私の記憶では、20世紀の映画にはタバコを吸うシーンが多かった。俳優の手元にはライターが映しだされ、自然な動作でタバコの火をつける。そんな姿に憧れた大人は、とても多かったのではないだろうか。
日本では、1980年〜90年に「モノマガジン」などがZippo(ジッポ)特集を組み、男性を中心にZippoブームが発生。日本でも、Zippoに代表される ”ライター” が、単なる喫煙道具という枠を飛び越え、コレクタブル・グッズとして認知されてきた。
今回は、そんなライター好きなコレクションダイバーが集まる年に1回のイベント「FEEFクラブコンベンション」に参加。ライターの魅力、Zippoを集める楽しさの秘密を探ってきた。
ライター好きが集まる「FEEFクラブコンベンション」とは?
まず最初に、「FEEFクラブコンベンション」に関して説明したい。FEEFとは、Far East Eternal Flameの略で、日本語に訳すと ”極東で永遠に燃え続ける炎” となる。実は、Zippoや古いライターの愛好家が集まるクラブは、アメリカを中心として海外には存在してきた。
ヴィンテージライター、Zippoの著名なコレクターである渡部(ワタベ)さんが5年前に日本で創設したのが、FEEFである。FEEFは、ホームページやメーリングリストでライター好きな同士が交流する場を作っているのだ。そして、年に一回、リアルな場所でライター好きな人が集まるのが「FEEFクラブコンベンション」である。
渡部さんを取材したZippoの記事は、こちらから。
コンベンションの特徴は、「買える」「繋がる」「楽しめる」の3つである。
ライターを集めている個人、ショップがブースを出店。そこでは、幅広いジャンルのライターを購入することが出来る。私も訪れて驚いたのだが、Zippoだけでも本当に奥が深い。1930年代に誕生したZippoは世界中に広がり、無数の種類が発売された。古いモノになるとZippo社も把握できておらず、「祖父の遺品から、誰も見たことのないZippoが出現する」なんていうこともある。そこまでのZippoに出会うことは珍しいが、今回のコンベンションでも貴重なヴィンテージZippoが数多く販売されていた。
ライターのコレクションを幅広く集める上で「情報」はとても大切である。希少価値が高いZippoになると、買いたくても買えない。なぜなら、世界で限られた数のみが存在しており、所有者が手放さない限り、市場に出回らない。そんなZippoが海外のオークションやマーケットに稀に登場することがある。その情報を個人で探すのは困難。そんな時に、FEEFなどのメンバーと「繋がる」ことで、情報を入手しやすくなる。FEEFクラブコンベンションでは、そんなメンバーと実際に会える貴重な機会である。
ライターにあまり詳しくない人も「楽しめる」のが、FEEFクラブコンベンションの特徴だ。トークセッション、オークションなどが、学園祭のようなアットホームな雰囲気で実施される。また、出店している人に気軽に質問できるのも楽しい。Zippoに関して分からないことを聞けば、2倍の情報量で返ってくる。会場から帰る頃には、Zippoにかなり詳しくなっているはずである。
Zippo社に依頼をした、FEEF公式のZippoも会場で限定販売されていた。
出店する人に聞いてみた。ライター、Zippoの魅力とは?
