【手彫証券印紙】第5次発行1銭黒:基本目打について
初版 2022/10/30 17:04
改訂 2023/10/01 10:03
[2023/10/1追補:各基本目打について展示リーフの画像を追加いたしました」
第5次発行1銭黒には、基本目打としてPerf 8 1/2, 10, 11, 11L 及び 13があり、その他に各種の複合目打が知られています。このLabログでは、基本目打5種類についてまとめてみました(ミュージアムの展示での解説に加えて、スタディメモを追記しています)。
Perf. 8 1/2
Perf. 8 1/2はこの印紙で見られる最も荒いピッチの目打で、小判切手に見られるものと同じ目打であると考えており、その場合、明治16年から使用されているはずなので、この印紙としては比較的後期に出現する目打であると言えます。このことは、この目打をもつ印紙の数が意外と少ないことからも伺えます。なお、このPerf. 8 1/2は第5次発行10銭青印紙の後期使用例では比較的よく見かけることができます。
次に説明するPerf. 10の、ピッチ9との線引きが難しいところではありますが、私は実測値で9を下回る(より細かく言うとピッチ8 3/4 以下)のみをPerf. 8 1/2として整理しています。
Perf. 10
Perf.10は第5次発行1銭黒で最も普通に見られる目打で、手元にある9割程度の印紙がこのPerf.10です。
実測するとおおよそピッチ9から10の範囲に入ります。この中では、縦横ともにピッチ9に近いものが安定的に出現しますが、小判切手における目打分類を参照すると、Perf.10の変化範囲内としてとらえるのが自然であると考えています。
なお、明らかに目打穴が小さいもの(「10s」とも呼ぶべき?)や目打穴が大きいもの(「10大穴」?)も存在しますが、こちらもPerf.10の穴抜けの加減での変化範囲内として理解しています。
Perf. 11
ピッチ11目打はなかなか難しいと感じています。手持ちのマテリアルを分析した範囲では、ピッチ11に測定できるものはほとんどが次に説明する大穴のPerf. 11L(小判切手では明治15年頃から使用)で、純粋なPerf.11(小判切手では明治9年から明治16年まで使用)は(この印紙の使用時期と重なってはいるものの)少ないように思われます。
大著「手彫証券印紙」(長谷川,2022) p. 162に示されている第5次発行1銭黒の目打別リーフでは, 無地紙ではPerf.11、ポーラス紙ではPerf. 11Lとなっており、用紙の使用時期と目打使用時期との関係が示唆されており、大変興味深いと感じています。私の手元にある数少ないPerf. 11は無地紙で、刷色は長谷川(2022)で言うところの"browinsh grey"です。無地紙で、刷色が明らかに黒色のものを入手したく探していますがなかなか出会えておりません。証書貼りの縦4枚ストリップは、刷色に興味を持って入手したのちにPerf.11であると気づいたもので、使用年が不明なのが残念な一品です。(註:後日、縦四枚ストリップが貼られた明治15年付証書を入手することができました)
いずれにせよ、Perf. 11は基本目打の中で最難関であると感じています。
Perf. 11L
Perf. 11L(小判切手では明治15年頃から使用)は見た目が派手で、よく目立つ目打であるため、小判切手でも人気が高い目打となっています。使用が開始されたのが第5次発行1銭黒が主流になった時期と重なっていることもあり、上述したPerf.11に比べると目にする機会は多いと感じています。"L"がつくとおり、目打穴の直径が1mmほどあって、単辺では目打の先が尖った感じを受けますし、マルチプルだと目打穴井の大きさが際立ちます。Perf. 11の項で述べたように、長谷川(2022)では,無地紙-Perf.11、ポーラス紙-Perf. 11Lという関係が示されていますが、私の収集品でもPerf. 11Lは今のことろ全てポーラス紙に見られています。
図示した例は、縦ペアの1枚目で、センタリングも良好、印紙間の目打穴も際立って大きく、各辺の目打も存分に尖っていて、これぞ「11大穴」というべきお気に入りの一品です。朱筆での抹消は、例えば借用書での返済が完了して証書そのものが無効になった場合に使われることがあり、一般的には好ましいものでは無いのですが、この1枚に限っては堂々とした朱筆消しがアクセントとなっていて、気に入っている理由の一つとなっています。
証書貼りのエンタイアは、他の目打のものと同じく縦4枚ストリップのものを展示したいのですが未だに出会えておりません。当面はあまりパッとしないこの二枚貼りでしのぐことといたします。
Perf. 13
各種カタログやモノグラフで基本目打として挙げられているこの「Perf. 13」には実測値でピッチ12.5前後のものから13に近いものが存在し、個人的には色々考えさせられる目打であると感じています。
手彫切手、小判切手の目打出現時期を考えると、U小判に見られるような「目打13」はこの印紙が発行された時期には存在しないこと(小判切手での使用開始は明治18年と言われています)手彫証券印紙の次に発行された菊型印紙でも目打13は後期にしか出現しないように感じる(初期のものはPerf. 10)ことから、より厳密にいうと、ここでいうPerf.13はは手彫切手で使われていた「目打13」(明治8年頃まで使用)、もしくは小判切手でいうところの「目打12 1/2」(明治9年から明治16年まで使用)に相当するものと考えています。
このあたりの議論はなかなか難しくて、用紙の出現時期や印紙の使用時期との関係でより深い考察が必要であると考えていますが、まだまだ勉強が足りておらず、12 1/2と13を自信を持って分ける力量を持ち得ておりません。したがって、私は現時点では目打のグループとして全てを「Perf. 13」としてまとめて扱っています。
【注:「日本印紙カタログ 第7版」(長谷川、201)p.22にある目打別評価一覧には「13」と「12 1/2」が挙げられていますが、長谷川(2022)巻末解説p.VIIでは8 1/2, 10, 11, 11L 及び 13の5種類に整理されており、このLabノートでもこれに従っています】
【追記】古谷氏によるモノグラフ「手彫印紙の話」(1979)では「目打12 1/2」として整理されています。