ディースカウとムーアのシューベルト冬の旅

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フィッシャー=ディースカウは、シューベルトの『歌曲集 冬の旅』を公式録音だけでも7種類録音していますが、この70年代初頭のジェラルド・ムーアとの演奏はその中でも代表と言えるものでしょう。1979年にバレンボイムとも録音しており、甲乙つけがたい良さがそれぞれにありますが、ほとんど好みの差ぐらいに思えます。
録音時、フィッシャー=ディースカウも40代半ばでしたし、ヴィルヘルム・ミュラーの詩の世界を見事に捉えた精神性の深い演奏でした。ピアノのムーアとは、このアルバム以外にも数多くリートでコンビを組んでおり、それぞれ定評のある演奏だと高く評価されています。

ビロードような声質のバリトンと言われ、稀に見る天性の美声です。全曲を通して、音と音とのつなぎ目が実に滑らかなレガートを基本とした歌い方でした。歌詞の発音も丁寧で、詩に込められた思いを伝える表現力も高く、流石にドイツ・リートの第1人者の演奏と言えるでしょう。青春期特有の深い苦悩が伝わってきました。
恋に破れた孤独な旅にでる、失意の青年の心境を綴ったこの一連の歌曲集には、第5曲目の「菩提樹」のような有名な曲も含まれていますので、ドイツ・リートの魅力を堪能してください。

ハンス・ホッターによる『冬の旅』もいいですが、フィッシャー=ディースカウの歌唱はその定番にあたります。93年に引退するまで多くの素晴らしい録音を残していますが、ここでは声の調子もよく、曲によって声も表現方法も歌い分ける技巧の素晴らしさを披露していますので。

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