VISITORS / 佐野元春

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このアルバムに針を落とした時、佐野元春が何のために一年間ニューヨークに行ったのか、思い知らされた。ニューヨークの匂いがした。
当時のニューヨークはニューウェーブとヒップホップが沸き立ち、新しい音楽とダンスが生まれていた。
流行の時差でまだそれを知らなかった日本の若者は、この衝撃的な進化に興奮する者と戸惑う者、拒否する者で賛否両論となっていた。
例えば、他の日本人ミュージシャンが同じ環境に放り出されたとしても、ここまでの作品は生み出せなかったと思う。佐野元春独特のリリカルなダンスミュージックなのだ。
加えて、ここでも大瀧詠一のナイアガラサウンドの影響が見られる。必要以上に重ねられた音はデジタルな楽器とアナログな楽器を巧みに織り混ぜ、素人目にはわからない重厚さを作り上げている。

更に佐野元春は渡米することにより、アーティストとしての権利の重要性に一石を投じている。雑誌の発行や曲の著作権に関するマネージメント、単に芸能事務所に任せきりにするのではなく、自己責任で自己を守る術もニューヨークで独学してきている。
ヒットすればそれでいいと思うアーティストが多い中、さらにその向こうを見据え、行動していたことに改めて感服する、そんな作品です。

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