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Onnia superba
チェコの三葉虫、オンニア・スペルバ (Onnia superba) です。 モロッコ産の印象が強い種ですが、チェコでも産出します。 他に、オンニアのタイプ標本としてイギリスなどからも産するようです。 本標本の産地の、オルドビス紀後期のボーダレック層からは、大量の本種が産出します。 その殆どがカケラ〜断片ですが、この標本では、二体のスペルバの頭部が美しく残っております。 頭鞍後部の棘や、本種に特徴的な鍔状の頭部辺縁の小穴も、肉眼でカウントできるほど保存状態が良好であります。 他の同産地の断片標本でも、高密度で二体以上の標本が犇いているようなので、モロッコ産同様、群れで固まって暮らすことが多かった種なんだろうと思われます。 かつては程々に見かけたモロッコの類似種自体、最近市場で見かけることが非常に少なくなっております。 そういう事情もあり、中々貴重なサンプルと言えそうです。
Upper Ordovician (Katian) Bohdalec east, from the excavation of subway D., Prague, Czech Republic Onnia superbatrilobite.person (orm)
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Bathyuriscus fimbriatus
ユタのマージャム (Marjum) 累層より、バチウリスクス・フィンブリアトゥス (Bathyuriscus fimbriatus) です。 ぺらぺらの三葉虫で、母岩と同化しかかっています。薄いカンブリア紀の三葉虫の中でも、とりわけ厚みのない種であるように思います。最も保存状態の良い標本を参照すると、一応はもう少し体高はあったようです。最も、それにしてもオレネルスなみの薄さではあります。 薄さが幸いしてか、体の構造物が模様のようによくわかります。特に、頭部のGenal caecaと思われる波打ち構造がはっきりと見えて興味深いです (写真5枚目など) 。 先に挙げたO. gilberti同様、「昔はありふれていたが今は市場からほぼ消えた種シリーズ」でもあります。特にこの標本は自由頬が残っており、当時からこのような標本は少なめでありました。
Middle Cambrian Marjum House range, Utah, USA Bathyuriscus fimbriatustrilobite.person (orm)
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Olenellus gilberti
ネバダのピオーチェ (Pioche) 頁岩層より、オレネルス・ギルベルティ (Olenellus gilberti) です。 アメリカで最もありふれたオレネルスであります。他の類似種との鑑別は、頭鞍がほぼ円形であること、頭鞍と頭部先端縁の距離が非常に近く、1-2mm程度しか離れていないことが、最も簡易な見分けポイントとなるかと思います。本種と一見酷似した種でも、前記の2点間の距離が大きく離れている (O. clarki、O. nevadensisなど) か、完全にくっついている〜頭鞍が頭部の先端を乗り越えている (特にO. fremonti / M. fremonti) かを確認する事で、比較的容易に区別することが可能です。 昔は普通に市場で見る種でしたが、三葉虫化石が欠乏気味の近年では、本種すらほぼ見かけなくなってしまいました。中でもこの標本は、本体部45mm、尾棘含めて65mmと、この種にしては相当巨大で、手前味噌ですが、中々貴重な標本かと思います。
Lower Cambrian Pioche Shale Lincoln county, Nevada, USA Olenellus gilbertitrilobite.person (orm)
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Family Phacopidae
英国のシュロップシャー、マッチウェンロック累層より産出したシルル紀のファコプス類です。ご覧の通り、地層褶曲による変形が激しく、かつ外殻も大方剥げてしまっていて、標本としてはあまり美しくはない個体です。 7年半ほど前に購入した標本であります。長年何の種なのか同定できなかった事、それから、購入時に「かのチャールズ・ダーウィンの生家より数マイルの産地より蒐集」などと気になる文句と共に売り出されており、そういう謎標本には弱い私の手元に、放出されず残ったままになっております。 売り手はPhacops caudatusの名称で販売しておりました。ただ、この名は今日 (こんにち) ではDalmanites caudatusなどの旧名を指すことが多いと思いますので、正確ではないと思われます。 こちら (https://muuseo.com/trilobite.person/diaries/2) で謎のファコプスとして取り上げ、同定を頑張ろうとした種なのですが、あれこれ調べるも結局わかりませんでした。 当初は、この辺りでは普通種のAcaste downingaeか、Eophacops musheniのどちらかだろうと軽く考えていたのですが、複眼の数等参照するに、どちらも違いそうです。 謎のファコプスのまま、更にしばらく置いておきます。