今回、FEEFクラブコンベンションでは30ブースほどが出店をしていた。その中のいくつかにインタビューを実施。そこから、ライターの魅力、Zippoの魅力が分かるかもしれない。
TOSHI
Zippoの収集歴25年を超えるTOSHIさんは、ヴィンテージZippoを中心に展示。特に1950年代に企業宣伝で作られた未使用のZippoがとても目を引いた。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「古いZippoでも、製造された年代が分かる。なので、歴史を集めることができる」との事だった。Zippoの裏側を見ると、製造された年代がほぼ分かるので、自分が生まれた年のZippoを探して、集める人も多いらしい。
イーエスシノダ
こちらのブースでは、Zippoの表面を刻み、オリジナルのデザインで刻印するところをデモしていた。最近では、家紋やアニメのキャラクターデザインなどを依頼されることが多いとのこと。興味がある方は、ホームページから問い合わせて欲しい。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「すぐ火がついて、消える」。シンプルな回答だが、喫煙器具として、とても重要な役割である。
アイハラ
Zippoコレクターでもあるアイハラさん、その所有数は1400個以上。誕生日のプレゼントで知り合いに貰ったZippoと出会ってから、喫煙を始めたというのが面白い。今回の出店では、Zippo社のナイフやピンパッジなど小物を中心に並べており、ひときわ目立つ存在だった。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「コレクター気質のある僕にとって、ピッタリ当てはまった」とのこと。手のひらサイズの大きさであり、湿気などに影響されないZippoは、数あるコレクションのジャンルの中でも、集めやすいのかもしれない。
ジッポーパーク
1000円〜3000円程度の普段使い用のZippoを数多く揃えており、初心者の方が手に取りやすいのが特徴。20年以上Zippoを中心とするライターを販売していきたが、最近は昔に比べて売り上げが減少しているのが心配だそう。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「永久保証であること。どんなに古いモノでも修理して使うことができる」。Zippoの構造はシンプルに作られており、ほぼ全てを修理することが可能だ。そのため、お気に入りのZippoを手に入れれば、死ぬまでの一生、利用できるのは嬉しい。
ブラッドフォード東京
多くのお客さんが取り囲んでいたこのブースでは、Zippo社のノベルティグッズが数多く販売されていた。中でも、ひと際目についたのがZippoのセールスマンが持ち歩いていた「Zippoのショーケース」である。1950年代〜60年代に実際に使われていたショーケースが、この保存状態で出回るのは珍しいとのこと。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「永久保証。Zippo社に送れば無料で修理をしてくれる。そんなコレクションは、世の中探してもZippoだけかも。そのZippo社のポリシーに惚れています」。
柘製作所
1918年にオーストリア・ウィーンでライター製造を初めたIMCO社(イムコ)のライターを展示しており、デザインの種類が豊富なのが特徴的。柘製作所は、IMCO社が管理していたサンプル用のライターをまとめて買取り、国内で販売をしている。1940年代〜50年代の ”未使用” IMCO社のライターを数多く所有している。
IMCO社のライターの魅力を一言で表現してもらうと、「Zippoは実用性の一点張り。IMCOは、そこにメカニズムの美しさを加えている」IMCOのライターは、Zippoに比べて多くの部品で成り立っている。その複雑さに”美”を感じるのは、とても興味深い。
ODDBALL
ブースに、ベトナム戦争のヘルメットが置かれており、ヘルメットにはラッキーストライクとZippoが挟まれている。当時は、こんな姿のアメリカ兵が多かったのだろうと想像が膨らむ。ODDBALLでは、Zippoのオイル缶や芯などが、発売当時の状態で並んでいる。芯のパッケージデザイン一つ取っても、時代により少しづつ変化しており、集めるのが楽しくなる。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「種類が多いこと。Zippo自体もそうだし、その周りの付属品も種類が多いから、集める人が多いのかな」。
しんかい
ヴィンテージのZippoを中心に展示していたこのブースでは、1933年製のZippo社の初年度のものに出会うことができた。また、1940年代のZippoを眺めるとデザインがシンプルかつ、可愛いのが印象的だった。ベトナム戦争で利用されていたZippoも数多く並んでいた。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「売る立場からすると、製造年が分かることが重要。生まれた年のZippoを探す人もいますよ」。
ジッポーワールド・ナカムラ
1970年代に小売店としてZippoを販売しており、長い間、大阪でZippo文化を支えてきたジッポーワールド・ナカムラ。当日並んでいたのは、Zippo社のマスコットキャラクター Windy(ウィンディ)をモチーフにしたオリジナル作品など。ジョークも加えたセンスは、見ているだけでも楽しい一品。現在は、製造されていないために、入手するのが難しい。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「一生の相棒。永久保証が付いている。壊れても修理に出せば必ず直してくれる。ひとつ買えば、無くさない限りは一生使える」。
村瀬隆志
熱烈なZippoファンである村瀬さんは、30年以上のZippoコレクター。プレゼントで貰ったのがきっかけで、徐々に種類を増やしていった。この日、展示をしていたのはサッカー関連のZippoが多かった。インタビューの最終、突然ポケットから出てきたのは18金製のZippo。その価格60万円以上するそうだが、普段使いとして利用しているから驚きだ。ちなみに、パチンコ屋にこのZippoを置き忘れたことがあるが、ちゃんと保管所で見つかったそう。
Zippoの魅力を一言で表現してもらうと、「一つ一つにストーリーがある。300、400個を持っていても、どこで買ったのか覚えている」。
横浜元町ヒュミドール
Zippoと一緒に、1930年代のデュポン社製のライターなどが並んでいたのが特徴的なブース。普段はタバコ屋として商売をしており、珍しい外国製の葉巻の空箱を無料でプレゼントしていた。
「商売という意味ではZippoが売れるが、個人的に好きなのはデュポンのような複雑なライター。ジャンクで買って、それを修理して販売するのが楽しい」。
日本における、ライター文化の火を消さないのが大事。
今回の「FEEFクラブコンベンション」の主催者であり、FEEF代表の渡部さんにお話を伺った。
FEEFの役割とは?そして、FEEF今後の展開は?
