自転車に乗れるようになったあの頃を…“東京”の街に溶け込む「tokyobike」

自転車に乗れるようになったあの頃を…“東京”の街に溶け込む「tokyobike」_image

取材・写真/山川 譲

「相棒は自転車」 シリーズ 1 回目。

昔から映画や音楽、バイクが好き。でも、「なぜ?」と聞かれると困ったもので。気付いたら考えていたので「好き」、「なぜ好きか」は考えたことがない。本連載では、僕が好きなモノの作り手さんにお話しを聴いて、「なぜ好きか」に迫り、モノが持つ魅力を見つけていきます。今回は、東京の街にぴったりな自転車を数多く揃えた「tokyobike」の見城ダビデさんにtokyobikeのこだわりを聞いてみました。

MuuseoSquareイメージ

「自転車を買おう」、そう思ったのは2007年。中学時代に購入した自転車を10数年ほど使っていましたが、引っ越しを機会に捨てることに決めた。自転車に詳しい友人からアドバイスされ、いろいろ見ていた中で目を引いたのがtokyobikeでした。ギリギリのところで他メーカーの小径車を買ってしまいましたが、スポーツバイクを買うならtokyobikeにしたいなぁと毎年サイトを覗いていました。

「TOKYO」バイクはジャンル名?

山川:
「tokyobike」という名前は「東急ハンズ」に名前が似ていたので印象に残りました。

見城さん(以降、敬称略):
東急ハンズさんでも取り扱っていただいています(笑)以前何度かコラボレーションモデルも出しているんですよ!

山川:
どういう経緯でこの名前にしたんですか?

見城:
オーナーがシャワーを浴びているときに閃いたそうです。ロードでもマウンテンでもない、東京を走る為の自転車、「tokyobike」を作ろうと。

山川:
自転車としてはロードとマウンテンの間、クロスバイクに位置する自転車モデルが多いですよね。大手メーカーのクロスバイクとはどのような違いがあるんですか?

見城:
大手のバイクメーカーは、パーツのスペックや軽量化等、“速く走る”ことに特化している所が多いのですが、tokyobikeでは“速く走る”ことよりも、漕ぎ出しの軽やかさや扱いやすさ、誰でも“心地よく走れる”ような自転車を目指しているところが大きく違うと思います。

山川:
なるほど、スタートラインが違うのか。

見城:
そうですね。信号や坂道、人通りの多い都市の道でも小回りが利くように。漕ぎ出した時にスイスイっと気持ちよくスピードに乗れるように。東京の街で“自転車”を意識せず、風景や空気の匂いを感じるためにはどうしたら良いかを考え、フレームの素材や形状、パーツを一つ一つ吟味しました。フレームは細身でしなやかな乗り心地のクロモリフレーム。洋服や普段の生活にもあわせやすいよう、フレームカラーにはとてもこだわっています。

クロモリ

自転車の代表的なフレーム素材のひとつで、鉄とクロームとモリブデンが混ぜられているスチール素材。軽量かつ頑丈。カーボンと比べて安価で、アルミ素材と比べて硬さと衝撃吸収性のバランスが良くフレームを細くできる長所を持つ。鉄のためサビが出やすい欠点もあるが、自転車のフレームとしては長い歴史を持つことから、塗料で工夫をするなど、さまざまな工夫、改良が施されている素材でもある。

MuuseoSquareイメージ

山川:
使う人の生活に合わせた調整をしているんですね。

見城:
ロードバイクと比べて、ホイールも少しだけ小さいものにしています。ホイールが大きいとスピードを出したときの安定感は高くなりますが、漕ぎ出しが重くなるので、漕ぎ出しが軽くて小回りも効く一回り小さい650cや26inchのホイールをメインで採用しています。またがるときも楽ですしね。

山川:
オートバイと似てますね。車体が重いと取り回しが大変ですが、スピードを出したときに安定します。でも、軽いと取り回しは楽ですが、スピードを出すとブレて怖い…怖かった…

見城:
気になる路地を見つけたら気軽に入れる。信号も多いから、漕ぎ出しが軽い自転車が都市には向いているのではないかと考えて、こだわりました。

実は筆者はバイクが好きで、昔は仕事で陸王のバイクにも乗ったことがあります。プライベートでは車体の重いアメリカンや600ccの車体が軽いネイキッドバイクに乗っていました。車体が軽いと、橋の上などで横風に煽られて本気で「死ぬ」と思ったものです。

レースに出ていないからこそ自由が効く

山川:
そういえばこの連載をやっていてひとつ気付いたんですけど、僕が伺うブランドさんは自社のロゴが小さいなぁと。自転車はレースがあるからロゴは目立ったほうがいいんじゃないですか?

