服飾ジャーナリストが解説!メンズブレザーの起源と種類。

服飾ジャーナリストが解説!メンズブレザーの起源と種類。_image

文/飯野高広
写真/松本理加

クールビスなどではいまや定番になった紺ジャケ(紺のジャケット)。そして、そのもっと昔から紺のジャケットといえばブレザーが定番でした。そもそもブレザーとは、学生が学生服として着用するもの⁉︎ それともネイビージャケット(紺ジャケ)とは別のもの⁉︎ と定義が曖昧になっているアイテムでもある。服飾ジャーナリスト・飯野高広さんにメンズブレザーの起源と種類を解説してもらった。ブレザーとは何かを探っていこう。

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今、改めて評価を受けるブレザー

スーツ、つまりジャケット・トラウザーズ・ウェストコートが同じ色柄で同じ素材で作られた服の組み合わせは、確かに今日でもビジネスウェアの主役格。この装いでなくては働けない業種も未だに結構存在する。

しかし、俗に言うジャケパンの装い、すなわちジャケットとトラウザーズとが異なる色柄で異なる素材で作られた服の組み合わせでも働ける職種が、近年相当増えているのは読者の方々も実感しているだろう。

オフィスウェアのカジュアル化の進展や、クールビズ・ウォームビズへの(半ば強制的な)取り組みの浸透など、理由はさまざま。その過程で、硬軟両派に使えるテーラードジャケットとして評価が急浮上(いや再浮上か?)しているのが、何を隠そうブレザーである。ただこの「ブレザー」なるもの、紺無地でメタルボタンが付いたジャケットと単に定義するのは、あまりに大雑把な気がしないか?

そこで今回は、いくつかのブレザー並びにそれに類するもののチェックを通じ、その歴史、そしてその服としての意味を、改めて考察してみたい。

1. 英国海軍起源ならではの凛々しさ。ダブルブレステッドのブレザー

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ブレザーの起源にはシングルブレステッド(シングル)とダブルブレステッド(ダブル)の二つの流派がある。古いのは実は後者のほうで、英国海軍のフリゲート艦「ブレザー号」が19世紀中盤に採用した制服が始まりとされている。

即位間もないヴィクトリア女王がこの軍艦を訪問するのに際し、新調した真鍮のメタルボタンを軍服(ただし、当時は今日のような黒に近い濃紺無地ではない)に付けて歓待したところ、彼女に非常に喜ばれたことがまず海軍の内部で伝わり、七つの海を支配するその凛々しいイメージと共に民間にも徐々に広まったらしい。

そのような起源だけあり、色は海軍の軍服に通じるネイビーブルー系が、このスタイルにはダントツに似合う。また、生地についてもウールサージ(同じ太さのタテ糸とヨコ糸とを同じ密度で綾織りしたウール生地。約45度の斜線で生地の目が表れるのが特徴。合冬物・秋冬物のスーツや制服の生地として多く用いられる)や、写真のもののようなウール・モヘア混紡など重量感のあるものが理想だろう。

仕立てに軍服に近い「ハリ」と「コシ」が出せるからだ。なお、写真のブレザーでは胸の縫いダーツが腰ポケットで終わらず身頃の裾まで貫通しているが、これは下腹が出ている人向けに裾が跳ね上がらないよう施された、一種の補正である。

2. カレッジスポーツが起源。シングルブレステッドのブレザー

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一方シングルブレステッドのブレザーは、ロンドン中心を流れるテムズ川で1877年に開かれたオックスフォード大学とケンブリッジ大学との対抗レガッタ(ボート競技)で初お目見えする。

後者のセントジョーンズカレッジに現存するレディ・マーガレット・ボートクラブの面々が、クラブカラーの燃えるような真紅(Blaze)のジャケットを羽織ったのが起源。単に所属先を示すだけでなく、試合前後に身体を温めるウィンドブレーカー的な役割も考慮して身に着けていた、言わば記号と機能が両立した服だったのだ。

ブレザーで英国テイストを全面に出したいのであれば、そんな起源を是非とも尊重すべき。例えば写真のブレザーの右腰にあるチケットポケットなどを上手く用いたい。かつて存在した有料馬道の料金所で払うお金や受け取るチケットを入れたものが起源で、くびれの利いたシェイプと共に高貴さと運動性との両立の象徴だからである。

なお、このブレザーは脇部のダーツがアームホールまで届いていない。モーニングや燕尾服を起源とする古典的なディテールであり、胸部に独特なボリュームが出ている。

3. 独自のアレンジと懐かしさ。アメリカントラッドなブレザー

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ブレザーが米国に伝わったのは20世紀初頭~1920年代初め。以来、腰のパッチポケットにフラップが追加され、後身頃にセンターヴェントが付く(当時の英国では、街中で着るジャケットはスーツを含めてノーヴェントが圧倒的主流)など、故郷とは異なる変化を遂げ、同国ではビジネス・カジュアルをまたぐ一種の国民服的な存在までになった。

ただし、胸の縫いダーツが付かないボックスシルエットである点には、逆にブレザーの更なる原点であるラウンジジャケットの意匠が何気に残っている。第二次大戦後の服飾受容史も絡んで、我が国でブレザーと言えばこの写真のようなもの、すなわちアメリカントラッド・IVY(アイビー)的なものをイメージする方がまだまだ多い。それのみならず、今日の日本の学生服の主流になったブレザー姿の基本も、英国系のものではなく間違いなくこちらのスタイル。

だからであろうか、この種のブレザーを身に着けると「若さ」ではなく「幼さ」が前に出てしまうこともままある。自らの所属先のものでない限りは、胸ポケットにエンブレムなど絶対に付けないように!

