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『他人の穴の中で』付録『俺より他に神はなし』唄・平岡正明
クシシュトフ・キェシロフスキーの「デカローグ」の1は「俺より他に神はなし」という十戒のひとつを寓話化し、AI文明を妄信する者が神に罰せられる末路を描いていましたが、この一神教絶対宣言である暴虐の決定論が小気味良いですね。日本人の汎神論とは仲良くできないかな、やっぱりな。
そのフレーズをそのままタイトルとし作詞をしたのが、日蓮宗僧侶の上杉清文。歌うは革命三羽烏の一人、平岡正明その人。
私事にわたり恐縮ですがまさに人生を変えた曲のひとつです。この曲の歌詞の一部を読んだのは「ニューミュージックマガジン」誌の書評だったか、衝撃でした。1981年頃の話です。
風はひとりで吹きゃしねえ/風を吹かせる奴がいる/とかくこの世は駆け引きで/正義が勝つとは限らねえ/ひとが泣こうがくたばろうが/俺がよければすべてよし/俺より他に神はなし
このソノシートを目当てに「他人の穴の中で」を買い、歌詞カードを手に入れ、我流でこの曲に触発された「俺が居る」を作曲し録音、三上寛がレパートリーとしてアルバム化し、それから幾星霜を経て今の自分に至るわけで、遡ればすべて平岡氏の歌うこの曲に尽きるのです。
非常にチープな伴奏にのせて歌われるこの曲ですが、まさに耳で聴く平岡節そのもの。氏の硬質な文体がもつハードボイルドかつニヒリスティックな肌合いをそのまま歌にしたような歌詞。これは野坂昭如楽曲における桜井順の、ドアーズにおけるロービィ・クリューガーの功績に等しい。歌い手と作詞者の見事な一体化。
かつて「俺が居る」の文底には反天皇制があると評した人もいましたが、その源流は当然この一曲に還元されていきます。個の持つ絶対性。それをこの日本人社会で声高に歌う行為のラジカリストぶり、とでもいいましょうか。
三上バージョンがリリースされる前に、平岡氏本人に認知された曲とはいえ所詮「俺が居る」は氏の書名の通り「他人の穴の中で」生まれた傀儡のイカサマ曲であります。