愛用しているアイテムとは、できれば長く付き合っていきたいもの。当連載では、大切に使い続けるためのお手入れのコツ、修理のときの駆け込み先などをご紹介します。今回は、街乗りが楽しくなる自転車を追求し、日々のメンテナンスに関する講座も行っている「tokyobike」でお手入れのポイントを聞いてきました。
乗ってケアして愛着増す。自転車ライフを全面的にフォロー
飲食店、古着屋、ライブハウスなどが賑やかに立ち並ぶ街、高円寺。そんな一角に「tokyobike shop 高円寺」はある。「tokyobike」とは2002年に誕生したブランドで、コンセプトは「信号や坂道の多い東京を気持ちよく走れる自転車」だ。
スタッフの太田裕介さんは「tokyobike」の自転車が好きなあまり、大学卒業後の就職先に同社を選んだという人物。
「tokyobike直営店では販売だけではなくアフターケアにも力を入れています。修理もする他、お客様自身でできるお手入れやパンク修理の講座も定期的に実施していますよ。参加者は意外にも女性が多く、『自転車への愛着が増した』『できないことができた達成感がある』などの声が聞かれますね」
「tokyobike」の自転車は街の風景や空気の匂いを感じることができるよう、一からフレームをデザインし、使用するパーツを吟味している。さらに定期的なケアを行えば、乗り心地は快適なままで自転車ライフも一層楽しくなるという考え方だ。
「自転車もやはり乗り物。良い状態に保つことで長持ちもするし、乗ったときの一体感が増して疲れを感じにくくなります。僕は20kmくらいまでの買い物なら自転車で出かけています(笑)」
「tokyobike」の価格帯は3万9000円〜6万8000円。生活スタイルや環境に応じて、カゴやハンドル、サドルなどのカスタマイズが可能。まさに、自分だけの1台になるわけだ。
自転車は車やバイク以上に繊細なメンテナンスが必要な乗り物だという。メンテナンスのおもなポイントは「タイヤチェック」「雨に濡れたときのメンテナンス」「日々の汚れを落とす」「オイルを差す」の4点。
特別な工具は必要ない、日々できるメンテナンスにフォーカスして紹介する。
なお、「tokyobike」で取り扱う自転車は車輪が細いタイプの「スポーツバイク」。これから教えてもらうお手入れ方法と頻度は、この「スポーツバイク」向けの説明となる。では、さっそく具体的な実践方法を見てみよう。
《メンテナンス》タイヤの寿命を左右する。常に気にかけたいタイヤチェック。
「タイヤの不調はすぐにパンクにつながるので、常に気にかけてほしいですね。じつは僕も最近帰宅途中にパンクしてしまって、よく見るとガラス片が刺さっていました」
ガラス片が刺さっていないか、空気が抜けていないか。タイヤを長持ちさせるためには日々のこまめなチェックが欠かせない!
タイヤチェックも習慣になればなんてことはない。
まず、前輪のタイヤは信号待ちなどで地面から浮かせてガラスの破片などが刺さっている場所がないかを目視でチェックする。後輪は家で時間のあるときに確認する。
スポーツバイクは2週間程度でタイヤの空気が抜けてくるため、その頻度で正常な空気圧まで戻す。これを怠ると段差などでパンクすることもあるという。空気がどれくらい入っているのかが目視できる工具もあるが、無い場合は少なくともタイヤを指で押して凹まない程度には入れよう。
《メンテナンス》サビを軽減!雨に濡れた翌日にやっておきたい水抜き。
雨に濡れたままにしておくとサビが進む。これを防ぐためには、できるだけ早めに水分を取り除くことが必要だ。
水分はサドルやフレームの接合部から侵入する。そのため、まず車体を持ち上げてから落として水分を払う。こうすることでサドル下に4カ所ある「水抜き穴」から車体内にたまった水分が外に出るのだ。
「次にブレーキの可動部分を雑巾などでていねいに拭きます。チェーンは1周させながら水分を拭き取りますが、同時に油分も取れるのでオイルを注しておきましょう。僕は雨の日でも乗りますが、こうしたケアを毎回しています。そのせいもあって2年間乗ってもいまだにサビ知らずですよ」
スプロケット(チェーンフレーム)付近、ペダル付近のフレームをよくよく確認してみると、小さな水抜き穴が発見できる。
車体を地面から10センチほど持ち上げて……車体を落として、その振動で水抜き穴から水が抜けていく。その後、濡れた車体を拭いていこう! 拭き方は次にご紹介する。
《メンテナンス》意外に汚れてる⁉︎ 日々の汚れを落とすための自転車の拭き方。
水分と同様、汚れも上から下という順に拭き取るのが基本。
- 1)ハンドルバーを乾拭きする
- 2)サドル
- 3)シートポスト(サドル支柱)を拭く
- 4)フレームは上部→前部→斜め下→後ろ斜め下→後部の三角形の部分→前輪のフォーク
- 5)ペダルのアーム
- 6)ホイール (ハブ/スポーク/リム)
- 7)スタンド
- 8)チェーン
「サドルは小さな砂粒がはねる後ろ側を見逃しがち。ホイールは空気を入れるバルブをスタート地点にすると終わりがわかりやすいです」
また、最後にチェーンの油注しもお忘れなく。
1)ハンドルバー 目立つパーツなので常に綺麗に磨き上げたいところ
2)サドル 特に裏側は埃がたまりやすい場所なのでしっかり拭こう。
3)シートポスト 車体へ水分が侵入しないよう雨の日の後は要注意
4)フレーム
5)ペダルアーム
6)ホイール ハブ(ホイールの中心軸)も見落としがちなポイント。
6)ホイール スポーク(放射線に伸びている部分)も一本一本丁寧に。
6)ホイール リム(車輪側面のホーイル部分)は空気入れのところから拭き始めると目印になってわかりやすい。
8)チェーン 上下左右に2度チェーンを挟んで回し拭こう。
拭き終わると油汚れがしっかり。これで車体は拭き終わり!
