【手彫証券印紙】第5次発行1銭黒:はじめに
初版 2022/11/12 07:10
改訂 2022/11/12 07:10
手彫証券印紙の最終シリーズを飾るのは第5次発行の6種類(一銭、五銭、十銭、二十五銭、五十銭、一円)で、そのうち、最も多く見かけることのできる印紙がこの1銭黒印紙です。手彫証券印紙の中でもダントツの印刷数と使用実績があるため、「手彫証券印紙」や「手彫印紙」と言えばまずこの第5次発行1銭黒だと考えていいほどと思います。
この印紙は、他の第5次発行の印紙と同じく、「電胎法」と呼ばれる技術を使って、元の原版を幾つにも複製して、実際に印刷に使う版(実用版といいます)をたくさん作ったと考えられています。このため、印紙の発行数は多いのですが、使われた原版は2つ(第1版と第2版:Plate IとPlate II)であることがわかっています。
それ以前の印紙では多くの原版が作られたために版ごとの特徴が強く出ていたり、彫刻のミスがあったりとヴァリエーションが豊富なのに対し、この第5次発行1銭黒印紙は、原版が丁寧に作られたこともあって、大きなミスもほとんどなく、印面の均一性も高く、少々面白みに欠けるというきらいがあります。
これに加えて、たくさんあることから一般的にはあまり相手にされず、手彫印紙の「駄物」と称されることもしばしばです。印刷の後期にポーラス紙と呼ばれる厚手の用紙に印刷されたもので、滲んだようなキレの悪いインプレッションを持つ印紙が多いことも、この印紙の人気を下げているのかもしれませn。
このような可哀想な第5次発行1銭黒印紙ですが、この印紙が使われていた明治12年ごろから明治17年頃は、切手では旧小判切手が発行されていた時期で、印紙の世界でも手彫切手で使われていた技術から小判切手で導入された最新技術への変革期であったと考えられているため、目打、用紙、インクの変化がいろいろと生じているので、細かく見ていくとなかなか面白いのです。
また、豊富に存在しているため、いろいろな使用例やマルチプル(2枚以上の印紙がつながったもの)も比較的お手軽に手に入れることができるのも魅力の一つでしょう。手彫切手だと絶対に手が届かないようなこんな多数貼りの使用例も、第5次発行1銭黒印紙なら手に入れることができるのはありがたいことです。
さらにマルチプルを比較的手に入れやすいことに加えて、版が2つしかないので、このLabジャーナルでもご紹介するように、バラバラの印紙を元のシートに復元するという「リコンストラクション」も現実的に可能です。
あまり相手にされていない印紙なのですが、あれこれ細かく見ていくといろいろな発見があったりして、実はかなり奥深い印紙だと思っています。