西京 千本 箱場印
初版 2023/12/17 20:23
西京の千本(せんぼん)の箱場印です。
明治7年6月6日に西京から神戸に向けて仕立てられた脇なし二つ折り葉書1銭に押されたものです。西京で6月6日の日中に集荷され、同日の夕方に中継局の大阪に着き、翌日の6月7日の朝に神戸に着いています。三箇所のN1B1型の二重丸印が予約に鮮明に押されているところが気に入っています。
箱場印の拡大図です。やや大ぶりの「千」一文字に細身の丸枠の黒印です。
さて、この千本箱場印の最大の特徴は、この例でも見られるとおり箱場印が葉書や切手の印面に掛かっている場合があるということです。
切手や葉書の印面は、郵便印で抹消することが定められていて、箱場の管理者の管理印であり、非郵便印である箱場印で印面を抹消することができません。本来ならば、印面を箱場印で抹消した場合は、印面が損傷/汚されたために無効であると見做されて、この場合では葉書としての効力を失って第1種書状(封筒などの普通の郵便物)としての扱いとなり、第1種書状の料金2銭が未納であると見做され、倍額の4銭が徴収されることになるはずです。
この、「印面が損傷、あるいは汚されて無効であるとみなす」というのは少しわかりづらいかと思いますので、少し時代を下って、小判葉書1銭での実例を紹介いたします。
これは明治24年8月に備前・岡山から差し出された小判1銭葉書で、宛名住所の2行目の頭が葉書の印面(「壹銭」という額面表示があるところ)に掛かってしまっています(付箋が付いているために少しわかりづらいかも知れません)。
このため、この葉書は効力を失い、もはや葉書という扱いではなく、料金が未納の封書(第1種書状)という扱いになってしまい、上述したように、第1種書状の料金2銭の倍額をペナルティーとして払う羽目になってしまいました。このため、配達局で新小判4銭切手を貼って「未納」印で消印し、受取人から4銭を徴収してようやく配達されたのです。
この葉書の面白いところは、集荷した岡山局でちょっとしたミスをしたところです。
差出人が宛先住所を印面にかけて書いてしまって、葉書としての効力を失ったわけですから、岡山局では、葉書の余白に「未納」印(右上にある、茶色の「未納」)を押すだけで十分で、無効になっている印面を抹消する必要がなかったのです。このことに気づいた岡山局では、慌てて紙片に「誤テ消印」と筆書きをして岡山局の丸一印を押印し、葉書に付箋として貼り付けたのです。
差出人がエラーをして、郵便局側でもエラーをしたというところが面白くて気に入っている一枚です。
さてさてすっかり脱線してしまいましたが、話を千本箱場に戻しましょう。
本来の手続きとしては、葉書印面が千本箱場印で抹消されてしまっているので、京都本局ではこの葉書を無効として、料金未納の書状(料金2銭)として扱い、未納である旨を追記して神戸局に送り、神戸局で2銭x2=4銭切手=桜切手2銭を2枚、もしくは4銭切手1枚を貼って朱筆の「❌」で抹消して、受取人から料金を徴収する、ということになるはずです。
それが堂々と見逃されていて、しかも、千本箱場印での印面抹消の例は他にもたくさん報告されているのです。
箱場印での印面抹消は大阪の箱場では報告されておらず、おそらく存在しないものと思います。それが、一部の箱場とはいえども西京では黙認されていた、もしくは認められていたということは実に不思議です。
大阪の箱場と、西京の箱場とでは郵便局との関係が違っていたのでしょうか。
謎だらけの箱場印。やっぱり面白いです。