Silurian, Wenlock series / Epoch Much Wenlock Limestone Shropshire,England,UK Family Phacopidaetrilobite.person (orm)
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Orygmaspis doriansmithi
カナダ、マッケイ (McKay) のオリグマスピス・ドリアンスミシ (Orygmaspis doriansmithi) です。 マッケイのオリグマスピスには、O. jenkinsi、O. calvilimbata、O. spinulaなどのような棘の発達した派手な種類と、O. contractaに代表される地味な種類がおりますが、本種はO. contractaと並びおとなしい印象の種です。市場では比較的稀なオリグマスピスかとも思います。 こちらは9mmとスモールサイズですが、大きければ4cm程度の個体もあるようです。本標本は小さいながらも、細部や周辺とのコントラストがしっかりしており、ルーペで覗くと中々のものです。 牛歩ですが、マッケイの標本も増えてきました。最後の写真4枚に私のマッケイ標本群全景を載せてみました (あまりに判別がつかない種はのぞきました) 。ここまで集めてなんですが、我ながら地味なコレクションだなと感じます。
Upper Cambrian (Furongian, Jiangshanian) McKay Group Cranbrook, British Columbia, Canada Orygmapis doriansmithitrilobite.person (orm)
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Gerastos ainrasifus
モロッコの三葉虫、ゲラストス・アインラシフス (Gerastos ainrasifus) の群集標本です。 モロッコのゲラストスの鑑別は、ファコプス系の鑑別以上に至難ですが、注意深く見れば、これまた様々な種に分かれていることがわかります。モロッコのゲラストスとしては、ゲラストス・ツバキュラトゥス・マロチェンシス (Gerastos tuberculatus marocensis) が最も一般的かと思います。マロチェンシスと比べると本種は全体的に細身であること、頬部に顆粒があること(マロチェンシスは顆粒なし)、頭鞍の顆粒が比較的細やかであることなどが特徴的です。 本標本はプレップの質は今ひとつでありますが、群集標本が個人的に好みですので手放さず、差し当たり手元においております。群れることも本種の特徴であると思います。 ブログに本種の鑑別法など載せています。 http://676bbs.blog.jp/archives/23355151.html http://676bbs.blog.jp/archives/23255469.html よろしければご参照ください。
Middle Devonian, Emisian - Djebel El Mrakib, Morocco Gerastos ainrasifustrilobite.person (orm)
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Morocops ovatus
モロコプス・オバトゥス (Morocops ovatus) の標本です。 モロッコでもトップスリーに入る程度にコモンな種類のファコピダであり、大抵のマニアが2-3標本目までに入手する種でもあるかと思います。かつては標本の質が全体的に良好でなかった事もあり、モロッコのファコプス類の鑑別は困難でした。しかし、近年のプレップ技術の向上と研究の成果により、かつては一様に見えた同地のファコプスにも、非常に豊かなバリエーションがあることがわかっています。 本標本も、サイズや質感が中々良く、テーブルの上に置いて眺めていると目を楽しませてくれます。 以下、拙ブログのリンクですが、本種の鑑別方法などを掲載しております。 http://676bbs.blog.jp/archives/19311663.html よろしければご参考ください。
Middle Devonian - Oufaten, Morocco Morocops ovatustrilobite.person (orm)
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Redlichia mansuyi
