長野県にある登内時計記念博物館。館内には第1から第4展示室まであり、館長の登内さんが長年収集してきた18世紀から19世紀のヨーロッパを中心とした機械時計から新しいものまでおよそ300点を展示しています。また博物館の庭には1,000本あまりのシャクナゲを植えてあり、花の見頃となる5月中旬から6月初旬は花を見ながら散歩することもできます。
今回は登内時計記念博物館 時計修理師 唐澤さんにお話しを聞かせていただきました。
展示をしている300点のほとんどが動いている状態で展示をしています。なので館内は時計のカチカチという音が常に響いています。
博物館内を案内して下さった、唐澤さん(左)と湯沢さん(右)
Muuseo(以下mso):登内時計記念博物館の成り立ちを教えてください
登内時計記念博物館(以下時計博物館):登内館長が30年以上前から、世界中の機械式時計を収集していました。館長は時計を修理する事も好きで、展示するスペースと修理が出来るスペースを兼ねた建物を思い立ち、それが「登内時計博物館」になりました。平成10年の6月10日にオープンしました。
登内館長は、ルビコンという会社の会長にも就いています。ルビコンという会社を一代で世界的に活躍する会社へと築きあげ、地元である長野県の県議員などもしていました。地域の文化施設として役立てたいとの思いから、この長野県の伊那市に博物館はあります。
登内館長が機械式時計を集め始めたきっかけは、時計修理が得意だった父親の思い出がきっかけだそうです。
mso:博物館では、時計を何点ぐらい所有していますか?
時計博物館:全部で600点以上あるのですが、その中の300点ほどを展示しています。600点の全てが動く状態ではないのですが、展示をしている300点のほとんどが動いている状態で展示をしています。なので館内は時計のカチカチという音が常に響いています。
mso:登内館長は、どのようにして機械式時計を集めたのですか?
時計博物館:ルビコンという会社は海外や国内に営業所があるのですが、そちらへ出張した際に、現地の行きつけの時計店に出向き、気に入った物があったら購入していたそうです。
昔の機械式の時計は、”カチカチカチ”と音がして、”ボーンボーン”と鳴り、そして木の温もりがあります。その辺りに暖かみを感じますね
展示コーナーには丁寧な説明書きがあるので、時代の変化を感じながら鑑賞することができる
唐澤さんがお勧めの1870年頃のフランスで作られた燭台式の時計
mso:コレクションの特徴を教えてください
時計博物館:新しい物から古い物までを揃えています。特に、19世紀のフランス時計を好んでいたので、その辺りを豊富に揃えています。
また、時計だけではなく、オルゴールやカリヨン塔なども楽しんでもらう事が出来ます。
mso:展示されている機械式時計の中で一番古い物は何年になりますか?
時計博物館:18世紀の前半の物になります。
mso:機械式時計の魅力とは何ですか?
時計博物館:暖かみがある所ですね。普通のクオーツ時計だと無機質な感じがしますが、昔の機械式の時計は、”カチカチカチ”と音がして、”ボーンボーン”と鳴り、そして木の温もりがあります。その辺りに暖かみを感じますね。
また、機械式の時計は修復する事が出来るのが魅力ですね。苦労をかけて修理した時計が動いている姿を見ると、嬉しいですね。
mso:展示方法として工夫されている点はありますか?
時計博物館:時代順であったり国ごとに分けたりしています。そして各ブースには、説明書きも用意しているので、時計の背景を知ることが出来ます。来てくれたお客様に対して、分かり易く説明が出来るように心がけていますね。
また、小さい子供たちが来ても楽しめるように、時計の実験コーナーもあります。手に触れながら、時計の仕組みを分かり易く学ぶ事が出来ます。小さい子供の中にはリピーターになってくれる子も多いですね。ビデオシアターも備えているので、映像で時計の歴史を学ぶ事も出来ます。
世界に数台しか存在しない時計や、民謡「大きな古時計」のモデルにもなった「グランドファーザー・クロック」等もあるので、時計が詳しい方にも喜んでもらえると思います
mso:個人的に質問になりますが、唐澤さんが好きな時計は何ですか?
時計博物館:正面玄関の所にある、フランス製の燭台の時計ですね。時計のデザインが好きですし、長年見ていても飽きが来ないですね。
mso:唐澤さんは時計の修理を始めて何年になりますか?
時計博物館:博物館の歴史と同じですので、16年ぐらいですね。たまに、当博物館に”時計の修理をしてもらいたい”という要望があるのですが、それは断っています。博物館で展示している時計だけを修理しています。
mso:登内時計記念博物館に来た方に、特に見て欲しいお勧めのコーナーはありますか?
時計博物館:第二展示室ですね。当博物館の目玉である時計が展示されています。世界に数台しか存在しない時計や、民謡「大きな古時計」のモデルにもなった「グランドファーザー・クロック」等もあるので、時計が詳しい方にも喜んでもらえると思います。
mso:展示されている時計の中で、一番高い物はどれぐらいの価格になるのですか?
