【手彫証券印紙】第一次発行5銭橙黄色/茶色:印面変種(ヴァラエティー、エラー)

初版 2022/11/19 08:09

改訂 2022/12/04 17:54

第一次発行5銭印紙には数多くの印面変種が存在します。カタログに収録されている派手なエラーの他にも、手彫ならではの細かい変種がそれこそいくらでもあるようで、版の区別やポジション決定のヒントとなりうるかと考えています。

このLabログでは、私の手持ちのマテリアルに潜んでいた(?)印面変種を何種類か紹介いたします。カタログに収録されているような派手なものから細かすぎて微妙なものまで入り乱れてのラインナップですが、手彫ならではの「間違い探し」をお楽しみいただければと思っています。

[2022/12/4:下額面"S"軽彫エラーを追加しました]

上左雲形飾り、右下雲形飾りの二つ落ち

印面の内側、上下左右にそれぞれ2つある雲形飾りのうち、上の左のものと、右の下のもの、2つが欠落している大きなエラーです。

この印紙は長谷川(2016)カタログの定常変種番号2-11として掲載されているものと同じですが、右上の雲形飾り1つが欠落しているエラーとして紹介されており、なぜか右側下の雲形飾りが落ちていることが見落とされています。それ以前の古谷(2011)カタログでも同じで、また、長谷川氏(2022)の大コレクション集のp.22とp.23でも同じ扱いになっているのは面白いことです。

なお、長谷川氏(2022)p.22の未使用大ブロック写真によりこのエラー印紙の版とポジションがplate I / Pos.1であることが示されました。この印紙の右隣、Pos.2の左枠線の外側には真ん中あたりに「“」のような彫りがありますが、ここに示した二枚とも偶々右マージンが大きくてこの「”」が見えています。

左雲形紋一つ落ち

印面内側、左側にある雲形飾りのうち、上のもの1つが欠落しているエラーです。カタログには未記載で、コレクション写真集でも紹介されていないので、未報告のエラーと思われます。

下額面左側の波落ち

下額面の左側の青海波の波が複数個所で欠落しているエラーです。長谷川(2016)カタログで定常変種番号2-13として記載されているものと同一のポジションです。

左額面枠誤彫

これはごく軽微な誤彫ですが、左側額面の内枠が左上に突き出た形で彫られています。このような枠線の印刻の細かいミスは取り上げていけばきりがないのですが、他の額面でも初期印刷に見られることが多いように感じています。

右警告文「此」字画落ち+左上隅飾り小丸落ち

右警告文の一文字目、「此」字の第一画が欠落しています。また、細かい点ですが、額面内枠の左上隅飾りの小さな丸が欠落しています。

このような文字の画落ちは一般的には顕著なエラーとしてカタログなどで取り上げられるのですが、このエラーは未収録となっています。

左上隅飾り小丸落ち

上の印紙と同じ縦5枚ストリップの印紙で、同じように額面内枠の左上隅飾りの小さな丸が欠落しています。本当に細かいエラーですが、同じストリップ=同じ版で、別の印紙なのに同じ場所に同じエラーが見られるのが興味深いです。彫刻者の癖なのでしょうか。

下額面表示"5 S"軽彫

これは下の額面表示"5 SEN"の最初の2文字、"5 S"が明らかに薄くなっていて、手彫切手でいういわゆる「軽彫」の類のエラーです。原版を彫る際に、まず初めに図柄全体を軽く彫ってから仕上げに彫りを加える、という流れだったのでしょうか、仕上げを忘れてしまったのかも知れません。

このエラーは、最初は印刷の加減で薄くなっている可能性もあって半信半疑だったのですが、全体の色調がより濃い印紙で同一ポジションのもの(証書に貼られたもの)を見つけて、"5 S"が相変わらず薄いことが確認できて、軽彫だと判断した次第です。

長谷川(2016)カタログでは、同様のエラーとして「下部の"EN"軽彫り」(定常変種番号2-1)、「下額面"S"軽彫り」(定常変種番号2-2)の2種類が収録されているのですが、この"5 S"軽彫は未収録です。

下額面表示"5 S"軽彫

【2022/12/4追加】

下の額面表示"5 SEN"の" S"が明らかに薄くなっている「軽彫」エラーです。この変種は長谷川(2016)カタログに「下額面"S"軽彫り」(定常変種番号2-2)として収録されていて、彫られている文字や文様を比較してカタログに納められている印紙と同一のポジションであることが確認できています。

上額面表示"5"肉付忘れ

これまた微妙なヴァラエティーですが、上側の額面の"5"の字の下半分、カーブしている部分が肉付けされておらず、細い線のみになっているものです。カタログには未収録で、何と名付けて良いか悩んだのですが、「肉付忘れ」という名称で整理しています。

左桜紋下と右額面表示上の波落ち

青海波文様の小波の彫り忘れは「波落ち」エラーと呼ばれていて、手彫切手でもよく見られるエラーの種類ですが、手彫印紙では青海波文様の数が多いこともあって大小の波落ちエラーを見かけることができます。最も大きなものは第一次発行1銭印紙で見られるもので、左側の桜の下側の青海波が複数個にわたって波落ちしている派手なエラーです。

この例は、右側額面のすぐ右上と、左上の桜紋の下で波落ちが見られるもので、証書に貼られた縦3枚ストリップのうちの1枚で見つけました。単片だったら見逃していたかも知れませんが、ストリップの3枚を順に眺めていて、あれ、なんかおかしい、と気づいた次第です。

