100万円以上出しても手に入れたい!! ファンが求めるプレミア・トミカの条件とは

100万円以上出しても手に入れたい!! ファンが求めるプレミア・トミカの条件とは_image

取材・文・写真/手束 毅

大人がハマる自動車のホビーを取材する連載の第4弾。国内ミニカーファンのなかで、とくに人気が高いブランドはトミカである。1970年から販売を開始したトミカは、現在まで星の数ほどの製品が販売されてきた。そんな中でファンがとくに欲しがるトミカ、いわゆるプレミア・トミカとはどういう製品なのか。プレミア・トミカに詳しいミニカーショップ『ケンボックス』で話を聞く。

現在までの累計出荷台数はなんと6億台以上!

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トミカやミニカーが所狭しと並べられたケンボックス店内

トミカやミニカーが所狭しと並べられたケンボックス店内

日本でミニカーといえば、タカラトミーが発売するトミカを思い浮かべる人が圧倒的に多いはずだ。ミニカーに興味がなくても、その名前を聞いたことがない人はいないのではないか。そう思うくらいトミカの認知度は高い。

そんなトミカは、60分の1(※車種によってはスケールが違う製品もある)の小スケールミニカーとして1970年9月に6車種を販売したことからスタート。現在までに6億台を超える製品が世の中に出回っている。余談だが、6億台のトミカをつなぎ合わせると地球1周を超える約4万6000kmになるというから驚きだ。

しかし、ここまで大きな人気を誇るトミカは、なぜファンの心を掴むのだろうか。

「45年間続いているミニカーブランドはトミカ以外にはありません。長く販売し続けていることが人気の秘訣ではないでしょうか」

トミカファンにとってレアモデルの品揃えにはとくに定評があるミニカーショップ『ケンボックス』の坂詰健一さんはひとつの要因として、このように語ってくれたが、もちろんこれだけが理由ではない。

数多くの魅力が詰まっているといわれるトミカのなかで、ファンが惹きつけられる理由、またファンが求める商品とはどういうものかを探っていこう。

トミカの登場でミニカーファンの底辺が大きく拡大した

ブルーバードSSSクーペのトミカ。このモデルは1970年9月に販売された記念すべきトミカ最初のモデルだ。

ブルーバードSSSクーペのトミカ。このモデルは1970年9月に販売された記念すべきトミカ最初のモデルだ。

1970年から1984年までに販売された黒地のパッケージをファンは「黒箱トミカ」と呼ぶ。写真はスプリンタートレノのトミカ。

1970年から1984年までに販売された黒地のパッケージをファンは「黒箱トミカ」と呼ぶ。写真はスプリンタートレノのトミカ。

1970年に登場したトミカは、当時、限られた大人が楽しむものとして認識されていたミニカー界に、子どもをターゲットに手のひらに乗るサイズのミニカーとしてデビュー。

子ども向けとはいいつつも、実車のイメージを忠実に再現した高いクオリティを実現。また、ドアの開閉、サスペンション機構といったギミックや回転可能な車輪などを小さなボディに備えていたことなどで子どもはもちろん、大人たちもトミカに魅了され爆発的な人気となった。

大人だけではなく、子どもをターゲットにしたトミカの登場で、ミニカーファンの底辺が大きく拡大したのだ。

ファンが「青箱トミカ」と呼ぶのは1977年から1988年まで販売されていたトミカ外国車シリーズ。写真はロールスロイス・ファンタムのトミカ。

ファンが「青箱トミカ」と呼ぶのは1977年から1988年まで販売されていたトミカ外国車シリーズ。写真はロールスロイス・ファンタムのトミカ。

45年の歴史を持つトミカは、パッケージの配色から初期モデル(1970年~1984年)は「黒箱トミカ」と呼ばれファンからの注目度は高い。

ちなみに1977年から1988年にラインナップされていたトミカ外国車シリーズを「青箱トミカ」、1984年以降、赤と白で塗りわけられた製品を「赤箱トミカ」とファンは分類する。

