世界に誇るべき日本のパンツ職人・尾作隼人の穿いて美しいパンツとは。

世界に誇るべき日本のパンツ職人・尾作隼人の穿いて美しいパンツとは。_image

取材・文/倉野路凡
写真/佐々木 孝憲

服飾ジャーナリスト・倉野路凡さんがビスポークスーツの話題に触れるとき、必ずといっていいほど名前のあがる、パンツ職人(パンタロナイオ)尾作隼人(おさくはやと)さん。その道を極める尾作さんが生みだす「格別な穿き心地」と称されるパンツ。新たな工房での制作の裏側を見せてもらった

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Osaku Hayatoブランドでの新工房オープン!ビスポークメインでの新たなる出発

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パンタロナイオ(イタリア語でパンツ職人)として活躍している尾作隼人(おさくはやと)さん。彼の工房が2017年春に移転した。これまでは有名テーラーの下請けと、自らのビスポークパンツの受注と両方を手掛けてきたが、昨年の秋からはビスポーク一本に。

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「この2年ほどの間に少しずつビスポークのお客様も増えて、何年かかけてようやく完全に独立した形です。これまでは受注会開催時以外では、受注、仮縫いや納品のためお客様の元へ個別訪問するスタイルをとってきたのですが、だんだんとそのための外出スケジュールが多くなり過ぎて、パンツを作る時間が減ってしまいました。それでは本末転倒なので、思いきってお客様を呼べる工房をオープンさせたんです」と尾作さん。

以前の工房は最寄駅よりバスかタクシーを使わなくてはならない場所だったが、新しい工房は駅から徒歩でも近く、とても便利になった。工房内はワンフロアに店舗であるサロンスペースと工房に分かれていて、2人の職人が尾作さんをアシストしている。

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穿いてみてその美しさと凄さがわかる! ビスポークでしか実現できない穿き心地

具体的に尾作さんが作るパンツの特長はというと、まず立体的なこと。サイズが合っているということもあるが、型紙とアイロンワークと縫製の技術が相まって、立体的で完成度の高いパンツに仕上がっている。

見た目でわかりやすいのはベルト部分が弓なりにカーブしている点だ。このカーブによって腰へのホールド感が増すのだ。つまり、ベルト部分を曲げることで、完成した際にパンツのウエスト付近が先すぼまりになり、体のウエストをしっかりとホールドしてくれる。

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レディスの既製パンツでもカーブしたベルトは見かけるが、尾作さんのパンツは芯地からアイロンで曲げている。しかも地の目が通っているのだ。根本的に既製品のそれとは違うのだ。


このベースとなる芯地はナポリから直接仕入れているもので、アイロンの熱と蒸気で形を変えることができる優れもの。しかも冷めると形を保持してくれるのだ。そのベース芯の中央には国産の増芯(ポリエステル製)を使っている。増芯を使うことで型崩れしない適度な強度を確保している。

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また、後ろ身頃のヒップ付近の生地をタテ方向に長くとっているため、椅子に腰かけたときに、腰とベルト部分に隙間ができにくい。つまり抜けにくいのだ。既製品のパンツはヒップ付近の生地が短くて座ったときにパカッとベルトに隙間ができてしまう。穿いてみて実感できる凄さなのだ。

細かな部分に感動させられる、手縫いの緻密さ。
尻くり(尻の縫い目)は負荷のかかる箇所だけに、糸のテンションを調整しながら手で縫っている。その他の直線的な地縫いはミシン仕上げだ。ポケット周りやボタンホール、裏地の取り付けは手縫いで行っている。

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ちなみに手縫いの必需品、指ぬきはオーダーメイド。素材は適度な硬さを出すために、シルバーに少し銅を混ぜている。市販のものより柔らかな使用感なので使いやすいとのこと。不揃いな穴は職人が手で打っている証。

手縫いが適しているところは手で、ミシンが適しているところはミシンを使っているのだが、ビスポークだけのことはあり手縫いの箇所は多い。ヒップポケットの玉縁部分を見ると、その形状がベルトに並行してカーブを描いている。細かなところだが感心させられてしまう。

また左右にポケットを作るのも尾作さんならでは。片ポケットだとポケットがないほうのヒップが大きく見えてしまうからだ。片ポケットがいい人はもちろんビスポークなので一つだけでもOKだ。

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脚の構造を理解したS字カーブ

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カーブベルトと並んでわかりやすいのが、S字カーブ(またはM字カーブ)と呼ばれるシルエットの曲線。これはアイロンで生地をいせ込んだり伸ばしたりして、癖をつけていくことによって生まれる線だ。

パンツを置いてみると、太もも付近が少し膨らんで、ふくらはぎ付近が膨らんでいるのがわかる。人間の脚はけっしてまっすぐではないからだ。骨格や筋肉の付き方の違いによってこのカーブの強弱もいろいろ。クネクネ曲がっているからいいというわけではないのだ。イタリアのナポリのビスポークパンツにもこのような曲線は見られる。