見城:
tokyobikeはレースに出るような自転車ではなく、普段の日常生活が楽しくなるような自転車を目指してつくっているので、ロゴや自転車自体が目立つことよりも、乗っている人が引き立つことを意識してデザインしています。乗る人が主役ですから、ロゴはあまり目立たなくてもいいんです。

山川:
レースに出ていないから、自由が効くんですね。

見城:
その分、フレームカラーにはとてもこだわっているんですよ。でも、それ以上にやっぱり乗り心地を大事にしています。何と言っても乗り物ですからね。何度も試作と試し乗りを繰り返し、今でも微妙なマイナーチェンジを重ね続けています。レースに出る訳ではありませんが、街の中で走るためのちょうど良いスペックを日々模索しています。そういえば、山川さんは悩んだときに他のメーカーに決めたのはなぜだったんですか?

山川:
自転車に詳しい人から「タイヤの幅が狭いから乗りづらいよ」「空気を入れるときに面倒だよ」と言われたことがひっかかたんです。僕は詳しくないから、買ってみて扱いづらいと嫌だなぁって思ったんです。

見城:
発売した当初は650cというサイズのホイールサイズのものしかありませんでしたからですね。タイヤも細く、チューブも仏式バルブというロードバイク等で使われるタイプしかありませんでした。スピードは出しやすいのですが、仏式専用の空気入れも必要なので、今では一まわり太くて安定感があり、一般的な英式の空気入れでも入れやすい26inch のモデルもラインナップしています。たとえば、TOKYOBIKE 26、BISOU 26、TOKYOBIKE LITEです。

650c

一般的なロードバイクのホイールサイズは700c、ざっくり言うと27inchぐらいの大きさ。ホイールの径が大きいと直進でスピードが出てくると安定性が高くなるため、多くの自転車に採用されていたそうです。650cは26inchに近い。少し径が小さくなる分、直進の安定性は下がりますが、漕ぎ出しが軽く、小回りが効くなど街乗りをする場合は利点が多いそうです。

高円寺駅から歩いて5分ほど、店内には数え切れないほどの自転車が並んでいます

高円寺駅から歩いて5分ほど、店内には数え切れないほどの自転車が並んでいます

自転車用のアクセサリのほか、鞄やパーカーなど豊富に揃えています。ファッション性の高いものが多い印象でした

自転車用のアクセサリのほか、鞄やパーカーなど豊富に揃えています。ファッション性の高いものが多い印象でした

店内にはメンテナンススペースも。見城さんたちスタッフが調整してくれます

店内にはメンテナンススペースも。見城さんたちスタッフが調整してくれます

カフェスペースを用意している自転車屋さんはめずらしい!

カフェスペースを用意している自転車屋さんはめずらしい!

山川:
僕が聞いた自転車に詳しい人はロードバイクに乗っていたから、彼にとってtokyobikeは「扱いづらい」と感じた。だけど僕みたいに詳しくない人には「扱いやすい」自転車だったんですね。

見城:
お店では、お客様の話を聞きながらカゴや泥よけを付けたり、ハンドルのカタチを変えたり、使いかたにあわせて細かなカスタムの提案もしています。

山川:
tokyobikeがこだわった”乗り心地”とは具体的にどんな乗り心地を目指したんですか?

