【手彫証券印紙】第1次発行1銭:ルーレットについて
初版 2022/11/10 06:02
改訂 2022/11/13 08:21
[改訂:2022/11/12「はじめに」を追加 + ルーレット段差の模式図を改訂 + ルーレット段差付き印紙の例を追加]
はじめに
このLabノートでは、初期の手彫証券印紙で使われている「ルーレット目打」という独特の目打の説明と、ルーレット目打がどのようにしてシートに打たれていたのかということを説明し、ルーレットに段差が見られる印紙の正体と、シート上の位置決め(ポジショニング)への応用について解説いたします。
ルーレット目打と第一次発行1銭印紙のルーレット目打ピッチについて
第1次発行と第2次発行の印紙(和紙)にはルーレット目打という、通常のものとは異なったタイプの目打が施されており、基本目打(ルーレット)としてピッチ18のものと14 1/2の二種類があります。
ここに示したように、ピッチ18は初期の淡い刷色のもの、ピッチ14 1/)は後期の黒灰色や濃い黒色のものに見られるような印象を受けていますが、未だ確証が得られていないので、刷色とルーレットピッチとの関係、証書貼りのマテリアルでの出現年代確認など、マテリアルを追加して精査する必要があると感じています。
面白いことに、横がピッチ18、縦がピッチ14 1/2の、「R18x14 1/2」複合目打ともいうべきものも存在します。
この例は耳付きのペアが3組貼られた証書のもので、耳付きなのでいずれポジショニングに役立つだろうと買い求めて、版を調べている時に縦横でピッチが異なることに気づいた次第です。この逆組み合わせ、「R14 1/2 x 18」は存在するのでしょうか??? このようにまだまだ面白いネタが眠っているのも手彫印紙の楽しいところでしょう。
ルーレット目打の打ち方とルーレット器具
さて、古谷厚一著「手彫印紙の話」(1979)p.32に、使われていたルーレットについて、「いわゆる洋裁などで使用している、ノコギリの歯が丸型についていて、ゴロゴロと転がす器具」ではなく、細長い櫛のような器具を印紙のシートにあてがってハンマーで叩いて目打を施したこと、ルーレット器具の長さは印紙の印面で2.5枚分と短かったため、シートの幅/高さの分のルーレットを一度の作業で施すことができず、シートの横方向は4回ずつ、縦方向は2回ずつ、合計で46回(4x6+2x11)の作業が必要であったととの解説がありました。
ルーレット器具の長さが印紙の印面で2.5枚分だったということは、印面の途中でどうしてもルーレットのつなぎ目が生じることを示しています。シートにルーレットを施すありさまを、縦方向は青色、横方向はピンクで示してみました。青、ピンクともに印紙二枚半のところでつないで行くため、ピンクが4x6=24個、青が2x11=22個、合計で46個になります。このようにシート全体に目打ちを施すためには合計で46回の作業が必要であることがわかります。
こうやって見ると、ルーレットのつなぎ目は規則的に発生するはずで、しかも縦目打だけにつなぎ目があるもの(A)、横目打だけにつなぎ目があるもの(B)、そして縦横両方につなぎ目があるもの(C)が存在することになります。この中で、特にシート第5列目と第6列目は若干特殊で、第5列目の横方向のつなぎ目は印紙の右端(+)、第6列目の横方向のつなぎ目は印紙の左端(-)になるはずです。また、数としてはA>B>Cで、縦横両方につなぎ目があるもの=Cは一番少ないはず、ということが言えるでしょう。
ルーレットに段差がある印紙の正体
ここまでくどくどとルーレットの打ち方を説明したのですが、このことが、たまに見かける段差付きの印紙の正体を明らかにしてくれたのです。
手元の単片から、横目打に段差があるものと、縦目打に段差があるものをご紹介します。
こちらは横目打の段差の例で(上の模式図でいうとB)、シート上の位置は第3列目もしくは第8列目と考えられられます。
こちらは縦目打の段差の例で(上の模式図でいうとA)、シート上の位置は第3行目と考えられられます。
次の例も縦目打の段差の例で、図中に示しているように縦3枚ストリップの3枚目の印紙で確認できました。したがって、上の模式図からこの縦3枚ストリップはシートの上から1行目〜3行目に相当することになります。また、横方向の段差は確認できないことから、列としては少なくとも第3列目と第8列目では無いことがわかります(第5列目と第6列目についてもおそらく除外できそうです)。
このように、ルーレットの段差の原因を考察することにより、印紙のポジショニングの選択肢が狭まることがわかります。
なお、この印紙の左側では段差に加えて2、3個分ルーレットが二重で打たれているのも面白いところですね。この二重打ちについては次のセクションでより詳しく見ていくことといたします。
次の例は、印紙の印面の真ん中あたりではなく、右端付近で横方向の段差が認められるもので、先の模式図でいうと"B+"もしくは”C+"の位置になります。実はこの印紙は下側に耳紙が付いているので、シートの最下段の印紙であることがわかっているので、「シート最下段」で「B+」となるポジション、すなわちPos. 45であることが判明しました。
このように、耳紙付きの印紙や、ストリップ状の印紙では、ルーレットの段差の情報を追加することにより、シート上のポジションが判明することがあるという、大変興味深いことが起き得るのは実に面白いことです。
ここで本来ならば"C"や"C+". "C-"の例を示してこのセクションを綺麗に締めくくりたいところなのですが、残念ながら縦横両方で明らかなつなぎ目がある単片にはまだ巡り会えていません。
見つかり次第、追加でご紹介することとして、将来の楽しみの一つとして取っておこうと思っています…
ルーレットが一部で二重になっている例:イレギュラーなつなぎ目?
ルーレット目打の段差を探している最中に、2列x5行の10枚ブロック(シートでいうと横2列分)で、縦ルーレットが一部で二重になっているものも見つかりました。ルーレットのつなぎ目で二重になるのは上の例でも示しましたが、この例はいろいろ考えさせられる面白い例なので詳しく紹介いたします。
この例でルーレットが二重になっている場所は、上から3枚目の終わりの方から4枚目との境目にかけたところで、上述した模式図の縦方向でのルーレットのつなぎ目と比べると、印紙半分だけ下側にずれています。
下側からのルーレットは本来の位置である三列目の印紙の真ん中あたりまで伸びているのですが、上側からのルーレットが印紙の半分だけ下がりすぎているようですね。
果たしてこのブロックの最上段を確認してみたところ、予想どおりルーレットが不自然な感じでした。
ということは、このシートでは、少なくともこの列については、シート下側から最初のルーレットを打って、次のルーレットを打つ時に誤って印紙のつなぎ目からルーレットを打ってしまい、最上段までルーレットが打てていないというミスに気がついて、ルーレットを追加で打とうとしたところうまく打てなくてちょっと焦ってしまった、という微笑ましいストーリーを想像(妄想?)することができると思います。
(注:上側からルーレットを打ったとして、いきなり印紙半分だけずれて打ち出す、という可能性は少ないと思われますので、「下からルーレットを打ち出した」と推察した次第)
このように考えると、印紙としてのコンディションとしては決して好ましくないルーレットの段差も、ポジショニングのヒントにもなり得るという点で、欠陥を利点に置き換えることができそうです。
初期の手彫証券印紙にはルーレット一つとってもなかなか奥深い世界が存在しています。まだまだ調べることがたくさんありそうですね。