第一次発行5銭印紙では、上述した「下額面左側の波落ち」)と、もう1つ別の大きめの波落ちがカタログに収録されていますが、ここで示すような細かいところでの小規模の波落ちはおそらく数が多すぎて収録されるに至っていないものと考えています。

右雲形紋の小丸落ち

これも実に細かいところですが、印面の内枠の左側に二つある雲形飾りのうち、上の飾りの中の小さな文様が欠落しているものです。まさに白目で睨まれているような感じがして、意外と目に飛び込んできます。

左下桜紋左上と右上桜紋右横の波落ち

こちらも重箱の隅をほじくるような細かい波落ちで、左下桜紋左上と右上桜紋右横の二箇所で波の彫り忘れがあるものです。

下額面表示左内枠誤彫

これは面白いエラーで、下の額面の内枠のデザインを完璧にミスったものです。内枠の左側は、本来ならば図中の"normal"のように角を削ったような形の枠とすべきところを、上下の枠線をそのまま延長して額面外枠まで伸ばしてしまったので、内枠の左側が"["のような形で取り残されています。

このエラー、結構派手と思うのですが、カタログには未収録です。

右警告文下枠落ち

こちらは右警告文の下枠が完全に彫り忘れられているもので、複数のポジションで見られるエラーでよく知られたものらしく、カタログには定常変種番号2-18「右下枠落ち」として収録されています。

枠線のエラーとしては、右側の外枠が完全に欠落している大エラーも存在しますが、残念ながら本コレクションには入っていません。

左銭字点たすき軽彫

このヴァラエティーは一見すると左銭字の点とタスキが欠落している大エラーのようですが、よく見ると僅かに点とタスキが写っているので、いわゆる軽彫として整理しています。結構目立つエラーと思われますが、カタログには収録されていません。

左下隅飾りの右ヒゲ落ち

左下隅にある飾り文様の、左右に出ている飾り(「ヒゲ」)の右側が欠落しているエラーです。

同じようなヒゲ落ちエラーは、長谷川(2016)カタログには第三次発行5銭印紙の第5版で左上飾りヒゲ落ち(両方のヒゲが落ちているもの:定常変種番号17-3)が、第五次発行5銭印紙(Pos. 40)でこの例と同じ左下隅飾りの右ヒゲ落ち(定常変種番号29-1)がそれぞれ収録されていますが、この第一次発行5銭印紙の左下隅飾り右ヒゲ落ちは未収録です。

右下波落ち

こちらも細かいところの波落ちで、右下桜と下額面の間で数カ所細かい波落ちがあるものです。細かいエラーなので当然ながらカタログ未収録です。

左額面上波落ち (2022/11/23 追加)

左額面の上、桜文様との間で青海波紋様の波が一箇所落ちています。印紙のスキャン画像を眺めていて気づいたものです。

左下桜文様左上波落ち (2022/11/23 追加)

左桜文様の左上で青海波紋様の波が一箇所落ちています。このLabログの最初で紹介した「上左雲形飾り、右下雲形飾りの二つ落ち」の、2枚目の印紙が貼られている証書のスキャン画像を眺めている時に、もう一枚貼られている5銭印紙で発見しました。本当に全く油断ができません。

右下桜文様左上波落ち (2022/11/23 追加)

右桜文様の左上で青海波紋様の波が一箇所落ちています。こちらも印紙のスキャン画像を眺めていて気づいたものですが、一つ前に紹介したエラーがそのまま右側にシフトしたような変種ですね。

以上、手持ちのマテリアルから気づいた範囲で印面変種をいくつか紹介いたしました。これからもカタログに収録されているような漢字の画落ちのような大きな変種に出会えることを心待ちにしつつ、手持ちのマテリアルを眺めて細かい印面変種を探す旅を続けようと思います。

印面変種はそれ自体の面白さに加えて、版別やポジション同定のための判断材料としても貴重な情報になり得ますので、細かくとも発見次第追記して、この印紙の楽しみ方をさらに広げるように努めたく思っています。

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unechan

子供の頃から細々と続けてきた切手収集。長年のブランクを経て10年ほど前から再開し、日本切手クラシカル、ドイツインフラなどを収集。併せて手彫証券印紙の収集を始め、現在はこちらがコレクションのメインになっています。郵趣に加えて音楽(ジャズ)、釣り、鉱石収集、昆虫採集(蛾類)など趣味多数にて家族には迷惑をかけております…

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    利右衛門

    2022/11/19 - 編集済み

    手彫りならではなエラーの数々!
    細かいけれど、楽しいですね。
    緻密な作業をこなしていた彫り師さんを労ってあげたくなりますね(笑)

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      unechan

      2022/11/19

      エラーや変種探しはまさに手彫ならではの楽しみなのですが、なんか彫師さんのアラ探しをしているようで若干申し訳ない気持ちもいたします(笑)。100年以上も前に、わずか24mmx24mmの小さな四角の中にこれだけの精緻な彫りを、しかも50枚も施すなんて神業ですよね。彫り師さん達、ごめんなさい...

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      利右衛門

      2022/11/19

      いやいやいや、これだけ愛でて楽しんでらしたら、
      彫り師さんも本望だと思いますよ👍🎵

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