見城:
オーナーはよく「自転車に乗っていることが気にならないようにしたい」と言っていました。 “自転車に乗っている“ということよりも、自転車に乗りながらちょっとした街並の変化や季節の移り変わり、好奇心をくすぐる路地や素敵なお店など、日々の生活の中で、そういうちょっとした発見を楽しんでもらいたいんです。そのためには、”自転車に乗っていること”が気にならないほうがいいですよね。極論ですけど(笑)。

「初めて自転車に乗った」感覚を再体験できる

見城:
僕はメッセンジャー(自転車便)をやっていたんですけど、メッセンジャーはスピードが命なので、とにかく速さを求めてロードバイクに乗っていました。でも、買い物や友達の家など、近所に行くときにはロードバイクだとちょっとオーバースペックなんです。

山川:
スーパーに行くのにハーレーで行ってもなぁ。スクーターで十分ですよね。

見城:
「ハーレーじゃなくてスクーターで十分」、まさにその感覚ですね。近所を見て回るなら小回りも効くし小型でどこにでも置いておけるスクーターが良いですよね。でも原付ではなく、125ccくらいの。それなりにスピードもでるし、たまにはちょっと遠くまで行きたくなるような、tokyobikeはそんなスタンスの自転車です。

山川:
あまりに近くても足が遠のきますけど、「遠そう」と思ってもやっぱり足が遠のくんですよね。ほどよい近さだと足を運ぶ。でも、東京の名所とか繁華街って10km四方に集まっているんで、「ほどよい近さ」なんですよね。

思わず笑顔が出てしまう乗り心地でした

思わず笑顔が出てしまう乗り心地でした

見城:
子どものとき、初めて自転車に乗ったときに世界が広がった気がしませんでしたか?

山川:
わかります。一人で乗れるようになると、どんどん世界が広がっていく。

見城:
僕は静岡の出身で、上京してから1〜2年くらいずっと電車と徒歩で移動していました。その時は目白から新宿まで、電車じゃなきゃ行けないと思い込んでいて…でも実際は4kmぐらいしかないので、自転車で20〜30分ぐらいもあれば充分行けちゃうんです。スポーツバイクに乗るようになってからは、そうやって自分の行動範囲が広がり、街を身近に感じるようになりました。

山川:
「灯台もと暗し」ですね。大人になると「見える世界」が多い。でも、見えすぎて見えなくなっていることが発見できる。自転車に初めて乗れたときの嬉しさって、そういうことだったのかもしれませんね。

見城:
オーナーと一緒に自転車で走っていると、すぐに「こっちに行ってみたい」と路地に入っていくんです(笑)。tokyobikeは自転車に乗ること以上に、新しい発見や生活を楽しんでいただくことにこだわりました。東京は小さな街が集まった大きな都市、小さな“街”の魅力を自転車、tokyobikeに乗って、発見して貰えるととても嬉しいです。

ーおわりー

File

tokyobike

1997年、台東区谷中にて設立。
トーキョーの街を速く走る事よりも、自転車を意識せず風景や空気の匂いを感じるためのデザインをコンセプトとして自転車をつくり続けている。東急ハンズやオッシュマンズで販売がスタートし、今では谷中をはじめ、高円寺と中目黒にも直営店を構える。その他、ロンドンやニューヨーク、オーストラリア等、海外での店舗も増え注目を集めている。※Tokyobike Shop 高円寺は2020年3月15日をもって閉店し、吉祥寺に移転しました。

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Series : 相棒は自転車

公開日:2016年3月22日

更新日:2022年3月31日

Contributor Profile

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山川 譲

シンクタンク、ウェブメディア記者、雑誌編集を経て、コピーライターとして活動。ランチ代、定期代もすべてCDにつぎ込んでいた高校時代以降、CDと本を中心に様々なモノをコレクションしている。現在はロシアンウォッチ、カメラレンズ、眼鏡、ネクタイをコレクション。モットーは「保存はしない、実用」。

終わりに

山川 譲_image

バイクを買ったとき、嬉しくてヘルメットを三日間被って寝ました。気が向いたら、真冬なのにGジャン一枚で筑波山まで走るなど、無茶もしていましたが、一人暮らしをして「維持できない」と手放して自転車を買いました。装飾する楽しさもありますが、乗り物の楽しさは「世界が広がる」「発見できる」ことなのかもしれませんね。

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