JR埼京線「板橋駅」、都営三田線「西巣鴨駅」から徒歩5分。昭和の街並みを残す北区滝野川に老舗のアンティーク時計店があります。それがプライベートアイズ。Instagramのフォロワーは7000人を超え、海外からお客さんも訪れるという実力店を取材しました。
場所は移っても、こだわりは変わらず
創業以来ずっと北区滝野川で店舗を構え続けているプライベートアイズ。2016年7月に旧店舗にほど近い現在の場所に移転して、雰囲気も高級感が増し明るくなった。
外観は黒で統一されており、店内はアイボリーの壁と、ヘリンボーンの寄木張りのフローリングというヨーロッパの店舗を彷彿させるセンスの良い組み合わせ。
変わらないのは扱っているアンティークウォッチのブランド。オーナーの遠藤さんの好みは創業以来変わっていないということだ。
おすすめはロレックスで、なかでも通称「バブルバック(Bubble Back)」は、プライベートアイズがもっとも力を入れているモデルだ。
歴史に名を残す時計、バブルバック
バブルバックは1931年にデザインされ1933年の終わり頃に発売された「オイスターパーペチュアル」のこと。その後1955年まで生産され続けた自動巻きモデルだ。
簡単に説明すると、従来の手巻きムーブメントの上に360°回転するフラットなローターを乗せることで、自動巻きの巻き上げ効率を向上させたエポックメイキングな時計なのである。
ケースは従来からある完全防水ケースのオイスターケースを使用。これは牡蠣の殻のように堅牢で開かないという意味が込められている。
ちなみにパーペチュアルは着用していると永久にゼンマイを巻き上げてくれるという意味だ。だから「オイスターパーペチュアル」というモデル名がつけられている。
バブルバックが発売される以前に生産されていた「オイスター」は、完全防水のオイスターケースを使った手巻きモデルだった。
このモデルの弱点はゼンマイを巻くためにわざわざネジ込み式のリューズをクルクルと外さなくてはならないこと。その後リューズを閉め忘れてしまい、そのまま使用して内部に浸水しまうことがしばしば起こったらしい。
それを解消するために考えたのが勝手にゼンマイを巻き上げてくれる自動巻き機構をもったオイスターだ。
このようにバブルバックは構造的には画期的な発明だったのだが、手巻き機構の上にローターが乗った分だけムーブメントに厚みが出てしまった。
既存の裏蓋ではローターが邪魔になり閉じることができない。そのため新たに裏蓋が作られたのだ。当初生産された裏蓋はローターを覆うように厚みがあるが、表面はフラットなものだった。その後ローターが改良されるにつれて裏蓋の形状もふっくらと膨らんだものへと変わっていった。
その独特の膨らんだケース形状から、泡のように膨らんだ裏蓋を意味する「バブルバック」と呼ばれるようになった。
バブルバックは個性豊かな表情が魅力的
勤続25年を迎えた店長の前田さんは「腕時計の歴史のなかでも全回転の自動巻きローターを搭載したバブルバックは貴重な存在なんです。オイスターケースの作り込みの素晴らしさは後のスポーツウォッチを予感させます。しかも文字盤のバリエーションが豊富なので、コレクターにはたまらないモデルなんですよ」と話す。
店長の前田さん。取材当日、キャリバーARを搭載したケース径27ミリのボーイズサイズのバブルバックを身につけていた。
バブルバックのケース径は31ミリと小ぶりなのだが、風防ガラスと裏蓋に盛り上がりがあるため、着用時のバランスが良く、けっして小さいという印象を与えない。
もっともバブルバックらしい文字盤と言えば、ローマ数字とアラビア数字を組み合わせたローマン・アラビックダイアルだろう。
通称「ユニークダイアル」と呼ばれるもので、ベンツ針と呼ばれる夜光針と組み合わされている。文字盤の色はピンク、シルバー、イエロー、ブラックの4色が存在する。このダイアルは1942年に特許を取得してすぐに市場に出ている。