中国の関山生物群 (Guanshan biota) のレドリキア・マンスィ (Redlichia mansuyi) の標本です。 関山生物群は時代的には、最古の澄江より新しく、バージェスよりは古い層が中心となっており、おおよそCambrian series2のstage4に当たります。澄江や他の中国のカンブリア系の産地と並び、軟体保存にも優れた、代表的なラガシュテッテであります。 いかにも、標準的レドリキアといった形態をしております。サイズは60mmと中々の大型。尾部を欠いていますが、本来は軸葉から後方に一本の長い棘が伸びる種です。同産地の似た種に、レドリキア・マイ (Redlichia mai) などと言う種もいるようですが、どこがどう違うのか私は理解していません。 数年前までは、比較的容易に入手可能だったように記憶しておりますが、現在はこのサイズのものはかなり少なくなっています。わずか数年でこの有様かと、隔世の感があります。当時の感覚でレア度は星2としていますが、今や星3あたりが妥当なのかもしれません。
Lower Cambrian Lower Cambrian (Series2, Stage4) Near Kunming, Yunnan, China Redlichia mansuyitrilobite.person (orm)
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Neseuretus tristani
ポルトガルのヴァロンゴ累層 (Valongo Fm) のネセウレトゥス・トリスタニ (Neseuretus tristani) です。 ヴァロンゴではコモンな、比較的サイズの大きなカリメネの仲間です。本種の特徴は、頭部前方に吻のような構造がついている事ですが、この標本は褶曲の影響でペしゃんこに潰れており、わかりづらくなっております。 変形の少ない、伸びた標本が好まれるコレクター界隈でありますが、本産地の煎餅状になった標本群は、何ともひょうげていて、個人的にはこれはこれで好みであります。
Middle Ordovician Valongo Llanoeilo, Portugal Neseuretus tristanitrilobite.person (orm)
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Sinocybele cf. baoshanensis
中国バオシャンのシーシャン (Shihtian) 累層産の三葉虫、シノキベレ (Sinocybele) です。 既記載種の、シノキベレ・バオシャネンシス (Sinocybele baoshanensis) などの可能性は否定できませんが、類似の未記載種の可能性も高いと思います。 Cybeleと比較しても、横に間延びした頭部、みょうに離れた眼、比較的大きな頭鞍に、寸銅な体型をしています。ルーペで覗くと、頬部には細かいぶつぶつ構造も観察できます。7mmとスモールサイズながら、肉眼でも楽しめる標本で、形状が面白くマニア好みしそうな種です。 参考までに、7番目写真に同属別種 (Sinocymele thomasi, Wales産) のピクチャーを掲載しています。Cybele同様、本来は、長い眼軸を持つ眼がニョキっと生えていたものと思われます。ただ、他の標本も参照する限り、本種ではこの図と異なり、第6胸節からの長い棘がない気がします。 本産地 (ShihtianあるいはBaoshan) の石質は脆い事もあり、完全体で残る化石は多くないのですが、尾部がややdisarticulatedしている以外には、本種にしては満足ゆくレベルで残っております。
Ordovician Shihtian Renhe Town, Shidian County, Baoshan, Yunnan 7mmtrilobite.person (orm)
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Sinosaukia distincta
中国のサンドゥ (Sandu) 累層産のシノサウキア・ディスティンクタ (Sinosaukia distincta) です。 ほぼ全身を覆う目立った顆粒と長い頬髭が特徴的な種類であります。この標本は本体67mm、頬棘込みで75mmとかなりのサイズですが、このように大型化する個体も偶におります。8枚目の手との比較でも分かる通り、母岩も巨大でずっしりとしており、私の手持ちでは最重量級の標本の一つです。なお、見た目からはいまいちピンときませんが、新旧分類ともに、アサフス目に属するようです。 サンドゥ累層は広西チワン族自治区に位置し、ベトナムにも接する中国の辺境の産地ですが、2020年頃までは、本産地の種が比較的市場に出回っていたように思います。当時は。本種含めよく見かけたものですが、他の中国産の例に漏れず、最近はぱったりと供給が途絶えてしまいました。 Upper Cambrian産と時代的にも面白く、当時、手をつけておいて良かったなあと思う産地です。
Upper Cambrian (Furongian, Jiangshanian) Sandu Jingxi county, Guangxi Province, China Sinosaukia distinctatrilobite.person (orm)
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Ampyx linleyensis
