スバル360 、ポルシェ356、トヨタ2000GT。幼いころから現在に至るまで、ミニカーとともに人生を過ごしてきたHiro Wildman 石井さんに、いつまでも惹きつけられてやまないその魅力を語ってもらった。
小学5年生の男の子の前に広がった、奥深きミニカーの世界。
石井さんが初めてミニカーを手に入れたのは、小学5年生の頃。祖母に連れられて入った玩具店で、ミニカーと同時に手に入れた小冊子が、石井さんの眼に留まった。
「もともと幼稚園の頃から一番好きなオモチャといえば車だったのですが、コレクションとしてのミニカーを初めて手に入れたのは小学5年生の頃になります。祖母にミニカーを買ってもらった際、一緒に玩具店からもらった「月刊ミニチュア・カー」という小冊子が、この世界に深くのめりこむきっかけとなりました」
「月刊ミニチュア・カー」は日本ミニチュア・カー・クラブ発行のミニカー情報誌。1990年代まで発行されていた。20数ページの紙面には、最新モデルの紹介や読者のミニカー交換ページなど、愛好家のための情報が満載。
「月刊ミニチュア・カー」を読んだことで、石井さんのミニカーに対する認識は大きく変わったという。
「それまでは世間同様、ミニカーは子どものおもちゃというイメージでした。しかし小冊子を読み進めるうちに、これほどまでにこだわって集めるものなのかと感動してしまったんですよね。紙面にはミニカーを多く扱っている玩具店の広告なども載っており、それを見て実際にショップへ足を運ぶわけです。そうすると、背広を着た大人が真顔でミニカーを見つめている。これはすごい世界だぞ、と一気に惹かれていきました」
解説:ミニカーとは?
ミニカーの呼称は、「ミニチュア・カー」を略した和製英語。自動車の普及とともに製造されるようになり、一説には1915年につくられたフォード社製の車を模したものが世界で最初のミニカーとされる。日本で最初に発売されたのは、1959年に旭玩具製作所からリリースされた「モデルペット」。一般に知名度の高いトミー製の(現タカラトミー)「トミカ」は1970年の発売。子供向けの玩具として製造されてきたミニカーだが、現在では大人のコレクターズ・アイテムとしても人気を博しており、老若男女を問わず身近なアイテムとして親しまれている。
国産第一号ミニカー「モデルペット トヨペット・クラウン」数種類のカラーバリエーションが存在。レアカラーは高値で取引されている。
手づくり感の感じられる、ヴィンテージ・ミニカーに夢中に。
ミニカーの世界へのめりこんでいった石井さん。学生時代だけでもそのコレクションは数百台にのぼったというが、どういったこだわりを持って収集しているのだろうか。
「基本的には、モデルとなっている車種と、ミニカーの製造時期がリンクしているもの。現代に復刻されたものではなく、あくまで「当時モノ」を集めています。これはずっと変わりませんね。年代でいえば、大体1950年代から70年代中盤まででしょうか。当時の最新モデルと同じ空気でつくられたミニカーは、手づくり感があって非常にユニークです」
フォルクスワーゲン・ ビートルでの比較。右の日本製「大盛屋 ミクロペット」は、材質に鉛とアンチモンの合金であるアンチモニーが採用されており、重厚感漂う仕上がりとなっている。左は日本で手に入れることはほぼ不可能だという、アルゼンチンのメーカー、Buby(ブービー)のもの。
「現在のミニカーは細部まで精密に作られており、出来はいいですが、モノとしての面白みは薄まっているように私は感じます。当時のモノは、実車の図面をそのまま落とし込んだようなものではなく、ボディの曲線にしても製作者の意図が感じられる。アナログ感のあるパッケージデザインもそうですが、イタリア製のミニカーはイタリアのつくり、フランスならフランスといった具合に、つくられた国ごとに色が感じられるのも大きな魅力です」
石井さん所有のミニカーをご紹介(以下、全て1/43スケール)
SOLIDO Porsche CarreraRS (ソリド ポルシェ カレラRS)
74年に発売された、フランスSOLIDO社製のもの。トミカやマッチボックスが200円程度の時代に、定価1,500円で流通しており、当時は高級玩具だった。石井さんが小学5年生の頃に入手した、コレクションとしての記念すべき第1台目。
大盛屋MICROPET SUBARU360(ミクロペット スバル360)
材質にアンチモニーを採用し、少量生産された人気の高い1台。石井さんの父がかつて乗っていた車だという事もあり、昔から思い入れがあった。1998年に20数年越しで入手。現在箱付きで手に入れようと思うと「とんでもない努力」が必要とのこと。
ZEBRA TOYS HEINKEL(ゼブラトイズ ハインケル)