だが、必ずしも古い製品だからといって人気がでるわけではないと坂詰さんは話す。

「トミカファンが目の色を変えて探す絶版モデルは、ただ古い製品というわけではありません。プレゼント当選品や企業が宣伝媒体用としてオーダーした特注品など簡単に購入できないものは人気ですね。あと東京モーターショーなどのイベント会場でしか購入できない限定品や販売数が少ない製品など、簡単に購入できないモデルにプレミアがつきますし、ファンはそれを欲しがります」

いわば欲しい人の数(需要)に対し、市場に出回る数(供給)が圧倒的に少ない製品にプレミアがつくのだが、とくに稀少モデルには1万円以上の値がつくことは珍しくないという。

メインカラー以外の色を身にまとったトミカに25万円の値がついた

そんなプレミアがつくトミカとしてファンに有名なのが通称“香港トミカ”。1970年に発売後、すぐに爆発的な人気を得たトミカは国内生産が追いつかずに香港の工場に生産を委託した。が、しかし塗装のクオリティが低いうえ、しかもハンドルが国内製品に比べ大きいなど質感が大きく劣っていたため早々に生産が打ち切られたという曰く付きのトミカである。

香港トミカの1台、1971年に販売されたホンダNⅢ360。

香港トミカの1台、1971年に販売されたホンダNⅢ360。

こちらも1971年に販売された香港トミカのカペラロータリークーペ。

こちらも1971年に販売された香港トミカのカペラロータリークーペ。

絶対数が少ないことで希少価値が出た香港トミカのうち、当時180円で販売されていた三菱ギャランGTO-MRは、現在ファンの間では10万円以上の価格で取り引きされている。

ここで坂詰さんに、最近とくにプレミアがつくトミカとはどういうものかを聞いてみた。

トラックの荷台に家畜のフィギュアが載せられているトミカの家畜運搬車。

トラックの荷台に家畜のフィギュアが載せられているトミカの家畜運搬車。

「近年、とくに人気が出ているのが1970年代、80年代に作られたトミカの“家畜運搬車”。トラックの荷台に付属している牛や豚などのフィギュアを積んだモデルですが、フィギュアは小さいためなくしてしまうんですよ。そのため現存している数が少ないことで希少価値が出ているのがその理由でしょう。当時200円程度の価格だったのに、いまでは市場価格は2万円を超えます。あと80年代のF1、70年代のスーパーカーはとくに人気が高いモデルが多いといえるでしょう」

と、プレミアがつくトミカについて話を聞かせてくれた坂詰さんに、これまでお店で一番高く売れたトミカはなんだったかを質問してみた。

1970年9月に登場した6台の内の1台がこのトヨタ2000GT。市場に出回らない赤いモデルはプレミアがつく。

1970年9月に登場した6台の内の1台がこのトヨタ2000GT。市場に出回らない赤いモデルはプレミアがつく。

「この店はオープンしてまだ5年あまりと若いのですが、これまで一番高く売れたのはプリンス自動車時代のグロリア…あ、これはブリキ製のおもちゃだからトミカではないですね。トミカでいうと香港トミカのギャランGTO-MRが30万円くらいで売れましたし、あと1970年に販売されたトヨタ・2000GT、これは25万円でした。この2000GTは市場にあまり出回らなかった赤いボディカラーを身にまとっていた激レア品なのがこの値段の理由ですね」

ボディカラーが赤いというだけで、ここまで高額な値段がつくのかと驚いた筆者に、坂詰さんは続けて次のように説明してくれた。

「このミニカーは1970年にトミカとして初めて発売された6車種の中の1台ですが、当時のミニカーファンはメーカーが一押しするメインカラーの製品を購入する方が大半だったのですよ。いまとは違い、製品はひとつ買えば満足する方が多かったのでメインカラー以外のボディカラーを購入する人は少なく、結果、いま残っている個体が少ないというわけなのです。当時は色違いのバリエーションを集めようとする人が少なかったのですね」

思いをはせたり、現実を忘れさせてくれるアイテム

香港トミカとともに、稀少モデルとして有名なマスコミトミカ。テレビ番組と連動して1973年に販売されたが当時は不人気ですぐに販売が終了した。写真は三菱ふそう高速バス・ムーミン。

