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隠された十字架 -法隆寺論-《新潮文庫》
新潮文庫で1986年に発行(単行本初版は1972年)された『隠された十字架-法隆寺論-』梅原猛/著、文庫版528頁です。
哲学者・梅原猛氏(1925-2019)による日本古代史論の一冊。この「梅原史観」はそれなりの影響を残しました。山岸涼子の『日出処天子』なども、影響を受けていると言われています。
日本古代史の重要人物である、聖徳太子信仰の中心となっている奈良・斑鳩の法隆寺。
この日本最古の寺院には、聖徳太子の遺徳を讃え、太子一族の悲劇を伝える文物が多数残されている。だが果たして、法隆寺は単純に太子を崇め奉るだけの寺院モニュメントであろうか。
造像された後、ほとんど誰の目にも触れさせず厳重に保管され、秘仏となっていた東院夢殿の本尊・救世観音の意味は、また西院金堂の仏像群の銘文の矛盾、伽藍につきまとう死のイメージはどんな意味をもつのか?
これら法隆寺の数ある寺宝は単純に聖徳太子を讃えるためだけのモノだろうか、それは悲劇的な最期となった聖徳太子一族を鎮魂し、怨霊たちの怒りや祟りを鎮めるための供物では無かったか?という論を展開していくのが、この論の骨子です。
個人的には、なるほどと思わされる部分もありますが、色々な歴史的事実から、この論のすべてが正しいとは言えず、歴史を解釈する仮説のひとつとして考えるべきと思っています。(法隆寺は常に朝廷の庇護を受けていたわけではない。現存五重塔が長期にわたり中心の柱だけしか無かったなど困窮していた時期もある。梅原説には矛盾している)
何にしても、法隆寺の存在が示す謎は、正史に残されなかった古代王朝興亡史の謎を秘めた歴史ミステリーとして、興味深いものがあると思います。
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