時計博物館:難しい質問ですね(笑)。古い時計は、価値があるのですが価格が付けられないので、分からないですね。
古い機械式時計を見て、昔の人の想いやロマンを感じて欲しいですね
昔の人の思いやロマンを感じる事ができる、機械式の時計
mso:今後の展開がありましたら教えてください。
時計博物館:年に1回はイベントを実施したいと思います。
時計の絵画と工作を子供たちに作ってもらうイベントを毎年実施しています。
「こんな時計があったらいいな」という時計を描いてもらったり、いろいろな素材を組み合わせて、実際には動かないのですが時計を作ってもらったりしています。
実際に子供たちが作った物は展示をして、最終的には館長が子供たちの作品から数点を選び、その作品を作った子供に表彰をしています。
現在は、県外からのお客様が多いので、イベントなどで地元の方にもっと足を運んでもらいたいですね。
mso:次回のイベントの予定はいつになりますか?
時計博物館:まだ未確定なのですが、4月の下旬ぐらいから応募を始めて、5月に締め切り、6月には表彰を行いたいと考えています。
mso:そのイベントの情報はどこから入手できますか?
時計博物館:ホームページと、地元の情報誌から手に入れる事ができます。
mso:最後になりますが、登内時計記念博物館に興味を持った方に、メッセージがあればお願いします
時計博物館:今は機械式の時計はアンティークの分類になっています。古い機械式時計を見て、昔の人の想いやロマンを感じて欲しいですね。
面白い時計がたくさんあるので、ぜひ観に来てください。
ーおわりー
森に囲まれている登内時計記念博物館。4月末から5月は一面がシャクナゲの花で覆われるそうです
機械式時計の中身が見れる展示コーナーもあります。その精密さに驚かされます
宝石のように見えますが、天体・天候時計として正確な時を刻んでいます
江戸時代の日本で使われていた時計。当時は、十二支の干支の名前で時間を呼んでいたそうです
19世紀後半のフランス製の時計。貴族の人たちの華やかな生活を想像できますね
世界中の時計好きなら知っているBreguet(ブレゲ)が作った世界に20台限定の時計。右側にある腕時計を、置き時計にはめ込むと、腕時計のネジが巻かれる仕組みです
ヨーロッパの貴族の部屋をモチーフにした展示スペース。華やかな時代にタイムトリップが出来ます
登内時計記念博物館
長野県にある「登内時計記念博物館」。館長の登内さんが長年収集してきた18世紀から19世紀のヨーロッパを中心とした機械時計から新しいものまでおよそ300点を展示している。第1から第4展示室まであり、庭には1,000本あまりのシャクナゲを植えてあり、花を見ながら散歩することもできる。
コレクションを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
時代の最先端技術がつぎ込まれた時計の歴史
時計の科学 人と時間の5000年の歴史
時間という概念が発見されて約5000年。時間をどういうように活用していったのかという話から、機械式時計やクオーツ時計の誕生、さらには時間の概念を変えた原子時計についてと、時計の歴史を余すところなく解説している一冊。
広範な歴史を取り扱って新書サイズでページ数は224p。内容が薄いのかと言われると全くそんなことはない。
例えば、機械式時計の自動巻きの機構一つ取っても、ロレックス方式、シェフィールド方式、マジックレバー方式など8種類紹介文付きで取り上げられている。著者は服部時計店(現セイコー)で勤務したのち、独立した織田一朗氏。時計が動く仕組みや、「なぜその時計が開発されたのか」という時代背景まで丁寧に解説されているので、時計に詳しくない人でも読み進めていける。
機械式時計のすべてがわかる、時計ファン必見の1冊
機械式時計大全: この1冊を読めば機械式時計の歴史や構造がわかる
歴史や種類、内部構造、精度やメカニズムなどを詳細に解説するのはもちろんのこと、各メーカーのつくり手としての思想やこだわりなども伝える機械式時計の決定版。世界的に有名なブランドや機械式時計の名機、ヴィンテージウォッチ、ミリタリーウォッチなどを紹介するともに、選び方や買い方、メンテナンスのポイントなども詳しく紹介。手巻式腕時計の基本構造やゼンマイの構造などメカニズムの解説から、ド・ヴィックの時計や振り子時計の発明譚、日本の機械式時計発達史など歴史的側面も網羅するなど機械式時計の魅力を多角的に追求しました。
終わりに
長野県の伊那市にある「登内時計記念博物館」。
緑の森の囲まれた博物館は、300台の機械式時計が一斉に時を刻んでいる不思議な空間でした。タイムスリップをした感覚で、とても癒されます。
そして、15時などの定刻になると、一斉に「ボーン、ボーン、ボーン」と時計の音が聞こえています。19世紀の人も同じ音を聞いて生活をしていたんだと考えると、少しロマンチックになりますね。
館内には、歴史的な古い時計から、デザイン性が優れた装飾時計まで様々な時計が展示されています。子供向けの学習コーナーもあるので、家族で訪れるのも楽しいと思います。
ぜひ、都会の生活で疲れている方、登内時計記念博物館に行って19世紀の世界にトリップすることをお勧めします。癒されますよ!