香港トミカとともに、稀少モデルとして有名なマスコミトミカ。テレビ番組と連動して1973年に販売されたが当時は不人気ですぐに販売が終了した。写真は三菱ふそう高速バス・ムーミン。

ここまで坂詰さんが話してくれたような稀少トミカを求めるためにファンはインターネットや自らの足を使い日々、情報を得るのだという。

ただ、前回、おもちゃの蚤の市『ワンダーランド・マーケット』のレポート記事でも触れたように、国内ファンがやや減りつつあるなか、街を走るクルマの大半が日本車の香港や台湾を中心とするアジアでは、馴染みある車種、すなわち日本車のラインナップが豊富なトミカを求めるファンが増えているそうだ。

「ここ数年で大きく変わったのは、海外、とくにアジアでのトミカファンが増えたことですね。日本とは違い20代や30代の比較的若いファンが多いため、ミニカー文化はより広がっていきそうですね。逆にクルマに興味をなくした若者が多い日本のミニカーファンは、減りつつあると感じます」

若者のクルマ離れとは、テレビや新聞などでよく使われるフレーズではあるがミニカーの世界ではとくにそう感じるのだと坂詰さんは話す。

事実、お店を訪れたのが中華圏の旧正月である「春節」だったせいか、朝から香港などからの来店客がひっきりなしに訪れていた。そんな香港からのお客さんには、英国領だったせいかローバー・ミニのトミカがとくに人気だという。

MuuseoSquareイメージ

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TDR内でしか購入できないためプレミアがつくモデルが多いディズニートミカ。

そんな坂詰さんに、トミカやミニカーの魅力を最後に聞いてみた。

「やはり興味を持つきっかけは実車への憧れが大きいのではないでしょうか。1000万円以上するポルシェが、手のひらに乗るミニカーだと自らがオーナーになれる。ただ、ミニカーとはいえ手に入れたらそのクルマに思いをはせたり、非現実的な時間を与えてくれるものなのです。癒やしではないですけど、持ち人によっては現実を忘れさせてくれるアイテムであり、また永遠に憧れをもつことができるアイテムでもあります。5個、10個集めただけだと子どものおもちゃかと思われるかもしれませんが、100個、200個揃うと立派なコレクションになりますよね。そこまで究めると、より集めることに夢中になる。それってやはり贅沢な趣味なんだと思うんですよ」

ーおわりー

File

ケンボックス

ミニカーの販売と買取を行う。60分の1(※車種によってはスケールが違う製品もある)の小スケールミニカーとして1970年9月に6車種を販売され、現在までに6億台を超える製品が世の中に出回っているトミカのミニカー。45年の歴史を持つトミカの「黒箱トミカ」、「青箱トミカ」「赤箱トミカ」、そしてプレミアがつくという通称“香港トミカ”なども取り扱っている。

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本書では、5年前の『トミカリミテッド ヴィンテージ完全読本』の後を受け、
その後5年前(2014年3月から2019年2月)の足跡を追うとともに、開始以来の歩みを概観してみた。

公開日:2016年2月22日

更新日:2022年4月18日

Contributor Profile

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手束 毅

自動車専門月刊誌の編集を経て現在はフリーエディターに。クルマはもちろん、モノ系、ミリタリー、ファッション、福祉などなど「面白そう」と感じた様々な媒体やテーマに関わっているものの、現在一番興味がある「もつ焼き」をテーマにした出版物の企画が通らないことが悩みの種。

終わりに

手束 毅_image

取材時、文中に登場した家畜運搬車のトミカを子どものころ所有していた思い出した筆者。同時に思いだしたのは、家畜のフィギュアもすぐなくしたこと…。子どもが実際に手にして、走らせて遊ぶトミカは販売台数が多い反面、コンディションのいい状態で残るものは多くないんですよね。高額なプレミアがつくトミカに驚きつつも、どうしても欲しいからと購入してしまうファンの気持ちはよくわかります。

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