Master Trilobite Preparator、David Comfort氏逝去
初版 2024/06/29 17:05
改訂 2024/06/29 22:24
アメリカの名プレパレーター、デーヴィッド・コンフォート (David Comfort) 氏が、先月の5月31日に逝去された。つい最近のリカルド=レヴィ=セッティ氏に続き、この業界でのビッグネームの方が立て続けにこの世を去った事となる。
著名なプレパレーターといえば、モロッコ三葉虫でお馴染みHammi Ait H'ssaine氏、ハラガン三葉虫でお馴染みのBob Carroll氏、アメリカ、米国カンブリア紀三葉虫などの高級感溢れるプレップで有名なDan/Ben Cooper氏、そして、米国三葉虫やモロッコ三葉虫を広くプレップされているDavid Comfort氏が思い浮かぶ。
ここにコンフォート氏の経歴を、勝手ながら簡単に辿ってみる。
氏は、1948年にアメリカ・アルバータ州のブレアモアで4人兄弟の2番目として誕生。炭鉱で短期間働いたのち、ビクトリア大学でArt and Scienceを専攻、その後カレドニアのセカンダリー・スクールで、生物学と美術の教職に。
実に多様な趣味を嗜んでいた方のよう。中でも、アクアリウム、釣り、ラン (蘭) の栽培、水彩画などに熱心だったという。
家の壁いちめんに、魚の飼育用の水槽を設置したり、自身で栽培したランの植物標本を自宅のあちらこちらに陳列したりと、生き物関連に強く興味を持っていた。子供時代を、アルバータ州の自然豊かな環境で過ごしたことが、彼の嗜好に強く影響を与えたのかもしれない。
我々の世界では、もっぱら米国三葉中のプレパレーターとして名を馳せているが、三葉虫趣味は、彼の人生の中では割と最近の話の模様。
きっかけは先の生物学の授業で、生徒に三葉虫の話をしたところ、誰もその存在を正確に知らなかった事。しかし、調べるうちにご自身の方が三葉虫にハマっていったのだという。当初、いわゆるモロッコのトゲトゲ三葉虫等を買い集めるも、財力的に厳しく自分でプレップする事を決心。先のレヴィ=セッティ氏の書籍などを参照にしつつ、道具類を揃え、自らのスタイルを築いていったそうだ。
ちなみに、これまで一番プレップに苦労をした三葉虫は、ドロトプス・アルマトゥス (Drotops armatus) だという。想像の通り、単純にあの刺々をうまく失わず残すのが困難であると。
他、アメリカものだと、スペンス頁岩層の三葉虫のプレップはかなり難儀するらしい。三葉虫と母岩が大体同じ黒い色合いをしている為、その境界が見分けづらい上に、二者の硬さも似たようなものなので、研磨をする圧力の調整の塩梅が難しいのだ、とのこと。
彼の作品群は、個人でも時たま入手可能な他、珠玉の作品群は、アメリカ、ニューヨークのAMNH (American Museum of National History) やツーソンのアリゾナ大学博物館 (The University of Arizona Museum)、カナダのロイヤルオンタリオ博物館 (The Royal Ontario Museum)、そしてメキシコ、カンクンのThe Back to the Past Museumなど、我々の世界ではお馴染み (?) の博物館で鑑賞することができる。
私も、彼の仕上げの標本を持っていると思い込んでいたのだが、調べるに思い違いだったようで、残念ながら所有していなかった模様。手持ちの米国カンブリア紀あたりの三葉虫のどれかが、コンフォート氏の作品の可能性はあるのかもしれないが。
はっきり彼のものとわかる手持ちの標本がなかったので、上にウェブ上にあったDavid comfort氏のプレップ作品と思われるものをあげてみた。
上から順に、ザカントイデス・グラバウイ (Zacantoides grabaui) 、エリプトセファルスの一種 (Elliptocephalus sp.) 。言うまでもなく素晴らしい標本。
また、ここには載せていないが、彼のモロッコのデボン紀三葉虫の作品群を見るに、超絶技巧プレップで有名な先のHammi氏とはまた違ったベクトルでの良さがある。同じ種の、この御両人のプレップ作品を入手して、見比べてみるのも楽しいかもしれない。
彼の新規の標本が手に入る機会はもう二度とない。ただ運が良ければ、いつの日かオールドコレクションとして巡ってくることもあるかもしれない。
享年76歳とのこと。彼の生涯を辿るに、きっと豊かな人生だったのだろうと思います。生まれた国や時代こそ全く違いますが、同じような趣味を持ち、何より同じ「三葉虫人間」仲間としても、安らかな眠りにつかれる事を深くお祈りいたします。
※ なお、今回記事でのコンフォート氏の生涯等については、以下のリンクのインタビューなどを参照にさせていただきました。
https://www.terracestandard.com/obituaries/david-comfort-7371470
https://www.trilobiti.com/post/interview-of-the-month-david-comfort
trilobite.person (orm)
化石が大好きです。現在主に集めているのは三葉虫ですが、恐竜やアンモナイトを含め化石全般が好きです。これまで買い集めた、あるいは自分で採取した標本を紹介していきます。古生物の持つ魅力の一端でも伝える事ができれば幸いです。
http://blog.livedoor.jp/smjpr672/
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2024/06/29 - 編集済み先ずはご冥福をお祈りします。三葉虫の剖出技術向上は、90年代以降北米の技術者がリードしてきましたし、今の美術品や作品ともいえる域に達した功労者の一人と言えますね。私のコレクションでは、3標本が氏の剖出と確定しています。昔は、プレパラーターが誰とか気にしていない時期もありましたので、実は隠れて所有している標本もあるかもしれません。サインなど無いですし鑑定が出来る訳では無いので、仕方ないです。私が「Prepared」の項目を設けているのは、自慢ではなく技術者に敬意を表する意図もあります。
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trilobite.person (orm)
2024/06/29調べてみるとTrilobitesさんアップ済みのものでは、モロッコのGerastos、LeonaspisとカナダのElviniaが、コンフォート氏の作品なんですね。いずれも細部の丁寧さが際立つ流石の一品です。氏以外の、上に挙げたような有名プレパレーターは、北米かモロッコかどちらかの種のみ中心にプレップしますが、その両者をプレップすると言う事も氏の特徴でありますね。
いずれは我々も所有する標本を他の誰かに引き継ぐ年となるでしょうが、技術者に敬意を表する意味でも、プレパレーターの名も情報として残していきたいものですね。
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