4. 実はブレザーの原点が色濃く残る、スクールジャケット

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この「スクールジャケット」なる言葉は恐らく和製英語で、厳密にはスクールユニフォームとかクラブユニフォームと言うべきもの。その名の通り、英国並びにその文化的影響を強く受けた諸国の学校やクラブの、要は制服である。

彼らの旗の色を縦ストライプとして用いたり、襟の縁にパイピングとして採用するのが最大の特徴。また、この写真のもののように後身頃の背中心部に縫い目がない「一枚仕立て」であると共に、少なくとも身頃には裏地を用いない「単衣仕様」のものが本格的とされる。

どちらの構造も、胸と腰のパッチポケットと共にシングルブレステッドのブレザーが登場した1870年代のラウンジジャケットでは広く採用されていたもので、その意味ではブレザーの原点に最も近い服と言える。中には袖裏地すら付かない簡素な構造のものもあり、これは成長期の学生が着る故の確信犯的発想だ。

それにしても、日本の学生服もこの位派手な色使いにしたほうが効果的なのではないか? 思いっきり目立ってしまう分、校外で遊ぶ時でもカッコ良く振舞おうとするだろうし……。

ブレザーをかっこよく着ることのできる大人に。

その種類はともかく、ブレザーのベースになっているのは、ある種のユニフォーム的な概念であることをご理解いただけたのではないか。また、そこに内包された「規範性」が、ビジネスウェアとしての今日の再評価にも繋がったのだろう。

だからこそ、ブレザーをカッコよく着られる大人がもっと多くならないと、制服としてそれを無理やり押し着せられてしまっている学生達に申し訳が付かない気がする。「近頃の若いもんは……」と嘆く前に、まず自らがブレザーを品良く身に着けるのを通じ、社会の規範となる立ち振る舞いを明確に示さなくてはいけないのではないか?

ーおわりー

クラシッククロージングを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

紳士服を極めるために是非読みたい! 服飾ジャーナリスト・飯野高広氏の渾身の1冊。

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紳士服を嗜む 身体と心に合う一着を選ぶ

服飾ジャーナリスト・飯野高広氏の著書、第二弾。飯野氏が6年もの歳月をかけて完成させたという本作は、スーツスタイルをはじめとしたフォーマルな装いについて、基本編から応用編に至るまで飯野氏の膨大な知識がギュギュギュっと凝縮された読み応えのある一冊。まずは自分の体(骨格)を知るところに始まり、スーツを更生するパーツ名称、素材、出来上がるまでの製法、スーツの歴史やお手入れの方法まで。文化的な内容から実用的な内容まで幅広く網羅しながらも、どのページも飯野氏による深い知識と見解が感じられる濃度の濃い仕上がり。紳士の装いを極めたいならば是非持っておきたい一冊だ。

日本がアメリカンスタイルを救った物語

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AMETORA(アメトラ) 日本がアメリカンスタイルを救った物語 日本人はどのようにメンズファッション文化を創造したのか?

<対象>
日本のファッションを理解したい服飾関係者向け

<学べる内容>
日本のファッション文化史

アメリカで話題を呼んだ書籍『Ametora: How Japan Saved American Style』の翻訳版。アイビーがなぜ日本に根付いたのか、なぜジーンズが日本で流行ったのかなど日本が経てきたファッションの歴史を紐解く一冊。流行ったという歴史をたどるだけではなく、その背景、例えば洋服を売る企業側の戦略も取り上げられており、具体的で考察も深い。参考文献の多さからも察することができるように、著者が数々の文献を読み解き、しっかりとインタビューを行ってきたことが推察できる内容。日本のファッション文化史を理解するならこの本をまず進めるであろう、歴史に残る名著。

【目次】
イントロダクション 東京オリンピック前夜の銀座で起こった奇妙な事件
第1章 スタイルなき国、ニッポン
第2章 アイビー教――石津謙介の教え
第3章 アイビーを人民に――VANの戦略
第4章 ジーンズ革命――日本人にデニムを売るには?
第5章 アメリカのカタログ化――ファッション・メディアの確立
第6章 くたばれ! ヤンキース――山崎眞行とフィフティーズ
第7章 新興成金――プレッピー、DC、シブカジ
第8章 原宿からいたるところへ――ヒロシとNIGOの世界進出
第9章 ビンテージとレプリカ――古着店と日本産ジーンズの台頭
第10章 アメトラを輸出する――独自のアメリカーナをつくった国

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公開日:2017年6月24日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

終わりに

飯野 高広_image

気付いたら、紺無地に金のメタルボタンが付いたブレザーを、微妙に異なる様々なスタイルで(と言っても全てトラディショナルなものばかりだが……)10数着持ってしまっている。どんな服を合わせてもなんとかサマになってしまうのが、恐らくこの服の最強の魅力なのだろう。だからこそ惰性で身に着けないようにしないと!

  

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