文芸主潮 1943(昭和18)年 第二巻五號 5月號

0

「野戰風呂譚」

先日、町へ出かけました。

全く久しぶりなので、

足がひよくひよくしておかしかつたですよ、

嬉しくてね。

町角でふと耳馴れたメロディーに氣づいたので

行つてみると

喫茶店のレコードでした。

諏訪根自子嬢のソロです。

自分はとても好きです。

彼女の獨奏は、東京の日比谷音樂堂でも聞いたし

ラジオでも聞きました。

彼女はベルギーの國立音樂校で勉強中といふことだが、

皇軍の輝かしい戰果について誰か知らせてくれてゐるかしら、

新聞などはあつても、

どんな風に書かれてゐるものやら。

いや

一筋に勉強して立派な音樂家になるがいい。

天才少女に幸あれ。

『文芸主潮』5月號 近藤弘文 1943(昭和18)年

こちらは戦中、中国大陸に於ける軍の電設隊従軍の方の手記もしくは手紙(奥様?彼女さん?糸子さんという女性に宛てられたもの)からの抜粋。都市名の記載は見当たりませんが黄浦江、大場鎮、表忠塔などの記載から上海近郊での駐軍、その休日に日本人街のある喫茶店での描写ではないか?と推測します。

あゝ宝山のあの辺り、
(*表忠塔は現存しません)

日本人街は多分、虹口の魯迅公園の・・・

と、仕事で長年、毎年一年の半分の時間を過ごし、四半世紀以上往き来しました上海の地に思いを馳せたりします…。'90年代に骨董街である其処から数キロの東台路で蓄音機を購入した際に何枚か、ロシアや中国のものに混じって日本の浪曲やなにやのSP盤が付いてました。処分や戦禍で失われてなければきっと…あの時代、中国・上海の喫茶店で掛かってた根自子さんの盤なんかももしかしたら骨董店にあったのかも知れません。。。

そんな時代に静かに響いたヴァイオリンの音色🎻

#諏訪根自子 #NejikoSuwa #上海

Default