とにかくロレックスは特許の数が多いことで有名だ(笑)。その他ツートンダイアルのものやローマ数字が小さく描かれたものなど多岐にわたっている。機構もそうだがデザインの特許を取得するなどオリジナリティーを大切にしている点でも面白い。
「ロレックスのプリンスというレクタンギュラーモデルのなかでも、両サイドがフレアなブランカートというモデルがあって、1930年代初頭から生産しているんです。パテックフィリップのフレアードと呼ばれるモデルはもっと後年ですから、いかにロレックスがデザイン面においても新しさを求めていたかが、よくわかります」と前田さん。
文字盤以外にもエンジンターンドベゼルのもの、ラグ部分が覆われているフーデッドタイプのものがあったり、コレクターにはたまらない時計がバブルバッグだ。
プライベート・アイズで取り扱っているバブルバックを紹介
グレーとシルバーのツートンダイアル。クリスクロスと呼ばれているもの。リューズが少し大きく、赤い三角の秒針が印象的。1930年代半ば製造。自動巻き。価格115万円+税。
ピンクの文字盤のユニークダイアルとベンツ針。とてもコンディションがいい1本。ブレスはリベットブレス。自動巻き。価格110万+税。
ブレス、ケースともに18金。1930年代後期製造。ブラックダイアル。プリントのドットのインデックスも珍しい。自動巻き。280万円+税。
海外からも足を運ぶ人が多い、充実のラインナップ
プライベートアイズは海外へ直接買い付けに出かけて、コンディションの良い時計だけを取り扱うようにしているし、オリジナルにこだわりリダンされた文字盤のものは取り扱っていない。
状態がよく価格も適正価格を死守しているので、海外からのお客様が多いのも特徴だ。アメリカやヨーロッパ、ここ数年はアジア圏のシンガポール、タイ、フィリピン、インドネシアの富裕層の人たちがアンティークウォッチを買いに来ているそう。ロレックスのスポーツモデルを一通り買ってからアンティークの世界に入ってくる人もいるとか。
店頭以外でインターネットのサイトでも販売をしているが、東京近郊の方は一度来店してから決めてほしい。実際に手にしたときの印象と異なることもあるからだ。ケースの大きさや厚み、文字盤の色、リューズを巻いた時の感触、ローターの回る音など、実物を見ないとわからないこともある。
ロレックスのスポーツモデルは現行品、アンティークにかかわらず人気が高く、価格も高騰している。価格が上昇したロレックスのデイトナを最終目標にするのも自由なのだが、自動巻きの黎明期に登場したロレックスのバブルバッグや、オイスターパーペチュアルは価格が安定しているのでおすすめできる。
また、ここ数年クロノグラフ全般が人気で、無銘ブランドに近いクロノグラフもじわじわと価格が上がり始めているが、プライベートアイズでは便乗して意図的に価格を引き上げたりはしていない。無銘ブランドとはいっても搭載しているムーブメントはビーナスやバルジューなどの有名なムーブメントだから安心できる。
もちろんロレックスやクロノグラフに限らず、IWCやオメガ、チソ、ゼニス、エテルナ、ユリスナルダン、ドクサなどの3針モデルも取り扱っている。アンティークウォッチのビギナーにもおすすめできる店舗だ。
ーおわりー
PRIVATE EYES
JR「板橋駅」と都営三田線「西巣鴨駅」から徒歩5分、北区滝野川に店舗を構えるアンティーク時計店。IWCやロンジン、クロノグラフなどのモデルも取り扱っているが、特に力を入れているブランドがロレックス。中でもバブルバックの品揃えは都内でも随一で、海外から訪れる人の多さからもその評判の高さが見て取れる。ヴィンテージのロレックスに興味を持ったならば足を運んで損はない名店。
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終わりに
旧店舗のときに2度ほど取材し、プライベートでも腕時計を購入したことがあるお店だ。新店舗になって高級感は増したものの、扱っているブランドも、店長の前田さんも変わらず嬉しかった。やはりバブルバックとクロノグラフは強いな~という印象だ。