ゼブラトイズはイギリスのメーカー。三輪のドイツ車・ハインケルをユニークに再現。中学生の頃店頭で見て以来、憧れの的だった。2004年に某テレビ番組で募集をかけても残念ながら反応がなく、2006年にインターネット経由でやっと手に入れたという、思い入れの強い1台。
Tekno PORSCHE 356(テクノ ポルシェ356)
実車を超えているのではないか、と思わせるほど優美なテールの曲線が、ポルシェ356の雰囲気を醸し出している1台。内装もないチープなつくりだが、これもまたヴィンテージ・ミニカーの魅力のひとつ。デンマーク製。
MEBETOYS TOYOTA 2000GT(メーベトイズ トヨタ2000GT)
カーファンの間では言わずと知れた名車「トヨタ2000GT」。特徴であるロングノーズ・ショートデッキを若干デフォルメしながらも、魅力的に描いている。実車同様に可動部が設けられているなど、愛好家の間では1960年代につくられた同車のミニカーの中で、一番出来がよいものとして評価が高い。石井さんは計9台所有。イタリア製。
POLITOYS Lamborghini Miura(ポリトーイズ ランボルギーニミウラ)
イタリアの後発メーカー、ポリトーイズ社製の1台。箱に「SIX OPENING」の文字が書かれているように、細部まで可動できる仕掛けが施されている。製作者の遊び心が光る。
1台1台から感じられる、いい意味での「アバウト」さ。
今では3000台以上のヴィンテージ・ミニカーを所有する石井さんだが、保存についてはどのように考えているのだろうか。
「ミニカーごとに個体差がありますので一概にはいえませんが、頃合いを見てタイヤを転がしたり、車用の弱いワックスを塗るなどしてメンテナンスをしています。ただ置いておくだけでもタイヤのゴムがつぶれてしまったり、溶けてしまったりするものなので、コンディションの変化もチェックできるよう、できるだけ箱の中にしまわず、ディスプレイするようにしています」
積み上げられた箱も、中身は空のものがほとんどだ。
最後に、改めてヴィンテージ・ミニカーの魅力について語っていただいた。
「当時はミニカーを製作する段階で、メーカーから図面が支給されたものもあれば、写真しかなく、設計者がイメージを膨らませながらつくったものもあると思います。そういった意味で、モノによってはかなり適当なんですよね(笑)。ただ、そこには車をカッコよく、あるいはユニークに捉えようとする作り手の想いが込められているように思います」
「実車においても同じように、当時の車は現代に比べれば燃費も悪く、設計の部分で合理的でない箇所があるかもしれません。しかし、どこか愛らしさがあって未だに人々を惹きつけています。私がこの時代のミニカーに惹かれるのは、いい意味でのアバウトさがあるから。各メーカーが切磋琢磨し、よりよいモノを生み出そうとしていた当時の熱が、伝わってくるように感じます」
コレクションルームにはこんな珍品も。
「昨今はインターネットの普及もあり、昔のようにワクワクしながら足を使って店舗へ足を運ぶ機会は少なくなりました。さみしい想いもありますが、まだ私のミニカーに対するモチベーションは尽きません。これからも温かみのある「愛車たち」との時間を楽しんでいければと思います」
ミニカーが子どものオモチャでしかなかった時代から、大人の趣味として認知されるまでの時代を、数々の愛車とともに歩んできた石井さん。
まるで博物館のようなコレクションルームには、ミニカーを愛する石井さんと製作者の想いがたくさん詰まっていた。
―おわり―
トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
ミニカーの歴史を写真とともに辿る
人気ミニカー・ブランド、TLVの歴史を徹底解説
トミカリミテッドヴィンテージ大全2019【綴込付録:ポスター】 (NEKO MOOK)
いつかのどこかを、いつまでも。
「もしもトミカが昭和30年代に登場していたら…」というテーマで、
2004年にシリーズが誕生したトミカリミテッド ヴィンテージ(TLV)。
我々の身近にあるクルマをミニカー化していこうという基本姿勢はそのままに、
ラインナップはより深みと広がりを増して、もはや"立体自動車図鑑"といった趣(おもむき)だ。
本書では、5年前の『トミカリミテッド ヴィンテージ完全読本』の後を受け、
その後5年前(2014年3月から2019年2月)の足跡を追うとともに、開始以来の歩みを概観してみた。
終わりに
私が取材前に持っていたミニカーのイメージは、幼少の頃そばにあったトミカの救急車やショベルカーなどの「はたらくくるま」。今回の取材で伺ったのは、トミカが市場を席巻する前のお話であり、世界中のメーカーが、趣向を凝らしてミニカーを製造していたエピソードは新鮮でした。中でも実際に持たせていただいた、ミクロペットの重量感、倒産してしまった大盛屋の件は強く印象に残っています。