万華鏡の世界~若狭の変り塗 その1
『蒔絵』は日本を代表する漆芸技法です。国宝、重要文化財に指定された漆芸作品の大半には蒔絵が施されています。私も美術館でそうした作品を沢山見ましたが、変り塗の作品が美術館に展示されているのを見た記憶がありません。変り塗の良い作品も沢山存在したと思うのですが、長い年月の中で市井に消えてしまったとしか言いようがありません。 津軽塗、若狭塗に代表される変り塗の魅力はその色と模様の豊富さです。黒と金が主体の蒔絵とは全く異なる方向です。その中でも江戸後期、明治の若狭塗の色の華麗さ、輝きは群を抜いています。残念なのは地元小浜の方も古い若狭塗のことをご存じないことです。家内には私の若狭塗は「ガラクタ」と言われています。とても口惜しい気持ちですが、それは若狭塗の本質を全く知らないために出てくる言葉だと感じています。 ここでは万華鏡を覗いた時のような、若狭塗の美しい変り塗の数々をご覧いただきたいと思います。 若狭塗には数百種類の変り塗があり、その模様に名称が付けられていることが多いのですが、この変り塗に関しては名称はわかりません。檜葉と松葉、卵殻が散らされていますが、見たことのないものです。 江戸期 組重 https://muuseo.com/shinshin3/items/326 グリーン参る 檜葉を赤あげで仕上げた「桜木」という変り塗です。 卵殻を散らした中に少量の松葉で直線的な模様を入れた変り塗ですが、名称はわかりません。独創的です。ざんねんなぬりもの事典~若狭塗五段重 八寸重台付 | GreenMile Laboratory | MUUSEO My Lab & Publishing ざんねんなぬりもの事典~若狭塗五段重 八寸重台付 | GreenMile Laboratory | MUUSEO My Lab & Publishing https://muuseo.com/shinshin3/diaries/74 グリーン参る 若狭塗は基本的には具象は少ないのですが、このように卵殻で竹を描いた模様などもあります。ただこのあたりの描写力は蒔絵には敵いません。 明治後期 荒木久兵衛作 若狭若竹硯箱 https://muuseo.com/shinshin3/items/340 グリーン参る 菜種と紐、四角い箆を使った「藤の影」といわれる変り塗で、とても楽しい模様です。 これは重箱の蓋なのですが、対角線状に松葉でライン取りしたうえ、変り塗四種を配しています。上から時計回りに「高雄」「菊の霜」「はだれ雪」「花の里」と言われる模様です。特に「花の里」は珍しく、箆と菜種で模様付けして緑地の中の朱漆がポイントとして効いています。 明治中期製作 七寸 四面絵替五段重 https://muuseo.com/shinshin3/items/354 グリーン参る 川の流れの中に紅葉を配したもので「竜田川」と命名しています。川は卵殻の白を生かしていますが、簡略化された絵画と言えるでしょう。ところどころに微塵貝が撒かれています。 明治中後期 六寸半 四段重 竜田川 https://muuseo.com/shinshin3/items/273 グリーン参る どの地方の漆芸とも似ていない輝きを、若狭塗は今も放っています。 #コレクションログ