《メンテナンス》ひとさしで走行なめらか。オイルのさし方。
「このケアは季節の変わり目に行うぐらいで十分。差すべき場所は①チェーン、②ブレーキ本体、③変速機です」
と太田さん。注すオイルの量はほんのちょっとだが、ブレーキの効きやペダル走行が滑らかになるとのこと。これは是非試してみたい。
さらに店舗ではグリスで鉄とアルミの保着防止ケアを行うが、これは初心者にはやや難しいとのことなので、専門のスタッフに依頼するのがよさそうだ。
「tokyobike」ではスポイト式のオリジナルメンテナンスオイル(1512円)を使用している。保ちがよく耐久性が高いサラサラタイプだ。また、スプレー式のオイルは余計なところまで拡散してしまうが、このスポイト式はピンポイントで差せるのがポイント。
①チェーンはスプロケット(チェーンホイール)の歯が当たる内側すべてに注す。その後ウエスで30周ほど回しながら拭き、全体になじませ余分な油をとる。
ブレーキ本体とはタイヤを挟む可動部分のことで、油はバネの付け根の3カ所にさしていく。
こちらは7段変速タイプの変速機。まず、小さい歯車部分2カ所にオイルを注し、続いて外装と内装の関節にさす。あとは先述のチェーン同様、スプロケットすべてにオイルを注し、スタンドに乗せて5分ほど漕ぐことで全体になじませれば完了。
《修理》修理時のサインを要チェック。初心者でもできるタイヤ交換。
タイヤは徐々にすり減り、劣化してして硬くなる。スポーツバイクのタイヤの寿命は2〜3年だという。では、交換するタイミングを見極めるポイントは何だろう。
「タイヤを見てください。表面がすり減ってくると八の字の溝の先端部分が薄くなります。また、サイドのひび割れも危険信号。『ケーシング』と呼ばれる内側のオレンジ色の繊維が露出してきたら完全にアウトです」
タイヤ交換には「タイヤレバー」というへらのような道具を使用する。ちなみに、前輪が10秒程度で外せるのに対し、後輪はまずチェーンを外す必要があるため大変なのだ。
作業の際はブレーキ本体の開放レバーを開くと、タイヤに空気が入ったままでも外しやすくなる。次に、「タイヤレバー」をタイヤとフレームの間に差し込み、すぐ脇から2本目も差し込む。これを1周行うとタイヤとチューブが分離する。
ーおわりー
タイヤのひび割れ部分からオレンジ色の繊維が見えるだろうか。
こちらがタイヤ交換に使うタイヤレバー(540円)
お手入れ&修理講座も定期的に開催! tokyobike shop 高円寺店(吉祥寺へ移転)
「信号や坂道の多い東京を気持ちよく走れる自転車」をコンセプトに2002年に誕生したtokyobike。直営店舗は谷中、中目黒、高円寺にあり、2013年にオープンした高円寺店には美味しいコーヒーを提供する「COFFEE タンデム」が併設されている。
太田さんいわく、「販売・修理はもちろん、店内ではカラーフレームを全色展示し、すべて試乗できます。日々の生活の中で、服、音楽、雑貨を選ぶのと同じ感覚で、自分にぴったりの1台を探してほしいですね」。
東京都武蔵野市吉祥寺本町2−35−10
営業時間:平日 12:00~19:00 / 土日祝 11:00~19:00
定休日:火・水・木
※Tokyobike Shop 高円寺は2020年3月15日をもって閉店し、吉祥寺に移転しました。
ライフツールを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍
21世紀にふさわしいスポーツ、自転車の楽しみ方を、達人たちが懇切丁寧に紹介
大人のための自転車入門 (日経ビジネス人文庫)
中高年の間で、スポーツタイプの自転車に乗る人が増えている。自分の力だけで100kmかなたまで行く達成感。しかも健康の維持に役立ち環境にも優しい。21世紀にふさわしいスポーツ、自転車の楽しみ方を徹底紹介。
自転車の正しい乗り方、知っていますか?
自転車の教科書
日本初の自転車教則本!
あなたは自転車の「正しい乗り方」を知っていますか。誰もが乗れる簡単な乗り物と思われている自転車ですが、乗り方次第で、体を壊す凶器になることもあるのです。逆に正しく乗れば、姿勢もよくなる、強い心臓がつくれる、無理なく筋トレにもなる、いいことずくめの乗り物です。本書は、ママチャリからMTB、ロードバイクまで、全ての自転車乗りのための、日本で最初の教科書です。
著者は、日本で唯一の常設自転車学校「やまめの学校」を安曇野で開設する、プロライダーです。著者の提唱する「やまめ乗り」は、従来の常識を覆す「より楽に、より速く、より安全な」乗り方として自転車マスコミで話題騒然。意外と知られていない「自転車の正しい乗り方」を豊富なイラストとともに分かりやすく解説しています。
終わりに
恥ずかしながら、僕が3年ほど乗っている自転車は完全にノーケア。車体はサビだらけで、パンクするたびに近所の自転車店のお世話になっている。しかし今回、太田さんの自転車愛とメンテナンステクに触れて背筋が伸びた。これからは愛車をやさしく見守りつつ、一体となって街を駆け抜けたいと思います。