【手彫証券印紙】第五次発行10銭青色:印紙の紹介&刷色と目打のヴァリエーション
初版 2022/12/22 14:03
改訂 2023/07/03 09:28
このLabログでは第五次発行10銭青色印紙をご紹介いたします。青色の映える美しい印紙で、この印紙の特徴と2つある版の見分け方、この印紙の最大の魅力である色調と、基本目打について詳しく説明いたします。
第五次発行10銭青色印紙について:特徴、版の見分け方
この印紙は、いわゆる電胎法を用いて原版から印刷用の実用版を複数作成して印刷されたもので、手彫証券印紙の中では最も後期に発行、使用されたものです。10銭印紙は需要が多かったようで、これ以前に印刷された第1次発行10銭赤や第2次〜第4次発行10銭青色印紙は早々と消費され、明治15年頃からはこの第五次発行10銭青色印紙が支配的になっているように感じています。
原版は2つ(Plate I と Plate II)で、フルシートも残っていて、ポジションを決定しながらシートを再構築することも可能です。私も手持ちの印紙を使ってシート再構築にチャレンジしており、Plate IIが半分程度、Plate Iが1/3程度仕上がってきました。
Plate I とPlate IIは、「紙」の第5画の形状が異なっていることで比較的簡単に見分けがつきます。
この他にも「可」の形の傾向が若干異なっていますが、まずは「紙」の第5画で見分けて、長谷川氏の大著「手彫証券印紙」(2022)のp 186とp.191のシート画像と照合するのが確実です。第五次発行印紙に共通してポジション毎の均一性は比較的高いのですが、「可」「刑」の形、印面内側左右にある飾り文様の房の形状などの変化があって、ポジションの同定は(第五次発行1銭黒に比べると)はるかに容易だと感じています。
第五次発行10銭青色印紙の色調
第五次発行10銭青色印紙の魅力はなんといっても趣きの異なるさまざまな青の色調(シェード)が存在することでしょう。
色調の分類は主観的な要因が多々はいりこんでくることと、そもそも連続的に変化する「色」に線引きを行うことの難しさがあるのですが、この印紙に限っては色調の差が比較的はっきりしているのも良いところです。
このLabログでは長谷川(2016)の分類に従って4種類の色調で整理しています。後ほど説明するように、最新の分類では紙質の違いを勘案して3種類の色調(刷色)として整理されています。
ちなみに最初の3種類については同一ポジション(Plate II, Pos. 13)のものを揃えてみました。
1) deep blue(濃青)/ blue (青)
この刷色は従前はdeep blue(濃青)と呼ばれていたもので、黒味を帯びた濃い青色です。この色調の印紙は明治の後半の使用例、例えば菊型印紙(凸版)との混貼でもよく見かけるので、最後期印刷であったものと考えています。長谷川(2022)ではポーラス紙に印刷されたblueとして整理されていますが、こちらも個人的にはシェードの違いを重視していまだにdeep blueとしています。この印紙では最も多く見られるものです。
2) steel blue(紺青)/ blue (青)
この刷色はsteel blue(紺青)と呼ばれていたもので、落ち着いた渋めの青色です。長谷川(2022)では無地紙に印刷されたblueとして整理されています(と理解しています)が、個人的には明らかにシェードが異なるので未だにsteel blueとして分けて愛でています。Deep blueと並べて見ると差がはっきりします。
3) green blue(青緑)/ turquoise blue (ターコイズブルー)
この刷色はgreen blue(青緑)と呼ばれていたもので、緑がかった美しい青色です。長谷川(2022)ではturquoise blueと呼ばれています。この色は第四次発行10銭印紙には存在せず、もしも緑がかった青色の10銭印紙があれば間違いなく第5次発行です。個人的には最も好きな色です。
4) grayish blue(灰青)
この色調はgrayish blueという灰色がかった薄い青(というか、青みが強い灰色に近い?)で、私も最初は保存状態が悪くてインクの色が褪せただけと思っていたほど、先に示した3種類の青色とはかけ離れた色調です。
この色調の印紙には、他のものには見られない目打11があること、上の3種類と比べると圧倒的に少ないことから、比較的初期に、限られた時期に製造されたものと考えています。証書に貼られたものにはまだ出会えておらず、この印紙の難関だと感じています。
