【手彫証券印紙】第5次発行1銭黒:印面ヴァリエーションについて (2023/9/22 追加改訂版)
初版 2022/10/30 14:56
改訂 2023/09/22 21:34
手彫証券印紙・第5次発行(電胎版)1銭黒(洋紙、目打)印紙は彫りの精度と均一性が高く、顕著なエラーとしては、Plate II/Pos.8の「左銭字タスキ落ち」の1種類がカタログ等に収録されているのみです。
一方で、この印紙のプレートリコンストラクション作業中、ポジション同定のために印面文様を精査する過程で、実に細かいものではありますが、定常的に出現するエラーや変種(版欠陥)を発見いたしました。
いずれもごくごく軽微なヴァリエーションで、専門家の中ではおそらく古くから知られているものの、取るに足らないという判断でこれまで報告されていないものであるとは思われますが、「手彫印紙の駄物」と蔑まされたこの印紙に、少しでも収集上の魅力を与えてあげたく、加えてプレーティングの目安にも役立つものと考え、以下(あえて)ご紹介いたします。
(これらの変種については機会をみて郵趣関連専門誌などにて別途発表したく考えております)
これらの変種のうち、一部(Plate I/Pos.7, 20, 47, Plate II/ Pos. 14,24,42,50)についてはスタンペディア社のフィラテリストマガジンVol.38に「第5次手彫証券印紙(電胎版)1銭黒色(洋紙・目打)の定常変種」と題した研究報告として掲載され、Plate II/Pos.10を除く残りについては同誌に研究報告として投稿済みで、今年11月末ごろに発行されるVol.40に掲載予定です。
なお、Plate I/Pos.7とPos.20の菊紋重花弁落ちについては、同様のエラーが手彫切手の鳥45銭切手(洋紙淡紅色45銭仮名入)の、仮名イ・37番(「紋章重弁1欠け」)に対する印面変種として収録されています(「手彫切手専門カタログ 2007」p.154)。手彫切手は何と言っても収集人口が多いので、比較的軽微なエラーでもカタログにて戸籍が与えられているものと思われますが、黒1銭印紙のこれら菊紋重花弁落ちエラーも十分に通用するのではないかと考えています。
【2023/9/22 New: Plate II / Pos. 10の版欠陥を定常変種として追加いたしました】
第1版 (Plate I)
Plate I/Pos. 7:菊紋第11番目重花弁落ち(忘刻)
Plate I/Pos. 16:右警告文「紙」第8画目(横棒)途切れ(版欠陥)
2023/2/9 追加のヴァラエティです。単なる印刷のかすれと考えていましたが、単片のポジション同定作業を進める中で、定常的に出現することを確認したので、新たに定常変種として紹介いたします。忘彫というよりも版欠陥かと思われます。
このように安定して出現しています。
Plate I/Pos. 20:菊紋8番目重花弁落ち(忘刻)
Plate I/Pos. 42:右下雲紋小ループ欠(忘刻?)
Plate I/Pos. 44:左下桜紋の右波軽彫(軽彫あるいは版欠陥)
(印面の擦れによる欠陥ではなく、定常的に出現する変種であることを同一ポジションの複数の印紙で確認しています)
Plate I/Pos. 47:左下房飾りに白斑(版欠陥)
(定常変種であることを同一ポジションの複数の印紙で確認しています)
第2版 (Plate II)
Plate II/Pos. 8:左銭字タスキ落ち(忘刻)
Plate II/Pos. 10:「紙」の旁・第一画途切れ(版欠陥) [2023/9/22 発見・追加]
Plate II/Pos.10には、菊紋第8小花弁(重花弁)のすぐ下側に小点があるという版欠陥(いわゆるfly speck)があって、このLabジャーナルの別ログでも紹介しているところですが、最近入手した証書に貼られていた印紙のポジショニング作業の途中で、印面中央の「紙」の旁の第一画目が明確に途切れているという大きな版欠陥が定常的に出現することを確認いたしました。擦れと思い込んでいてこれまで全く見落としていたものです。Fly-Speckの範囲を超える版欠陥として、新しい定常変種として分類することにいたしました。全くもって手彫証券印紙は油断ができません。
Plate II/Pos. 14:左下桜文様右下波一部欠け(忘刻?版欠陥?)
(定常変種であることを同一ポジションの複数の印紙で確認しています)
このヴァラエティーは、Webで「手彫印紙」を検索していた際に、ブログ「四代目 郵趣手帖の収集日誌」の2016年5月4日付け記事で紹介されていたもので、手持ちの同ポジションの印紙を確認して、新たに定常的に出現するヴァラエティーとして追加いたしました。
ちなみにこのブログの作者は著名な蒐集家で、様々な専門誌や雑誌で記事を執筆されるほか、切手展にも専門収集を出展されておられます。手彫証券印紙はご専門ではないようですが、それにしても巨大な使用済みブロックを所有しておられるなど、さすが大コレクターだと感服している次第です。
Plate II/Pos. 24:左額面下波文様一部損傷(版欠陥)
(定常変種であることを同一ポジションの複数の印紙で確認しています)
【2023/1/12追記、2023/6/19補記】
Plate II/Pos.24については、欠陥が見られない印紙を発見いたしました。
この印紙は縦5枚ストリップ(Plate II, Pos. 4/14/24/34/44)のうちの一枚で、プレーティング&ポジション確定を行なっていたところ、あるべき版欠陥がなかったため、シートリコンストラクションが間違っていたかと焦ったのですが、反欠陥以外の文様は完全に一致すること、上下(Pos.4, 14, 34, 44)の印紙のポジションは間違っていないことから、「Pos.24の版欠陥なし」であると結論づけた次第です。
その後、マテリアルを追加することにより、版欠陥が見られない印紙を複数確認できました。
この「版欠陥なし」の完全版が存在することは、どこかの段階で版欠陥が生じたことを示唆するものです。
恐らく原版には印刻ミスは無く、実用版を作成したのちにどこかの時点で原版が損傷した、もしくは複数の実用版のうちどれかが損傷したものと考えています。欠陥に気づいて原版あるいは実用版をリタッチしたという可能性も否定はできませんが、原版の印刻時のエラーではなく、のちに版が損傷した、というストーリーが自然であると考えています。
版欠陥の有無と使用時期との関係は調査過程で、ある特定の用紙やシェードに偏っているのか否か、マテリアルを充実させて分析する必要があると考えています。
なお、このPos.24の上には、別の定常変種であるPos.14があるので、"Pos.14定常変種+Pos.24定常変種"の組み合わせと"Pos.14定常変種+Pos.24版欠陥なし"の組み合わせの、2種類の縦ペアが存在します。Pos.24に版欠陥の有無があることを示す良いエビデンスとして、ご紹介いたします。
Plate II/Pos. 42:右額面左枠一部損傷(忘刻?版欠陥?)
(定常変種であることを同一ポジションの複数の印紙で確認しています)
Plate II/Pos. 50:左下飾り小点落ち(忘刻?)
(定常変種であることを同一ポジションの複数の印紙で確認しています)