イギリスのオルドビス紀の三葉虫、アンピクス・リンレイェンシス (Ampyx linleyensis) です。 イギリスより産出する、数多のトリヌクレウスの一種ですが、その中ではクネミドピゲ (Cnemidopyge nuda) と並び、最もコモンな種であります。クネミドピゲとそっくりですが、本種は尾部に節構造がないことが、最も簡単な鑑別点であります。 頭部先端からは、特徴的な一本の長い棘が伸びています。また、この標本では欠損していますが、ロシアの有名な同属と同様に、本来は、非常に長い頬棘を持っております。この標本だけ見ると、地味で大人しい印象を受けますが、実際は非常に優美な姿をしておりました。 ただ3本の棘が残った標本はまず見かけず、図鑑の中だけでの存在であります。
Middle Ordovician Hope shales Minsterley, Shropshire, UK Ampyx linleyensistrilobite.person (orm)
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Ductina ductifrons
ドイツの三葉虫、ダクティナ・ダクティフロンス (Ductina ductifrons) です。 市場では、このドイツ産しか見かけたことがありませんが、イギリス、ロシアのウラル地方やポーランドのHoly cross Mts. などでも産出するようです。また有名な類似種として、中国産のダクティナ・ヴェトナミカ (Ductina vietnamica) がおりますが、こちらは二回り程サイズが大きいです。 ファコプスの仲間ですが、眼は二次性に退化して無くなっており、深海環境等に適応していた種なのではないかと考えられています。地味な趣の、コレクターには人気のない三葉虫ですが、三葉虫の進化や生態を考える上では、面白い種であります。
Devonian - Oberbergisches Land, Wuppertal, Eskesberg, Germany Ductina ductifronstrilobite.person (orm)
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Calymene niagarensis with Trimerus delphinocephalus (cephalon) and Caryocrinites ornatus
有名産地ロチェスター頁岩 (Rochester Shale) から、カリメネ・ニアガレンシス(Calymene niagarensis) の標本です。 ニアガレンシスはかつては、アメリカン三葉虫の中でも、トップ5入りするほど市場に出回っていた種だそうです。しかし、私がコレクションを始めた10年近く前には既にその数はけして多くなく、今でも入手は可能ではありますが、明らかに一層著減しております。 特に、某高級化石ストアの最上級の標本ともなると、 (この種にしては) 驚くべき価格が付いています。標本に貴賎なしと言いたくも、かつてのありふれた種がこうなるとは、否が応でも時の流れを感じずにはいれません。 なんのかんのと書きましたが、黒く艶やかなボディが美しい標準的カリメネで、好きな種であります。 三葉虫は見ての通り、巨大なトリメルス・デルフィノケファルス (Trimerus delphinocephalus)の頭部と、サッカーボール然としたウミリンゴ (Caryocrinites ornatus) に挟まれており、いかにも肩身が狭そうです。特にウミリンゴの保存は素晴らしく、表面の幾何学模様がよく残っています。 あとは実は、母岩の裏にはスピリファーが何匹が付いています (写真なし) 。 主役のわからない、面白い共産プレートです。
Middle silurian Rochester Middleport, NewYork, USA Calymene niagarensistrilobite.person (orm)
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Hydrocephalus carens (?) (juvenile specimen)
チェコのJince累層産のパラドキシデスの仲間です。 27mmと小さく、第3胸節の棘が長く伸びることから、幼体〜若い個体であると思われます。自由頬が失われがちなチェコのパラドキシデスですが、若年個体の場合はそう珍しいことではないものの、両頬ともしっかりと残存しております。標本周りは削ってあり、採取が比較的古い本産地標本に特徴的なプレップである気がします。 問題の種名ですが、ヒドロケファルス・カレンス (Hydrocephalus carens) として、裏面にラベルされております。カレンスは近縁種のP. gracilis (パラドキシデス・グラキリス) やH. minor (ヒドロケファルス・ミノル) などと比較しても、産出量が非常に少ない種であります。稀に、オレンジがかった個体が市場に登場しますが、両頬なしかつdisarticulated状態の標本が大半で、全貌が把握しづらい種であります。 ただ、ラベルがなければP. gracilisの若い個体と判断してしまいそうな見た目です。カレンスの幼体を見る機会はそうなく、種同定については疑問符がつき 、差し当たり (?) としておきます。
Middle Cambrian (Wuliuan? ) Jince Jince, N Pribam, Czech republik Hydrocephalus carens (?)trilobite.person (orm)