「70年前のイギリス製革靴」との出会いが開いたヴィンテージへの扉

「70年前のイギリス製革靴」との出会いが開いたヴィンテージへの扉_image

文・写真/渡邉耕希

人もモノも、積み重ねてきた年月によって得られる魅力が必ずある。この連載ではロンドン在住の渡邉さんにイギリスのヴィンテージ事情をレポートしていただく。現在25歳の渡邉さん。本記事では彼がヴィンテージのウェアや革靴に魅力を感じる理由について伺った。(本記事では、ヴィンテージとは長い年月を経て味わいがでたファッションアイテムとする)

ヴィンテージコレクターから見たイギリスをお届けします

MuuseoSquareイメージ

この度、ご縁があり「イギリスでヴィンテージの扉を叩く」の連載を担当させて頂くことになりました、ロンドン在住の渡邉耕希と申します。

イギリスではアンティークマーケットなどが随所にあり、週末ともなるとたくさんの人々が思い思いに掘り出しものを探しています。同様にヴィンテージと呼ばれる長い年月を経たファッションアイテムを扱うお店も多く存在します。ただ、ロンドンでも良いもの、良いサイズを見つけるのが大変になってきているのが現状です。

本連載では、ヴィンテージアイテムのコレクターとしてのイギリス生活をリポート中心にお伝えしていきます。また、現地で出会った友人との対談、ヴィンテージショップやアンティークマーケットの情報、そして過去の記事ではお伝えしきれなかったことにも触れていきます。

ロンドンの中心地からほど近い場所にある公園、Regent's Park。筆者の通う学校の裏にある。

ロンドンの中心地からほど近い場所にある公園、Regent's Park。筆者の通う学校の裏にある。

私自身はコントラバスという楽器を学ぶためにロンドンに留学しており、現地に住み始めて4年目に入ろうとしています。

靴好きとなったのは13歳の頃に母に買い与えられたDr. Martensのブーツがきっかけでした。スニーカーにはない革靴独特の履き心地や耐久性に魅了され、その後少しずつ数を増やし、留学前にはChurch’s(チャーチ)やTricker’s(トリッカーズ)などを含むイギリス製の靴を数足所有していました。

イギリス靴だけにこだわって購入したのは、控えめでありながら力強い佇まいに直感的に惹かれたからだと思います。

雷に打たれたかのように魅せられた、True Formのヴィンテージシューズ

ヴィンテージシューズなるものについては日本にいる時から聞き及んでいましたが、留学中に1、2足手に入ればいいなという程度だったのです。しかし、ロンドンに来て1年目の終わり、1足のヴィンテージシューズに出会いました。

「True Form」のヴィンテージシューズ

「True Form」のヴィンテージシューズ

1940年代製 「Bective」

1940年代製 「Bective」

それは、True Form(トゥルーフォーム)というメーカーが1940年代に作ったデッドストック(新古品)。雷に打たれたかのような感覚でした。洗練された流れるような曲線を描く木型は往年のアストンマーティンやジャガーの車のよう、使われている革はカシミヤのように滑らかで鈍い輝きを放ち、縫いの正確さやトゥキャップと甲の長さのバランスの良さは一瞥しただけで見てとれました。

幸い値段も良心的で、またこのような靴はイギリス本国でも少なくなっていると聞き購入に至りました。

質と歴史、それがヴィンテージの醍醐味

それをきっかけに手に入れたり手放したりを繰り返し、現在30足ほどを所有するに至っています。最近では服も数着出会いがありましたが、ヴィンテージの品々は利益重視、大量生産、大量消費の時代に本当の「質」とは何かと、と問うてきます。

個人的にはそのような時代に絶対反対というわけではありません。自分自身もそのような環境で育ちましたし、純粋に利潤ということを考えるとあまりにも丈夫なものを作ると商品の回転率は上がらないということは明白です。回転率や効率を優先すれば、丈夫さや品質は後回しになってしまいます。しかし、粗悪ですぐに壊れてしまうもの、数年のうちに寿命(流行としても)が来てしまうものに果たして愛着が湧くでしょうか?

19世紀後半(ヴィクトリアン)のフロックコートと1900年代(エドワーディアン)のトラウザーズ

19世紀後半(ヴィクトリアン)のフロックコートと1900年代(エドワーディアン)のトラウザーズ

Christy's のヴィンテージ・シルクトップハット

Christy's のヴィンテージ・シルクトップハット

ヴィンテージと出会ったのはちょうどこのような疑問を抱えていた時期でもありました。イギリスでは作られて100年以上を超える品に出会うことも稀ではありません。奇跡的にほぼ新品のような状態で残っているものもあれば、何度も何度も修理されて生き残っているものもあります。

物に歴史が宿ると言えばよいでしょうか。そこには確かに物が人と歩んだ道のりを見出すことができます。生地や革の質、技術はヴィンテージの魅力として紹介されることはよくありますが、その歴史に思いを馳せること、また、身につけることがヴィンテージの真の醍醐味だと認識しています。

何10年あるいは100年単位でその原型を留め、現代まで続くその耐久性、そしていつの時代でも受け入れられるデザイン、タイムレスであること、これらが「質」の根幹だと私は思います。

ヴィンテージが新たな出会いをつなぐ

そして、ありがたいことに、この3年の間、第一線で活躍されている靴職人の方、サヴィル・ロウで修行されたテーラーの方、誰もが目を見張るほどの数と分野も多岐に渡ったヴィンテージコレクションをお持ちの方など、情熱をもってその世界に身を投じている方々との出会いが多々ありました。

そのような方々とものづくりについてお話できることはこの上ない喜びです。連載ではヴィンテージアイテムを中心に、私がロンドンで出会った方々もできる限り紹介したいと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!

ーおわりー

Half brogue by Bermondsey Bootmakers 1970〜1980s

Half brogue by Bermondsey Bootmakers 1970〜1980s

Maxwell bespoke chukka boots 1970s

Maxwell bespoke chukka boots 1970s

Tricker's bespoke circa 1960s

Tricker's bespoke circa 1960s

公開日:2017年9月23日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

File

渡邉耕希

1992年生まれ。ロンドンへの留学中に身に着けた紳士服やヴィンテージアイテムの知識をもとにライターとして活動する傍ら、自身のYouTubeチャンネル「The Vintage Salon」にてヴィンテージを交えた英国的暮らしを発信している。

終わりに

渡邉耕希_image

幾年もの月日を経てきたヴィンテージ、その魅力を少しでもお伝え出来れば幸いです。服や靴との付き合い方は人それぞれですが、ヴィンテージに関しても同様です。製品として着倒される方、史料として次の世代に残される方、その間の立場をとられる方などさまざまです。私は使うもの、残したいものとをはっきり区別をしていますが、どちらかと言うと保存目的の方が多くなっていると思います。経年劣化によるダメージが常につきまとうヴィンテージの世界、どのように修理するかという悩みをお持ちの方は少なくないかと思います。次回は私がイギリスで手に入れた品々の修理の様子を、請け負ってくださった職人さんとの対話と合わせてお送りします!

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