「お前はなんという象じゃ?」 「象彦と申します」
季節でお椀の衣替えをすることがあります。吸物椀は比較的種類があるのですが、煮物に関しては手持ちのものであまり気に入ったものがありませんでした。 そんな折、ちょっと心惹かれるお椀に遭遇しました。京都の『象彦』のものです。外は地味、中は華麗というのが私の理想でしたが、この椀はまさに「ど真ん中ストライク」でした。 ご存知の方も多いと思いますが、上は京都の象彦の印です。象彦の歴史は下記のHPで大変詳しく説明されています。 象彦の歴史 | 京漆匠 象彦 - Zohiko Urushi Art - 基本的には私の椀物は輪島が多いのですが、京都のお椀で気に入ったものに遭遇するのは大変珍しい事でした。 上がその煮物椀です。直径は15㎝弱の堂々とした大きさです。外からは黒塗りで中はほとんど分かりません。椀自体は身の部分は胴が張った気品ある器胎です。 上から見ても隙間からわずかに橙色が見えるのみです。 蓋を開けるとこんな感じです。朱、黄、緑の三色の模様が描かれています。模様は身の部分だけでなく、蓋裏にも同じ模様が付けられています。 予備を考えるともう二三客欲しいのですが、全部で五客しかありませんでした。 手描きの模様なので五客すべて模様が微妙に違います。かなり面倒な蒔絵模様です。 蓋の真塗もきれいで、研ぎの技術も高いです。 なにより嬉しいのは模様に華奢な感じがないことでした。私が輪島の椀が好きなのは豪快さが感じられるからですが、京出来の椀でこのようなものに出会えたのは幸運でした。 漆の下にうっすら木目が見えます。柾目の良い材を使っていることが分かります。 蒔絵の失敗の許されない中、職人さんは素晴らしい仕事をしていると思います。湯焼けのように茶色がかって見えますが、もともとの色合いです。 艶は消された感じですが、滑らかで美しい蒔絵でとても気に入っています。 遠目には銀捲きのようにも見えます。仕事の技術、手間暇を考えると明治末から大正頃の作品ではないでしょうか。 中央の丸い部分の直径は13ミリです。手で正確な模様を繰り返す技術、根気には頭が下がります。素晴らしい技術だと思います。 蒔絵だけでなく彫りによる凹凸があるのも分かります。金粉を播いているようです。 拡大してみますと、手描きであることがはっきりわかります。 高台内には象彦の印が。これからどんな料理を盛ろうかを考えると楽しみです。 象彦 蒔絵煮物椀 https://muuseo.com/shinshin3/items/361 グリーン参る