければ完成」という本格的なものだ。

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高校卒業後は、醸造や発酵の仕組みを学ぼうと東京農業大学に進学する。卒業論文は米酢の香味成分の研究。その後、工場レベルの製造を学ぶため小豆島のしょうゆメーカーで研究員として1年間働いた。

これだけでも料理家としては面白いキャリアだが、さらに柳原さんは帆船のキッチンクルーとして世界を巡った。じつは大学時代同じ船でカティサーク世界帆船レースに参加したのが縁のはじまり。

そのときにスタッフやクルーと仲が良くなったことと、子供の頃から夢だった帆船で働きたいという思いから、アジア人唯一のキッチンクルーとして志願する。基本はフレンチだが、パーティーなどがあるとシェフに頼まれて寿司も握ったという。

「いまでも忘れられないのは、ドイツのキールという港町で開催された大きな祭りのときのこと。10日間連続で昼夜大きなパーティーがあって、毎日22時間立ちっぱなしで料理を作り続けました。もう死にそうですよ(笑)。でも、全部終わった時に、よく考えたらこれだけ大変でも料理が嫌いにならなかったなあと。その瞬間、料理を一生の仕事にしようと決めました」

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親に継げと言われたことは一度もない。しかし1年で、柳原さんは日本に帰国。江戸懐石近茶流を継承する父のもとで本格的に日本料理の世界に入る。料理教室で生徒の指導に当たりながらテレビや雑誌などでも活躍する。
「最高齢の生徒さんは96歳。僕自身も、勉強すればするほど新しい発見がある。『料理にゴールはないんだな』と思います」

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柳原家には日本料理に欠かせない、選び抜かれた道具が代々伝わる。「使い方は父から教わりました。こういう日本古来の調理道具には便利、丈夫、美しいという機能美が残っているんです」

柳原尚之さんのこだわり調理道具

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大根やにんじんを「手綱」のような螺旋状の形にくり抜く器具。グッと回転させながら差し込んで抜いたのち、ギリギリのところまで包丁を入れる。大根と人参を写真のように組み合わせると、紅白のお飾りのできあがり。一見難しそうだが、柳原さんいわく「誰でもできますよ」。おせち料理や婚礼などのおめでたい場に出すお椀などの飾りに欠かせない。見た目が華やかなだけでなく、「手綱」には人と人との縁や武運長久といった意味も込められている。

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日本料理を繊細に飾る「盛り箸」

古来から伝わる盛り付け専用の箸。竹製で先は細く、繊細な盛り付けができる。上端部は平たくなっているため、器の側面などについた余分なタレなどを落とす作業にも使える。「長短の好みは分かれますが、僕は短めの方が使いやすいと思います」。ちなみに、先が金属製の箸を使うこともあるが、じつは器を傷つけることも。そのため、近茶流では竹製のものしか使わない。

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そのまま鍋にドボンできる「目ざる」

食材を霜ふったり、蒸すときなどに使う。竹製なので、はじを持ってお湯を張った鍋にざるごと出し入れできるのが愛用ポイント。写真は根曲り竹を使った国産品で、中国製などと比べると頑丈でしなりもよいという。「本物の工芸品ですね。作る職人さんがだんだんいなくなって、いまは値段も結構高くなっています」。篭の模様が美しいため、食材入れにする人もいる。

柳原尚之さんの本日の一品

煮る、おろす、焼く、が詰まった「ぶり尽くしの献立」

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今回柳原さんが作ってくれたのは、料理教室でも冬の定番となっている「ぶり尽くしの献立」。ぶりの刺身、ぶり大根、ぶりの照り焼きなど、日本料理ならではの器が並ぶ。向こう側に見えるのは、たらちり鍋だ。魚をおろす、だしを引く、煮る、焼くといった基本が詰まった一膳である。教室では各テーブルにぶりが一尾配られ、生徒さん達自身がさばくところから学ぶという。

ーおわりー

近茶流 柳原料理教室

江戸懐石近茶流宗家 柳原一成さん、近茶流嗣家 柳原 尚之さんが指導にあたる料理教室。
四季に合わせた献立の実習をはじめ、素材や器の選び方など日本料理で心がけたいポイントも丁寧に教えてくれる。調理初心者から10年以上の経験者まで様々なレベルで生徒が学んでいる。

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江戸懐石近茶流、柳原尚之直伝。本当の和食、身につけたい所作、伝えていきたい味。しっかり基礎を学ぶことが、料理上達への道

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正しく知って美味しく作る 和食のきほん

「本当の和食を作ってほしい」
江戸懐石 近茶流嗣家である柳原尚之先生の思いが詰まった一冊です。
和食はユネスコ無形文化遺産に認定され、世界中で注目されています。
フレンチやイタリアン、中華、エスニックもいいけれど、「やっぱり和食」と思う人も多いのではないでしょうか。本書では、昔から慣れ親しんできた定番料理のレシピを、細かいプロセス写真とともにていねいに紹介しています。
ご飯の炊き方、だしの取り方、野菜の洗い方、魚のさばき方、そして、切る、ゆでる、煮る、焼く、揚げる、蒸す、炊くといった
基本を正しく知ることができます。
これから和食を身につけたいという初心者はもちろん、きちんと覚える機会がなく、なんとなく自己流で作ってきたという人、今ひとつ味が決まらない、きれいに仕上がらないと悩んでいる人にもおすすめの充実した内容です。

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和食をつくろう!(全3巻セット)

基本の和食の作り方を丁寧に紹介するレシピ集。
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公開日:2016年2月7日

更新日:2022年1月13日

Contributor Profile

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石原たきび

塾講師、出版社勤務などを経て、現在は雑誌・ウェブ多方面でフリーライターとして活動。趣味は、たき火、俳句、酒。高円寺在住歴13年。編著に『酔って記憶をなくします』(新潮文庫)など。

終わりに

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祖父からは「いつかはなくなるものだから、道具は大事に使いなさい」と言われたという柳原さん。おいしいのはもちろん、見た目も美しい日本料理。それを支えるのが先人の知恵が生んだ「手綱抜き」や「盛り箸」などの道具たちなんだと実感しました。

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