クリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表、梶原由景氏による連載「top drawer」。第二回はニューヨークのホテル事情について。旅の満足度を左右する重要なファクター、宿泊先。トレンドが変わればホテルも変わります。
ニューヨークに息づくホテル・カルチャー
ブルックリンに新鋭デザイナーやアーティストが相次いで拠点を構えた時には、ワイスホテル(Wythe hotel)がハブとなっていた。ニューヨークでは引き続きホテル文化が面白い。2019年もムーブメントを起こしそうな二つのホテル、TWA Hotelとシスターシティー(Sister City)が新たにオープンした。
TWA Hotelは、2001年に閉鎖されたジョン・F・ケネディ国際空港のTWAフライトセンターを改装したホテル。フィンランド系アメリカ人の建築家エーロ・サーリネン(Eero Saarinen)が設計し1962年に完成した。しかし、現代の航空機の規模に対応できず、ターミナルは2001年に閉鎖。休眠期間を経て復活した。客室は別棟で、ターミナルはフロントやロビーとして使われている。正直、広すぎて持てあまし気味のようだ。
そしてシスターシティー。HPに「We were inspired by the philosophy of Less, But Better.」とあるように、簡素だが機能的な誂えとなっている。ラウンジエリアは設けず宿泊をメインとしている。次世代型とも言うべきコンセプトで運営されているこのホテルは、エースホテル(ACE HOTEL)のチームが新たに立ち上げた。
エースホテルはもう古い?
宿泊者やローカルが集まるラウンジをロビーに設け、地元のクリエイターとともにホテルを作る。エースホテルはライフスタイル系ホテルの先駆けとして世界中で受け入れられた。アメリカだけでなく日本においてもそのコンセプトに影響を受けたであろうゲストハウスやホテルは数多くある。
個人的には、エースホテルの「おしゃれ感」はお腹いっぱい。ロンドンでエースホテルに宿泊した時のこと。最初は刺激的だったのだが、部屋にいる時にも「どうだ、クールだろ?」と言われているようでどうも落ち着かない。
いま足が向かうのは居心地のよいホテル。その一つが2017年にマンハッタンのローワー・イーストサイドにオープンしたパブリック・ホテル(PUBLIC Hotel)だ。
手がけたのはイアン・シュレーガー(Ian Schrager)。彼はデザイナーにフィリップ・スタルク(Philippe Starck)を起用し、モンドリアンホテル(Mondrian Hotel)やハドソンホテル(Hudson Hotel)などのデザインホテルをつくったホテル王だ。
パブリック・ホテルはイアン・シュレーガーらしくラグジュアリーをベースとしつつ、いまの感覚に合うようにアップデートされている。徹底しているのは過ごしやすさ。ベルボーイに荷物を持ってもらい、フロントと「やあ」とあいさつし、コンシェルジュに旅程をアレンジしてもらう。そのような過干渉な要素は削られている。
PUBLIC Hotelの1Fには衣服や本、アクセサリーなどを取り扱うセンスのよいショップがある。
例えばパブリック・ホテル ニューヨークにはフロントがない。タブレットを持ったスタッフがロビーにいて、予約した時に送られてきたバーコードでチェックインできる。ルームサービスはなし。客室内のミニバーに置かれているのはミネラルウォーターのみ。「飲みたいものがあったら1階の売店で買ってね」というスタンス。
部屋にはコンセントの数が非常に多いうえ、コンセントすべてにUSBのタップが付いている。ホテルでコンセントの数を増やすのは相当なコストがかかるはずだ。
内装は一見シンプルで突きつけてくるものはない。しかし、よく観察すると、素木(しらき)に似せたよごれがつきにくい材を使っていたりと実は工夫されていることがわかる。cozyな空間を作るのにものすごくコストをかけている。
セントラルパークの近くにある1 Hotelも居心地がいい。エコを意識したホテルで、建物の外壁は植物で覆われている。エレベーターの前に置かれたラックにはりんごがたくさん入っており、横には「よかったら持って行って」というメッセージが添えられている。建材には再生木材を使用しており、ベッドシーツは100%オーガニックコットンだ。
パブリック・ホテルや1 Hotelにあって、エースホテルに欠けているもの
エースホテルに欠けていて、パブリック・ホテルや1 Hotelにあるものが「さりげなさ」。それに気づいたエースホテルのチームはシスターシティーをオープンさせたのではないだろうか。
日本のシティホテルは昔のラグジュアリーホテルを背負っている。ルームキーを返却するボックスを設置しているホテルも増えてきたものの、チェックアウトをフロントに伝えないといけないホテルはいまだに多い。「チェックアウトお願いします」と伝えたところで「どうぞ」しか返ってこないのであれば、フロントは無くてもよい。
2011年より前、ニューヨークでイエローキャブと呼ばれるタクシーを捕まえるのはなかなか骨が折れた。しかしUberの登場で状況は一変した。大切なことは顧客が何を求めているのかを考え応えること。それがいまの生活にフィットするラグジュアリーだと思う。
ーおわりー
TWA HotelとSister cityのルームキー。お気に入りのホテルのルームキーはそっと持ち帰る。(写真:新澤遥)