パターンオーダー&既製ラインも展開! 新ブランド「PANTALONAIO Osaku Hayato」も誕生

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「今後はパターンオーダーも展開していきます。いまちょうどゲージ(サンプルのパンツ)を作ってもらっているところです。新ブランド「PANTALONAIO Osaku Hayato」はパターンオーダーと既製品での展開。ともに国内のパンツ専業のファクトリーによる生産ですが、いい意味でローテクなファクトリーなので、パターンオーダーに関しては細かな仕様にも対応してくれます。セミオーダーのような完成度の高いものになると思いますよ。既製品は、現在伊勢丹で展開しているブランド「M039」と根本的なパンツ作りの理念は同じですが、ツープリーツのモデルや股上のバランスをクラシックな雰囲気にするなど、少し変更しています。ぜひ新ブランドに期待してほしいです」と尾作さん。

世界的なブランドとも肩を並べられるクオリティ、今後の展開に期待大。
他にも尾作さんのビスポークパンツは魅力があるので、少し付け加えておこう。基本的にアウトプリーツ仕様なのだが、それには理由があって、センタークリース(折り目線)をくっきりさせたいからだ。しかもこのセンタークリースの出発点であるプリーツの位置が、一般的なパンツに比べて、外側からスタートしているのだ。外から内に向かってセンタークリースが落ちているのだ。解剖学的に考慮してのことだと思うが、たしかにこの方が見ためにも美しい。インプリーツだとセンタークリースが弓なりになりやすいそうだ。

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機能面とは関係ないが、股下の補強布(シック)を省略しているのも特徴のひとつ。既製品の場合は、生地のわたり(長さ)に余裕がないため、引っ張り気味になってしまう。そのため股下部分に余裕がなくなり擦れやすくなってしまう。それを防ぐため股下には補強布が必要なのだ。ところがビスポークの場合は体型に合わせて作るため、擦れることは少ない。そんな理由から補強布を省いているのだ。また自分でプレス(アイロン)をするときに補強布があると邪魔になるとのこと。

このように尾作さんのビスポークパンツには従来のものとは異なる独自の考えが詰まっている。これから展開するオリジナルのパターンオーダーと既製品も、ビスポークの要素をできる限り反映させたものになるだろう。

日本だけでなくアジアからのお客さんもあるという。日本のビスポークが注目されていることもあるが、世界に出しても誇れるのが尾作さんのパンツなのだ。この作りが世界的な基準になると面白いと思う。

ーおわりー

手にしているのは、尾作さんの子供たちが生まれたときに記念に作ったテディベア。上の子供のときは尾作さんのベストを作ったときのビンテージ生地で、下の子が生まれたときはパンツの残布で製作。スポーテックスのビンテージ生地でハリがある。

手にしているのは、尾作さんの子供たちが生まれたときに記念に作ったテディベア。上の子供のときは尾作さんのベストを作ったときのビンテージ生地で、下の子が生まれたときはパンツの残布で製作。スポーテックスのビンテージ生地でハリがある。

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イタリアのカチョッポリ(写真左端)。糸、織り、ウエイト、仕上げにおいてレベルが高い。カノニコで織っているウールの生地で、タテ糸とヨコ糸ともに双糸。柔らかく高級感がある。300g。

イギリスのダブルビルのアイリッシュリネン(写真中央)。厚みのある平織りでドライタッチ。とてもパンツには最適な素材だ。このくらいヘビーウェイトだとリネンでもシワになりにくい。380gms

DUGDALE BROSSのニューファインウーステッド(写真右端)。280/310gms

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PANTALONAIO Osaku Hayato

長年、著名テーラーからのオーダーの請負い、確かな信頼と評価を築いてきた、パンタロナイオ(パンツ職人)尾作隼人氏が満を持してスタートさせたオリジナルブランド。オーダーメイドをはじめパターンオーダー、既製品も展開。穿く人を美しく見せる作りと、ピタリと体型にフィットする穿き心地でリピートするファンも多い。定期的に東京と大阪で受注会を実施中! 詳細はPANTALONAIO Osaku HayatoのFBにて確認してほしい。

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現在の変貌する紳士服の聖地「サヴィル・ロウ」を象徴する全11テーラーを紹介

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Savile Row(サヴィル・ロウ)A Glimpse into the World of English Tailoring

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公開日:2017年7月1日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

倉野路凡_image

尾作さんと出会ったのはパンツ職人として独立して間もない頃だ。何度か取材するうちにパンツを作ってもらい、その穿き心地の良さに驚き、また取材するという繰り返し。穿き心地だけでなく、脚が長く見えるし、シルエットが美しいのだ。直立不動で美しいパンツは既製品でも作れるかもしれないが、歩いて美しいパンツはそうないだろう…。新工房になり駅からも近くなった。これまで受注会が中心だったが、正式に窓口ができたのはうれしいかぎりだ。既製品とパターンオーダーも楽しみだ。

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