「FEEFとは、Far East Eternal Flameの略で、日本語で ”極東で永遠に燃え続ける炎” 。その名前の通り、日本における、ライター文化の火を消さないために、誕生した団体です。コンベンションは5回目を迎えて、最初の頃よりも、人と人の繋がりが増えてきた。これが大切です。
また、FEEFのHPでは、古いライター、Zippoなどの情報を少しづつデータベース化しています。昔のライター、Zippoなどは情報が少ないので、それらの情報を後世に残す役割も果たしたいと思っています。最近ではHPを観た海外のライターマニアたちから問い合わせが増えてきていますね」
今回の会場を見渡すと、中国やタイから訪れた人もいることに気づいた。そして、女性の姿も目にすることができ、参加前に抱いていた「男だけの楽しみ」という私の予想とは異なった。
最後に、渡部さんは、こんなことを付け加えた。
「海外のライタークラブでは、『コレクションの適正なシェア』という役割もあるのです。これは、例えば貴重なコレクションを所有していた人が亡くなった時に、遺品となったコレクションを適切な価格でクラブ内のメンバーが買い取る仕組みです。リサイクルショップなどに持っていくと貴重なライターの価値が適切に評価されない。そうなると、遺族の方に残る資産が少なくなる。しかし、クラブ内で価値に見合った適切な金額を遺族の方に渡すことで、故人も喜ぶと思う。その仕組みをFEEFでも取り入れたいと思っています。文化遺産の保存という意味でも」
逆風にも負けない灯火(ともしび)は、これからも燃えつづける。
今回の「FEEFクラブコンベンション」に参加してみて、あらためて、趣味が合う人とリアルで集まる場は、必要だと感じた。もちろん、コレクションを集める方法は自由である。一人でモクモクと集めてもいいのだが、こうやって仲間を増やしながらコレクションを集めること自体が、楽しそうに感じる。
時代は変わった。
喫煙する場所は減少し、タバコの価格は上がり続ける。
喫煙家にとって、完全に逆風である。しかし、FEEFのような団体が存在すれば、その火は、どんなに逆風でも消えることはないだろう。
ーおわりー
コレクションを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
読んで楽しい異色の一冊
ミリタリー・ジッポー物語
ファッション性と実用性を兼ね備え、マニアだけでなく今や若者を中心にあらゆる年代に人気のジッポー・ライター―そのルーツと知られざるエピソードの数々を、ジッポー・コレクターが紹介するミリタリー・ジッポーの世界。ミリタリー・ジッポーを世界にひろめることになったGIとの関係を通してジッポーの変遷、アメリカの時代背景がわかる。
Stylish, charismatic little cigarette lighter
When Zippo Went to War: A Lighter Legend
Throughout the 1930s the Zippo Company in Pennsylvania prospered on the growing success of its stylish, charismatic little cigarette lighter. The lighter was made mostly of brass, but with the Second World War that metal was declared a ‘strategic material’ in the U.S. where huge amounts of it were needed for shell and cartridge casings. Zippo replaced the brass with steel, which can corrode, and wartime Zippos were given a new baked-on black ‘crackle’ finish to protect them. That non-reflective characteristic helped save the lives of many American soldiers in combat zones.