このようにこの印紙の色調は見た目では大きく4種類に分けられるますが、最新の分類(長谷川/2022)では3種類に整理されていて、同じ色でも無地紙とポーラス紙での発色の違いで整理がなされています。
第五次発行10銭青色印紙の目打
この印紙には、基本目打としてPerf 8 1/2, 10, 11, 11L 及び 13の五種類が存在します(第5次発行1銭黒と同じ)。まずは五種類の目打を並べてみました。
1) Perf. 8 1/2
Perf. 8 1/2は後期のポーラス紙に出現し、刷色も濃い青色のものが多くみられます。明治20年以降の証書で、菊型印紙(凸版)と混貼されているものをよく見かけるので、黒1銭と同様に手彫証券印紙の最後期に出現した目打だと考えています。印紙の印面の幅の中にある目打穴もしくは目打山の数が10個程度で、見た目に目打のピッチが荒いものはこのPerf. 8 1/2として良いと思います。
2) Perf. 10
最も普通に見られるのはこのPerf.10で、1銭黒と同様に実測値はおおよそピッチ9から10の範囲に入ります。一銭黒の場合、ピッチが9前後のものと10前後のものとの2グループに分かれてて、間のもの(例えば実測ピッチで9.5など)はあまり見かけない気がしていますが、小判切手での整理に従って9と10を分けずにひとまとめとしています。手彫証券印紙の目打を目で見て判別する練習にはこのPerf. 10が最適で、印紙の印面の幅の中にある目打穴もしくは目打山の数がおよそ12個のもの、と覚えておいてください。
3) Perf. 11
目打ピッチが11のものには、第五次発行1銭黒色印紙と同じく、目打穴が大きいPerf. 11Lと、通常サイズのPerf. 11の2種類があります。いずも印紙の印面の幅の中にある目打穴もしくは目打山の数が13個で、明らかに12個では納まらないものがピッチ11です。たくさんあるピッチ10の目打を見慣れると、あれ、少し目が細かいかな、っという感じでなんとなく見分けが付くようになってきます。
目打穴が通常サイズ(大きくない)であるPerf. 11は(第五次発行1銭黒色印紙と同じで)この印紙でも難関でしょう。長谷川氏(2022)のコレクションリーフでは無地紙のGrayish blueでの目打として表示されていて、他の色調や用紙では見られないもののようです。手元のマテリアルでも図示したものを含めて単片が数枚のみという情けない状態ですが、色調のところでも説明したように、そもそもgrayish blueが少ないので、その中でもPerf. 11はさらに少ないものと考えています。頑張って証書貼りのものを入手したいところですが、出逢えるのはいつになることでしょうか。
なお、第五次発行1銭黒印紙でのPerf. 11が無地紙のGrayish Brownでしか見られないことと、10銭青印紙のPerf. 11がGrayish Blueでしか見られないこととは何等かの形でつながっているように思えます。第五次発行1銭黒印紙でのGrayish Brownはほぼ明治14年に使用されていると思われるのですが、10銭青印紙のPerf. 11+Grayish Blueはいつ出現したのでしょうか。やはり証書貼りの実例を複数揃えて検証することが必要と考えています。
4) Perf. 11L
目打のピッチが11で、目打穴が大穴であるPerf. 11Lも比較的少ないように感じていて、コレクション中、明らかに大穴11と思えるものはここに示した単片のみです。一銭黒よりもはるかに少ない印象です。こちらも証書貼りの、できればペア以上のマルチプルで目打穴の大きさをアピールできるようなマテリアルが欲しいところです。
5) Perf. 13
最も目打のピッチが細かいのがPerf.13で、これは目打の数を確認するまでもなく一目で分かるのが便利なところです。
Perf. 13はこの印紙でも実測値でピッチ12.5前後のものが多いようで、黒1銭と同じく「目打12 1/2」(小判切手では明治9年から明治16年まで使用)に相当するものと考えられますが、ここでも古屋、長谷川らの最近のカタログでの分類に従って「Perf.13」として整理しています。ちなみに手元のマテリアルは概ね実測12.5あたりで、12.75を超えるものにはまだ出会えていません。
なお、第三次発行印紙(和紙、目打)で見られるピッチ13目打は、手彫切手で明治6年頃から使われたもので、第五次発行印紙でいう“Perf.13”とは(出現時期があまりにも違いすぎていて)別のものであると考えていますが、このあたりの話は手彫切手と旧小判切手のさらに深い知識が必要だとしみじみ感じています。