毎日だしを取るのも、時々のおもてなしにも。 愉しんで使いたい、田邊屋の「かつお節削り器」

毎日だしを取るのも、時々のおもてなしにも。 愉しんで使いたい、田邊屋の「かつお節削り器」_image

取材・文/堤 律子
写真/田中 幹人

毎朝鰹節を削り、だしを取る−−−そんな暮らしに憧れつつ、三日坊主になりはしないかと思うと手が出ない。そんなイメージを取り去ってくれたのが、乾物屋の老舗・田邊屋。今回は「京都台所道具見本帖」番外編、「かつお節削り器」の使い方。

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理想の削り節を目指して。「削る」という工程を愉しむ。

まるで高級木材のように硬く、すべすべと滑らかな肌触りで、しっかりと重さがある。鰹節を初めて手にした時の印象は、密度の高い木材で作られた彫刻に触れているような感覚だった。「だからそれを削る道具も、ある程度の重さがあって安定感のあるものでないと、きれいに削れないんです」。と話すのは、田邊屋の七代目・山下尚志さん。「削り器の刃を自分の方に向け、鰹節の頭の方を手前にして、向こうへ押すようにして削ります。鰹節の身の流れを意識すると削りやすく、美しい削り節になるんです」。

田邊屋で扱う「かつお節削り器」は、日本では家具や下駄などに幅広く使われている栓(せん)という木材。材質やデザイン自体に特徴があるわけではないが、料理のおいしさを左右するベースを「自分で削り出す」という作業が、鰹節を削る喜びなのではないだろうか? と、鰹節の上品な香りに包まれながら考える。力加減やカンナに鰹節を当てる角度によって、下の引き出しに積もる削り節が粉々になったり、ごく薄く繊細な形状になったり。さらに料理の味も変わってくるのだから、いつの間にか“自分の理想の削り節”目指して、夢中になってしまうのだ。

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かつお節削り器をテーブルで囲むという新しいおもてなし

田邊屋に並ぶ鰹節は、すべて鹿児島県枕崎産の「本枯節(ほんかれぶし)」と呼ばれるもの。身に傷が付きにくい一本釣りで水揚げされた鰹を煮熟(しゃじゅく=煮る)し、焙乾(ばいかん=燻し乾燥させて冷ます、を繰り返す)したものが「荒節」と呼ばれる鰹節で、さらに、それらの表面を1本1本削り、香りや旨みをより豊かにするためにカビ付けを繰り返したものが「本枯節」だ。ちなみに、スーパー等で販売されている花かつおは「荒節」が多く、「本枯節」はさらに深みのある味わいを持っている。「もちろん、どちらも手軽に栄養を摂れる発酵食品。太陽の光が旨みを凝縮した栄養たっぷりの鰹節を、もっと気軽に食べていただきたい」と話すのは、山下さんの奥様で“かんぶつマエストロ”(日本かんぶつ協会)の由美子さんだ。

昔の日本では当たり前のように使われていた鰹節削り器だが、今は使っている家庭を探す方が難しい。だしを取るために毎回削る時間と手間を考えると、やはり現代のライフスタイルに合わないのではないだろうか。そんな問いに由美子さんは、鰹節削り器を手軽に楽しむ方法を提案してくれた。

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「例えばパーティーでお出しする料理の、仕上げにふりかける削り節を、それぞれ自分で削るという演出はいかがでしょう。テーブルに削り器を置き、皆さんで囲んで順番に削っていくんです。まずは味の良さをちゃんと知っていただきたい。質の良い鰹節で和えると酢の物もまろやかになるんですよ」。

まさに台所道具でしかなかった鰹節削り器を、おもてなしのツールとして活用し、鰹節について、自分で削ることについて改めて注目してもらう。海外のゲストは言わずもがな、日本人でも新鮮な気持ちで盛り上がるに違いない。また、大量の食品ロスが問題となっている日本で「必要な時に必要な分だけ削って長期保存ができる鰹節は、今の日本で大切な食材のひとつ」という話に、美味しさだけでなく合理性も突き詰めた食材なのだと改めて感心した。

今回、シンプルだが鰹節をしっかり味わえるレシピを由美子さんが教えてくれた。「鰹節を自分で削り、炊き立ての白いご飯にたっぷりと乗せ、すりおろしたわさびを添えて、お気に入りのしょうゆをかけるだけ。わさびが名産の地域では名物のわさび丼ですが、シンプルなのに旨みと辛味が癖になる、とても美味しい食べ方です」。

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出会えない場所で出会えた喜びは大きい。 だからどこにでも連れ出そう。

田邊屋が、京都の台所・錦市場にのれんを掲げたのは1830年。鰹節をはじめとする乾物や鶏卵の卸業を主体に営み、2010年に東京の石油関係の商社に勤めていた尚志さんが七代目を継いで、2013年にリニューアル。今では、常連さんだけでなく市場を訪れる国内外の観光客が思わず足を止めてしまうような、上質な乾物をはじめ、各地の調味料などを並べる。尚志さんは「私は積み重ねて来た歴史のバトンを受けた、中継点でしかありません。代々田邊屋を信用して下さるお客様と信頼のおける仕入先、生産者の方々の間にいて、リレーを繋がせてもらっているんです。生産者の方の思いや価値を適切に伝え、適切な価格で販売することが我々の最も重要な仕事であると考えています」と話す。

もう一つ、尚志さんから削り器の提案をしていただいた。それは通常の約3分の1の大きさの「ミニかつお節削り器」。手の平に収まるサイズ感がまるでおもちゃのようだが、新潟県の木工職人に特注している田邊屋のオリジナルだ。お弁当に添えたり、登山やピクニックに持参したりして、香り高い削り立ての鰹節を青空の下で味わうのも楽しいのではないかという想いから生まれたそう。
どこでも削り立てを、という山下夫妻の想いは、鰹節を削る音のように軽やかで、確実に旨みを持った一片を生み出している。

ーおわりー

File

田邊屋

京都市中京区錦小路通高倉東入中魚屋町506番地
075−221−1407
9:00〜18:00
日曜休み

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公開日:2016年2月27日

更新日:2022年1月13日

Contributor Profile

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堤 律子

京都在住のフリーエディター。ほっこりするものよりキリキリ研ぎ澄まされたものが好き。30代も後半となり、スタイルではなく体力維持のためバレエ教室に通い、最近着付けも習い出す。今、興味があるのは銅版画(製作する方)。

終わりに

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鰹節を毎朝削ってだしを取り、お味噌汁を作る。そんなゆったりとした生活に憧れますが、張り切って使い出しても、削り器を早々に戸棚の奥にしまってしまう自分も簡単に想像できてしまうのです…。今回、「お出かけに連れて行く」、「パーティーのパフォーマンスに使う」というご提案に、なんて楽しそう! それなら私にも出来そう! と早速「ミニかつお節削り器」を購入しました(”ミニ”を選んだところがまだ及び腰?)。最近は、おひたしを作ったら、家族で各自、削っています。

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