ビュフォン博物誌 Le Coase, Le Chinche, Le Zorilla, Le Conepate 銅版画 (1792)

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 フランスの博物学者ジョルジュ=ルイ・ルクレール・ド・ビュフォン(Georges-Louis Leclerc, Comte de Buffon)による百科事典「Histoire Naturelle, generale et particuliere, avec la description du Cabinet du Roi(博物誌、王室博物館の解説による博物誌、総論および各論)」に掲載された「Mouffettes(スカンク)」4種の図です。この事典は1749年から1789年までに刊行された36巻、さらにビュフォンの没後にラセペード(Bernard Germain de Lacepede)が引継ぎ執筆した8巻を合わせて構成される大著です。スカンクについては1775年刊行の第13巻(Quadrupèdes X)に記載があります。

 アメリカ大陸に棲むスカンクがヨーロッパの博物学者の間で知れ渡って間もない時代ですので、この博物画自体を含めて情報があまり正確でないところもあります。実際にビュフォンも彼自身の目で生きたスカンクを見たことがなく、スカンクに関する執筆は標本や伝聞がもととなっているようです。

 まだ普及していなかったためか、4種の動物の名前はいずれもリンネ式の命名法で記されていません。このため、後の文献でこれらが実際にどの種の動物に該当するのか、さまざまな考察がなされています。

Le Coase:
「Mouffette」のうちのひとつとしてビュフォンが挙げていますが、後の文献[2]によるとこの図に描かれるような動物は当時知られている限りで存在しない、とされています。ハナグマ(Nasua)かもしれないという推測はされていますが、はっきりとは分かっていません。

Le Chinche:
ビュフォンは南アメリカでみられるとしていますが、文献[3]の主張では、この図は明らかに北アメリカに生息するシマスカンク(Mephitis mephitis)を描いたものであると後に訂正されています。

Le Zorilla:
パリの副牧師所有の標本をもとに描かれたものです。ビュフォンはこの種の動物について、ペルー・その他南アメリカの地域でみられるとしていましたが、これは標本に随伴する旅行記の内容が考慮に入れられておらず信憑性がありません。後の学者による見解は様々で、動物学者のArthur Holmes Howellはこれはフロリダやメキシコでみられるマダラスカンク(Spilogale)ではないかと推測している一方[4]、哺乳類学者Philip Hershkovitzはそもそもアメリカ大陸でみられるものではなく、アフリカに生息する現在でいうゾリラ(Ictonyx striatus)に該当すると主張しています[5]。

Le Conepate:
後の分析によりトウブマダラスカンク(Spilogale putorius)ではないかと推測されています[6]。

 このコレクションの図は一枚物で、ビュフォンによる博物誌の図をもとに芸術家Benard Direxitが1792年に銅版画として再現した作品です。各々描かれている動物の正確性はさておき、細部まで繊細に描かれており、質感にも時代を感じます。

---参考文献---
[1]:Georges Louis Leclerc comte de Buffon. (1775). Oeuvres complètes: Histoire des animaux quadrupèdes, Volume 10
https://books.google.tt/books?id=5m4FAAAAQAAJ&source=gbs_book_other_versions_r&cad=3

[2]:Cuvier, Georges. (1827-35). The animal kingdom arranged in conformity with its organization. With additional descriptions of all the species hitherto named, and of many not before noticed, by Edward Griffith and others. 16 vols. London: Geo. B. Whittaker. Volume 2.

[3]:Howell, A. H. (1901). Revision of the skunks of the genus Chincha. U. S. Department of Agriculture. Washington, Government Printing Office.

[4]:Howell, A. H. (1906). Revision of the skunks of the genus Spilogale. North American Fauna 26.

[5]:Hershkovitz, Philip (1949). Technical names of the African muishond (genus Zorilla) and the Colombian hog-nosed skunk (genus Conepatus). Proceedings of the Biological Society of Washington. Vol. 62, pp. 13-16

[6]:Allen, J. A. (1838-1921) Collected writings on mammals.

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